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古川柳十篇② 飲まぬやつ一日拝む花の山 柄井川柳の誹風柳多留

 酒は人格を変える。酒の席でのあれこれは、江戸時代も今もあまり変わらないようだ。
 江戸時代に柄井川柳からいせんりゅう(1718~1790)が選んだ川柳をまとめた「誹風柳多留はいふうやなぎたる」を紹介している。全5回の②。
 読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、そして七七のお題(前句まえくという)をつける。調子に乗ったら、自己流の意訳と、七七のコメントをつけているものもある。 



飲まぬやつ一日おがむ花の山


340 のまぬやつ一日おがむはなのやま  前句不明

 花見では、みんな酒を飲んでいるけど、下戸げこで酒が飲めない人は、酒をすすめられるたびに、「すいません。飲めないのです」と手を合わせておがみながらことわり続けている。
 昔は焼酎やジンをストレートで飲んでいたけど、今は全然飲めなくなった。酒の席では、「すいません」とことわり続けている私。 



しよせんしょせんなく桜へ登り降りられず


201 しよせんしょせんなくさくらへのぼりおりられず  前句不明

 「所詮しょせんなく」は、不甲斐ふがいなく、の意。酔っ払いの句。
 花見の途中で調子に乗って桜の木に登ったはいいが、下を見ると恐くなって降りられなくなってしまった。酔っ払いあるある。
 酒を飲み調子に乗ってむちゃくちゃをよくやってきたなあ。若き日の懺悔ざんげ。 



枝豆でつっぱってくるじゅうのふた


138 枝豆でつつぱつてつっぱって来るじゅうのふた  おくりこそすれおくりこそすれ

 「じゅう」は重箱じゅうばこのこと。重箱に枝豆を入れるのは、旧暦九月十三夜。十三夜は「豆名月」といって月をでた。日本人は月見団子の中秋の名月だけでなく、いろいろな月を愛した。そしてその旬の食材と月が結びついている。
 この句は、枝豆を入れすぎたので、重箱のふたがきちんと閉まらない様子を詠む。

冷凍庫食材次々入れすぎた
次の食品入れるに入れれず
 



訳を聞かぬはやみと月夜なり


242 いわけをきかぬはやみと月夜なり  次第しだい次第に次第次第に

 「闇と月夜」の「闇」は大晦日おおみそかの闇夜。旧暦は月の動きで暦を作っているので、大晦日はちょうど新月となる。「月夜」は十五夜の晩だが、旧暦では十五日、満月の夜。ここでの十五日は、七月十五日のお盆。この日は半年の支払日。大晦日も一年の支払日。支払日に、借金取りは言い訳を聞いてはくれない、という句。
 今のアイフルやアコムのように江戸の人も借金生活をしていた。前句の「次第しだい次第に」は、どんどん借金が増えていくって意味かな。前句の意味がよくわからないものも多いが、七七の前句がなくても五七五だけでわかる句が多い。
 昔の人は月の動きで生活していた。夜も暗いので、満月と新月では明るさが全然違う。
 月の話もいろいろ書いてきた、


  さて、今日の月はどんな形だ、月齢は何日だろう。
 現代の我々は空を見上げることがあるだろうか、

 


次回に続く、 

 


誹風柳多留はいふうやなぎたる」のまとめは、

  


 タイトル画像は、長沢芦雪ろせつ(1754~1799)の作品の模写。屏風びょうぶの右に滝の絵、左の数羽の鶴を描いた絵の一部。京都で活躍していた芦雪ろせつは同じような構図を趣向を変えながら何度も描いている。
 江戸の浮世絵は木版画で大量生産されたが、芦雪ろせつ屏風びょうぶ画などの肉筆画は世界に一つしかない作品となる。それが現代に伝わっていることはすばらしい。せっかく残っているものだから、もっと知ってほしい。

瀧に鶴亀図屏風部分


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