見出し画像

春のカラスノエンドウと赤いエンドウマメについて考える

 カラスノエンドウの花が咲いている。
 学校帰りに細長くできた豆を笛にしてピーピー鳴らしていたピーピー豆だ。
 可愛らしいカラスノエンドウだが、もっと小さくて笛にもできないのがスズメノエンドウだ。これらはエンドウといっているが、実はソラマメの仲間だ。
 エンドウマメとは違うが、エンドウマメもソラマメの仲間も、みんな原産地は地中海のあたりらしい。アジアの稲作ではなく、ヨーロッパの麦作が始まったころ、麦の間に豆類が生えていた。その中にこれらの豆があり、カラスノエンドウは食用にもしていたそうだ。また、豆類は根にある根粒細菌が窒素を生み出すので、畑に埋めると肥料になる。そうして麦と一緒に育てられた。


 エンドウマメも同じように育てられ、品種改良も進められた。
 おなじ豆類の大豆は、モヤシ、枝豆、豆乳、豆腐、節分の豆、と多様な使われ方をしているが、エンドウマメも、いろんな用途でつかわれている。
 種から芽を出し、ちょっと大きくなった苗は豆苗(とうみょう)として、大きくなりすぎたモヤシとして食べる。実ができて、まだ若いものはキヌサヤとして、サヤごと食べる。大きくなったらサヤから出して、グリーンピースとなる。豆ごはんもグリーンピースを使う。トウモロコシの若い実をスイートコーンとして食べているのと同じ。トウモロコシも熟れるとカッチカチの実になるが、エンドウマメも熟れると堅くなる。だから堅い豆を料理に使うときは、水に浸してやわらかくする。熟れた実は、煮豆、甘納豆、うぐいすあん、などの原料になる。また、エンドウマメには赤い実のものもあり、こっちはみつ豆の豆や、豆大福の豆となる。


 エンドウマメはちゃんとした料理だが、カラスノエンドウも、かつては食用にされていたように、食べられる草だ。野草を食べると考えるとおもしろい。
 カラスノエンドウは、本当は「ヤハズエンドウ」という。矢筈(ヤハズ)は、弓矢の矢を弓に引っかけるへこんだ部分のことで、カラスノエンドウの葉っぱがそれに似ているからついた名前だ。
 若い芽は、天ぷらやおひたしにできる。若い実はキヌサヤのように食べられる。大きくなった実は、サヤが堅く筋っぽくなるので、中の豆を取り出して料理する。ちょっとめんどくさい。だから大きなエンドウマメに取って代わられた。エンドウマメもどんどん大きな実ができる種類が中心となっていく。


 エンドウマメの仲間で、サヤが赤くなる、ツタンカーメンのエンドウというものがある。
 赤いエンドウマメを植えている学校がけっこうある。エジプトのエンドウといい、ツタンカーメンの墓から出土したといわれる。エジプト文明は紀元前の文明で、今から3000年前になるので、当時の植物が今もあれば、すごいことだ。でも、ツタンカーメンの豆だといって学校で育てたりしているのは日本だけらしい。
 今でもプラントハンターという人がいるが、昔は新しい植物を発見したら大金持ちになることもあった。昔、赤いエンドウマメを、「エジプトのエンドウ」、「ミイラのエンドウ」として広めていた。
 1922年、ツタンカーメンの墓が発掘されニュースとなると、今度は「ツタンカーメンのエンドウ」として広がったらしい。同じ豆の名前を変えて売り出した。墓の発掘品の中に、エンドウマメの種なんてないし、ツタンカーメン展でエンドウマメの種など展示されていない。あくまでも商品としてのネーミングだ。

 日本に赤いエンドウが入ってきたのは、高校生がアメリカ人と交換したエンドウの種が発芽したという記事が1957年5月21日付読売新聞に載っているときのようだ。ツタンカーメンの墓から出土したと書かれているが、そんなに話題にはならなかった。
 その後、1985年2月22日の朝日新聞「天声人語」で、ツタンカーメンのエンドウを小学校で栽培しているという記事が出た。今度はNHKでも放送され、「5年の科学」のフロクに、エンドウマメの種がついた。
 きっかけはやはり朝日か。
 1989年(平成元年)、朝日新聞は、沖縄のサンゴに傷がつけられていると大々的に報じたが、実は朝日新聞のカメラマンが自分で傷をつけ、自分で撮影したやらせだった。自然破壊と環境破壊に対するキャンペーン記事を掲載していた朝日新聞がアピールするにはちょうどよかったのだろう。環境保護のために環境破壊。
 やらせのカメラマン以外の記者は、思い込みの激しい人が多いのかな。これは大変だと、心底サンゴを心配して、よかれと思って誤報を大アピールした。1985年の「天声人語」も同じ。
 ツタンカーメンのエンドウマメを育てている人も、これはすごい豆だと思って何年も育てているのだろう。

 エンドウマメひとつにも多くの歴史がある。
 ましてや人間に……。

 一人一人の人生を大切にしたい。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?