どぶろく裁判とテレビ、そして続けるということ
FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品の富山テレビ制作「国に抗った男~ヤミ米屋 川崎磯信~」を見た。
84歳になった川崎磯信さんは、30年前、違法のヤミ米をわざとわかるように販売した。米の流通を国が管理していた時代に、国が米を管理しているのに反対してのことらしい。
たまたま深夜のテレビで見た。FNS系列のテレビ局が競って作るドキュメンタリー番組なので、他にもけっこうおもしろい番組がある。
かつて、減反政策で田んぼがどんどん使われなくなった。田んぼに米を植えず、田んぼを使わなければ国から補助金がもらえるのだ。その代わり国は、アメリカで余っている小麦を輸入し、給食がパン食になった。
小学生の頃からパンを当たり前に食べていれば、日本人の好みも米からパンになり、小麦を大量に輸入できるようにする遠大な計画の一環だった。
麦も日本ではあまり作らなくなり、食糧を輸入に頼るようになっていった。昔は、どこでも見られた麦畑が消えていった。麦畑の上空で鳴くヒバリも消えた。
俳句の季語で「麦秋(ばくしゅう)」というものがある。
麦が実る季節のことだ。秋は実りの季節だが、麦が実るのは夏。麦秋の季節は夏なのだ。季語のテストにはよく出る。実際に麦畑を見て、黄色く実っている様子を知っている人が少なくなってきたから出題される。
麦は輸入したが、それでもアメリカからの米の輸入だけはなんとかおさえてきた。
今は各地のブランド米が流通している。その米の自由化にも川崎さんの裁判がかかわっている。
川崎さんのヤミ米は食糧管理法(食管法)違反で裁判になり、300万円の罰金を支払うように言われる。ただし、裁判では「食管法に矛盾がある」と言われ、裁判の判決が出た同じ1995年に食管法は廃止される。米の流通をコントロールしていた食糧庁も2003年になくなった。
川崎さんは、ヤミ米だけでなく、どぶろく作りもしていた。
米と麹菌をまぜればアルコールができる。どぶろくは、酒として発酵させただけのもの。発酵したものをしぼって、酒粕と酒にわけたものを清酒という。濁ったどぶろくに対して、清いので清酒となる。
川崎さんは、酒税法違反でこちらも罰金を言い渡された。米を自由に作って自由に売るのと同じように、どぶろくも、かつての日本と同じように自由に作りたいという思いがあったようだ。
米を作ることも、酒を造ることも、国にコントロールされていた。それに反対したのだ。
昔は各家庭で、どぶろくも味噌も漬けものも作っていた。
今は、家庭で作られるのは浅漬けの漬けものだけだ。漬けものにしても1年分のたくわんや白菜を大量に作る家庭は少なくなった。味噌やどぶろくなんて、昔から大量には作っていない。大量に作るのは商店だ。個人で少量作るだけ。それなのに法律違反になってしまう。
どぶろく裁判と言えば、川崎さんより前、1989年、罰金30万円の判決が出たのが、前田俊彦さんだ。自分の楽しみのどぶろくくらい作らせろ、という裁判だった。
その前田さんは、「ドブロクをつくろう」という本も出している。
あれっ、どっかで聞いた。本は農山漁村文化協会(農文協)から出ている。あっ、出版社、聞いたことある。昔、買った本だ。本が出たのは1981年。あたり。私が買った本だ。当時、共感したことを思い出した。
私は、本格的などぶろくまでいかず、砂糖水にパン作りのイースト菌を入れ、アルコール発酵をさせた。
自分は本を読んでどぶろく作りの前段階の理科実験に数回挑戦して終わり。
前田さんは本を出し訴え、川崎さんは国の法を変えた。
誰かが何かをして、何かが変わる。何もしなければ何も変わらない。
継続は力なりという言葉が強く心に残る。