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悪七変目景清①~江戸のドラマを集めた黄表紙
平家の武将、藤原景清は、獰猛なため悪七兵衛と呼ばれ、芝居で何度も上演された。江戸の人々にとっては、虚実おりまぜ、有名な歴史上の人物だった。
それらの話をおりこんだ、「悪七変目景清」は、山東京伝作画の黄表紙、天明六年(1786)刊行の上下二巻、蔦屋重三郎版である、大人の絵本の現代語訳。
それを二回に分けて紹介する。
上巻
一
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♪消えぬ便りも風なれや、露の身いかになりぬらん
さても寿永三年三月下旬、屋島の戦破れてより、平家の侍、悪七兵衛景清、世をしのび、頼朝公をつけねらいけるが、頼朝殺害に失敗し、頼朝の盛りを見るのも口惜しいと、両目をえぐり出し、盲目となって日向の宮崎に引っ込み、日向勾当と名乗りける。
と書けば、とんだ真面目な作品だと思いなさろうが、次のページにいってみな。
景清「♪こうなってみれば、またまたなかなか味のある世の中じゃなあ」
二
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明けましてよい春のことなりしが、頼朝公、景清がくり出した両の目玉を、
「袋のヒモを締める『緒じめ』にでもしろ」
とて、家臣の畠山重忠にくだされしが、重忠は、
「ばからしい。頼朝様としたことが、生の目玉がどうして緒じめになるものか。いいものをやろうとくださったけどねえ」
と、とある掃きだめへすててしまいけるが、このごろうわさで、あの両目、幕府のある鎌倉を徘徊して、
「平家のアダ、頼朝をにらみ殺してくれん。どうするかは、長い目でご覧になってくだされい」
などと、気長な謀反をたくらむが、そのままにはできず、物語のストーリーのとおり、重忠に捜査の役目を与えけり。
重忠「さすれば、両目たちは、いまだに納得できていないようにみえまする」
三
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今月は岩永(致連)の当番なので、配下の役人、景清の目姿絵をもって鎌倉中を捜査する。
役人「急に目が見えるようになった者がいたら連れて来い。そのほかすべて、目に訳ありの者は気をつけませい。大切な目しうど(召人=犯人)だ。必ず取り逃がすまいぞ」
役人「わしは調べる役目、そのほうはここの目代、つまり代官で、目に縁ある者だ。岡目八目というから、言いつけるおいらの目より、言いつけられるそちらの目がよくわかるだろう」
町人「急に目のあいた盲人はござりませぬが、町内の道楽息子で、このごろようやく目が覚めたのがござります。そいつも連れて来ましょうか。そして、路地の芸者が、いつも色目をつかってなりませぬ。こいつも目にいわくがある者でござります」
町人「はいはい、かしこまりました。どうも目薬の看板とまちがえそうなことだす」
四
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鎌倉の入り口に、人目の関という関所をつくり、旅人の目を調べる。少しでも景清くさいやつは、特によく吟味する。
岩永「あがり目、さがり目、ぐるりと回して通りましょう♪」
「目がね目がね」と声を出すメガネ屋の商人は、目に縁はあれども疑わしきわけではないので、関所の前を平気で通る。
五
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隠密回りの役人、申しあげ、
「この間見うけますれば、目の四つある者が徘徊いたします。こいつは疑わしいやつだとぞんじます」
と訴えければ、
「それこそ確かに景清なり。そうそうに召し捕るべし」
と申しつけ、やがて白州へ引き出しける。
役人「ご覧なさいませ。目が四つございます」
男「そんな疑わしい者ではございません。中国の蒼頡という者でごんすよ。わたしゃ目が四つあることで有名ですじゃ」
岩永「おきゃあがれ。そいつは歴史人物事典で見たやつだ。とんだムダをした」(蒼頡は、文字を発明したという伝説上の人物)
男「目が多いから景清なら、八目鰻も景清でごんすか」
六
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箱根の先にて目の三つある大入道を捕らえ来たり、吟味のうえ、土牢へ入れておきけるが、これは化け物の親玉、三ツ目入道であり、妖怪なので、すぐに消えてしまうはずなれど、それじゃあんまりおもしろくないと、牢を押し破り、岩永の配下の番人たちを、さんざんに踏み散らかして逃げ失せる。
♪さてさて、これより二冊目突入、重忠が当番となりますので、よろしくご覧くだされい。
次回につづく、
黄表紙の始まりといわれる「金々先生栄花夢」の現代語訳は、こちら、
黄表紙の代表作「江戸生艶気樺焼」の現代語訳は、こちら、
これらの中に、他の黄表紙の紹介もあり。