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古川柳十篇① 一歩でもあるうち息子とかまらず 柄井川柳の誹風柳多留
親子の関係は、昔も今も同じようなもの。遊んでばかりいる息子に手を焼いている親。おやおや。
江戸時代に柄井川柳(1718~1790)が一般庶民の句を選んだ川柳(現代の川柳と区別して古川柳と呼ばれる)をまとめた「誹風柳多留」(1765~1840)を紹介する企画も、最後の十篇となった(1775刊、実はその後も出版された)。5回にわけて紹介する。
古川柳は、七七の前句と呼ばれる題材に対して、五七五の句を創るもの。優秀作には賞金が出る大喜利のようなものだった。現代にも通ずる江戸の生活と人々の思いを川柳を通して見ていきたい。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、そして七七のお題(前句)をつける。調子に乗ったら、自己流の意訳と、七七のコメントをつけているものもある。
一歩でもあるうち息子とかまらず
113 壱歩でも有るうちむす子とかまらず しげしげな事しげしげな事
お金が一歩でも残っていたら、息子はどこかで遊んでいるのだろう。一両小判は四歩。江戸中期の一両は4~6万円らしいから、一歩は1万円くらい。前句の「しげしげな事」は、ここでは「絶え間がない」の意だろうか。前句の意味がよくわからないものもあるけど、五七五だけでわかる作品がほとんど。
少しでも金のあるうちつかまらぬ
息子はどこで遊んでいるやら
バカ息子を描いた黄表紙現代語訳はこちら、
九篇でも紹介した「江戸生艶気樺焼」だが、江戸の町人が話題にした黄表紙の代表作を、一度は目にしてほしい。「こうなったらダメやでぇ」という教訓がいわれ、ダメなことは笑われた。人々は、笑われないように気をつけている。そんなことが少なくなって、自分中心の現代社会。周りの目なんて気にしない。現代の我々は、江戸時代からどれだけ進歩しているのだろうか。
つかまった時分は娘空財布
168 つかまつた時分は娘から財布 前句不明
娘が捕まったというのは、男と駆け落ちしたのだろう。とうとう家族に見つかってしまった。そして見つかったときには逃走費用を使い果たしていた、という句。
今でも家出して、お金がなくなったら帰ってくる子もいる。まあ、帰ってくるだけマシで、そのまま闇に落ちて犯罪者となるよりははるかにいい。
藪医そのくせにうるさく多言なり
105 藪医そのくせにうるさく多言也 しげしげな事しげしげな事
藪医者は、腕がないぶん、ぺちゃくちゃと説明ばかりする。今でも、どうでもいい説明を長々する医者もいる。ああ、俺の前の患者たちにも、こんなに長話をしていたんだ。これじゃいくら待っても診察の順番が来ないわけだ。
長く待ち診察数分はいおしまい
それでも薬もらいに通う
焼き魚団扇を読んで叱られる
185 やきざかなうちわを読んで呵れる すわりこそすれすわりこそすれ
炭で魚を焼くときは、座り込んで団扇でパタパタ風を送る。七輪でも使っているのかな。お風呂だったら火吹き竹でフーフー風を送る。炭火に酸素を供給して火を起こす。キャンプのかまどでも、風通しをよくしないと火がすぐ消えてしまう。キャンプの火が消えたら、すぐにフーフーと息を吹きかける(酸素を供給する)と、もう一度火力が増してくる。そんなことも今の子は知らない。スイッチを押すだけで火が付いてしまう。
句に返ると、団扇で魚を焼いていると、団扇の文字が気になった。当時の団扇には、謎解きなどが書いてあった。それを見ていたら、ついつい夢中になって、魚を焼く手が止まってしまうというのだ。
断捨離をしていて古い本が出る
も一度読んでて一日暮れる
うちわの謎解きは今はなくとも、古い本やノートを見てしまうのは昔も今も同じ人の習性。
温故知新で、サラリーマン川柳を見るように、古川柳も見て、知ってほしい。
サラリーマン川柳はこちら、
次回に続く、
「誹風柳多留」のまとめは、
タイトル画像は、「奇想の画家」といわれる江戸時代の画家、長沢芦雪(1754~1799)の作品の一部。
京都に住み、犬を多く描いた図には、同じ犬の同じ構図を、情景を変えて何度も描いている。この図は雪が降る中の二匹だが、白黒の子犬はいつも後ろ向きの図になっている。師匠にあたる円山応挙(1733~1795)の「仔犬図」では、同じ模様の二匹の子犬の図がある。そこでは白黒の子犬は正面を見ている。そのキャラクターをリスペクトしながら、わざと白黒の子犬を後ろ向きにしているように思える。師匠も弟子も、かわいい子犬を描いている。
また、この肉筆画は黒い紙に絵の具を重ねている。こういう技法も芦雪は一時期好んだ。
江戸の絵画は、浮世絵だけでなく、いろいろな作品がある。
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