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宙吊りの旅館 60年経った今
建築家 菊竹清訓の名作 皆生温泉東光園に泊まった。
特徴的な白い屋根を目掛け歩みを進める。近づくと足元がライトアップされ、スクラムを組んだ6本の巨大な束の柱が聳え立ち、暗闇に消える巨大な箱を担いでいた。60年もの間、膝をつくことなく、天高く持ち上げている。
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到着は、夜中。今夜は皆生温泉に浸かり、朝からじっくり見て回ることに。
余談だが、旧暦でこの日出雲は、神在月。八百万の神が出雲に集い、各地は神のいない月、神無月とされる。出雲で泡となった魂が流れ着き、皆が生まれ変わったことから「皆生」と呼ばれてるらしい。
東光園
宙吊りの旅館とはなにか。
東光園は挑戦的な建物の構造が有名な建築である。
前日、建築家菊竹清訓が設計した島根県立美術館では、コレクション展「しまびコレクション×自由研究 どんな建物をつくる?菊竹清訓の建築設計」が開催されていた。展示されていたこの模型がわかりやすい。
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宙に浮く客室
鳥居のような構造と表現する人も多いこの建築。太い柱を結ぶ最上部のがっしりとした梁。この梁から5階と6階の床が吊られているのだ。模型上では糸で吊っており、下の写真を見ると浮いているのがわかる。
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束の柱
この特徴的な束の柱を見た時に思い出したのが、出雲大社の柱。宝物殿で公開されている巨大本殿の柱「宇豆柱」。束になった3本の宇豆柱の横にしゃがむ巫女の写真。しゃがんだ女性がすっぽり中に収まってしまいそうな太い柱が3本束になり、当時高さ96mあった出雲大社本殿を支えていたという。
しかし、宇豆柱が出土したのは、東光園が竣工した36年後の出来事である。
空中庭園
浮いた床を見上げるカタチで4階には空中庭園がある。最下層にピロティを持つこの建物は空中庭園と合わせ、世界で唯一の2段ピロティの建築といわれる。
庭園を上空から眺められる空中庭園は魅力的。しかし、個人的には、梁が露出し、天井に圧迫感を感じた。低い天井は水平線に抜けるパノラマを強調する効果があるが、がっしりとした柱がパノラマの風景を二分してしまい、気持ちいい空中庭園がと問われると、違和感を覚えてしまった。
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一方で、早朝、建物の正面にいると、この空中庭園の隙間に朝日の光がもれる。空中庭園の天井が朱色に染まる。巨大な飛行船が動き出すかのような自然の演出はとても美しかった。
シェル屋根
シェル構造により架けられた特徴的な屋根。頂点には大きなトップライトを設けている。
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シェルの中はこのような感じ。滑らかな仕上がりで綺麗な陰影のグラデーション。カーテンがより一層光の印象を柔らかく移す。
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エントランス・ロビー
まるで伝統木造建築の木組みのようにコンクリートの柱と梁が交わる。北東側には庭園が広がり、ガラス窓のエントランスに柔らかな北側採光を取り入れる。早朝は朝日が差し込む。中央の柱は深い影を落とし、花瓶の花が黄金色に光る。朝日を浴びた東光園の植物の葉が光を通し、皆の魂が生き返るように生命を神秘を見せてくれる。
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伝統木造建築のような柱は、力の流れもまた木造建築のように組まれ、和の印象を受けた。力強い構造体も現在はなかなか見ることができない。
半世紀を超え解体が進む、モダニズム建築。今後は、戦後復興期の橋などのインフラも次々に落ちていく。予算もほとんどない。価値ある遺産。過疎地域や島、主要流通網にかかる橋。未来に向けて残すべきものの取捨選択は迫られている。
皆生海岸の朝
東光園の裏手は日本海が広がる。皆生の朝日は不思議だ。朝日がのぼり始めてからだいぶ時間が経つが、海岸は光を吸収し、遠くの山は白く霞んでいる。太平洋側で育ったから不思議に見えるのだろうか。強いコントラストに掴めない距離感。なんとも幻想的な景色はいまもこの目に焼き付いている。
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