お金を増やすはサイエンス、お金を使うはアート
職業柄(ファイナンシャルプランナー)でしょうか、お金を使うのはお金を増やすより随分難しいと感じます。
まず行動のベクトルが異なります。お金を増やすは「インプット」です。いっぽうお金を使うは「アウトプット」です。
お金を増やす基本は、収入の範囲内で暮らすこと。節制、自分を律するイメージです。毎月1万円でも2万円でも恒常的にお金が残れば、お金は少しずつ増えていきます。
こんにちでは、株式市場や債券市場といった「市場全体」に隈なく投資ができるインデックスファンドという道具も普及しており、価格の変動リスクなどを許容できれば、長い目で見てより効果的にお金を増やすことが可能になっています。
お金の増やし方のコツは「仕組み化」すること。しっかりした仕事を持ち、定期収入を確保する。ムダ遣いをなくす。毎月お金を貯め、その一部をコツコツ積立投資し続ける。
お金の増やし方は普遍的であり、かつ定量で評価できます(たとえば資産「ゼロ」から15年かけて「600万円」に増やした!と数字で確認できます)。まさにサイエンス(科学)の世界です。
いっぽう、お金の使い方はどうでしょう。
毎月必要な固定生活費を除けば、何にお金を使うかは本人の自由です。お金を用いるとは、自身の内なる欲求を吐き出す行為ですから、その中身は多種多様です。きわめて個性的であり、定性的な行いとなります。
お金を使う場合、「ワタシ13万円使ったよ!」とはあまり言いません。それより「ワタシ13万円もする炊飯器買っちゃった!」というような言い方をします。つまり「何に」お金を用いるかを重視する点において定性的なのです。
何にお金を使うのか・・ここに唯一の「正解」などありません。ですので、お金を増やすより案外難しいのです。本人の生き方、価値観が反映されるため、お金の使い方はまさにアート、自己表現の世界といえるでしょう。
正直、個別にお金の用い方をいろいろ考えるより、お金を貯めて増やしていくプロセスのほうがラクな面があります。大前研一さんが「日本人は死ぬときにいちばん金持ちになっている」と言われましたが、これは案外的外れな言説ではありません。
お金はしばしば、水が入ったコップに例えられます。老後の生活に入れば、コップの水を計画的に飲んでいくべきなのに、ーというか「飲む」ために今まで水を貯めてきたのに―、いざその段になると、水が飲めなくなる。
10代の頃から真面目に知識を蓄え、ルーチンを重視してきたあなた。あまりにインプットに慣れすぎると、(もしかすると)生涯、貯める・増やすにひた走る可能性があります。
知識は積み上げるだけでなく、それを吐き出す、つまり「表現」して外に出さないと結実しません。
〇積み上げ = お金を増やす
〇吐き出し = お金を使う
誤解がないように申し添えると、お金を増やすこと、家計管理を健全にすることはもちろん重要です。しかしそれは、人生のある時期までの習慣であって、少なくともリタイアすれば、吸収から放出へと、お金との付き合い方をダイナミックに変える必要があります。
年老いても、数字として減らない(あるいは増える)お金に満足するだけの人生なんて、なんだか味気ないと思いませんか。
この文章を読んでいる人は、今はお金を増やすことで精一杯かもしれません。しかし、遅かれ早かれ、増やしたお金を『どう使うか』という宿題に向き合う日がやって来ます。(そして)そこに「数字としての答え」はないのです。
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