親敵討腹鼓②~「カチカチ山」の後日譚
皆の知っている昔話を、茶化して表現した物語。
「親敵討腹鼓」(安永6・1777刊)、朋誠堂喜三二作、恋川春町画の上下二冊の黄表紙下巻の現代語訳。
婆を殺したたぬきを殺したうさぎは、たぬきの息子から、親の敵とねらわれる。婆の息子の軽右衛門は、主人のために、頭の黒いうさぎの生き肝をさがすが、頭の黒いうさぎが婆の敵討ちをしてくれたことを知り、うさぎをねらうたぬきと争う。ここまでが上巻。
さて下巻では、どうなることやら。
下巻
九
軽右衛門が、たぬきと争うのを聞きて、うさぎ、うなぎ舟より飛び出て、うなぎ割きの包丁にて切腹する。
うさぎ「軽右衛門様が私をかばいなさるのも、たぬき殿の私を討たんとされるのも、みな孝の道を通そうとする義理ずく、とても逃れることのできぬこと。はやはや生き肝を取りたまえ。そのあと、たぬき殿は存分に親の敵を討ちたまえ」
軽右衛門「その傷では、もう助かるまい。不憫ながら生き肝を取りて、主君への忠義をはたさん」
狸「さっさと生き肝を取って、次は体をこちらへお渡しあれ」
十
平家は船に乗って讃岐で滅び、たぬきは泥の船に乗ってうさぎのために滅び、うさぎはうなぎ船にて漢方薬として、天然痘の薬となれり。みなみな、これ、前世の約束事なるべし。
芦野軽右衛門「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
宇津兵衛は、謡曲を歌い出すと、たぬきは得意の腹鼓を打つ。
うさぎ、胆を抜かれ、気もたえだえとなるところを、たぬきは、
「親の敵、思い知れ」
と胴体を輪切りにすれば、上の方は黒い鳥となり、下の方は白い鳥となり、飛び行きけり。うさぎを二つに切ってできた鳥なので、上の黒いのを鵜と名付け、下の白いのを鷺と名付けた、このときより始まりしことなり。
狸「一つの命を、生き肝と敵討ちと二役に使うだけでなく、二つの命にかえるとは、こりゃ作者のたいした計算だ」
宇津兵衛「さてさて、クライマックスのないドラマのような敵討ちだ」
十一
先頃、白狐の会合で、たぬきの手助けで、宇津兵衛にきつね三匹を打たれしこと、コンコン後悔先にたたず、きつねは、敵の猟人ならびに協力者のたぬきを討たんと、はかりごとをもって、まずは、たぬきをだまし、ていねいな願いごとをする。
猟人に打たれたきつねの子ども、敵討ちをしたいと願う。
白狐「タンタンたぬきよ、なんじの仲間の宇津兵衛なれども、彼をだまして連れてきて、この子ぎつねたちに敵討ちをさせてくれるならば、なんじを讃岐ならぬ、たぬきの金比羅として祭ろう。この金は、当座の資金なるぞ」
狸「へへえ。かしこまりました」
狸「敵討ちのお礼に、宇津兵衛をわが家の穴に招きます。みなさまは、先にわが家の穴に忍び、たぬきの金玉を広げるのを合図に、仇をむくいたまえ」
と計画し、しめしあわせけり。
たぬきは、木の葉を小判なりと思いよろこぶ。同じ化仲間でも油断のならない世の中なり。
十二
たぬき、宇津兵衛を穴に招き、木の葉を小判と思い、引き出物として出しければ、猟人、おおきに腹を立て、
「おれを化かそうとはふといやつだ」
と言うけれど、たぬきは木の葉とは思わず、争い、
「その金がいやなら、こっちの金をやろう」
と、金玉を広げてうちかけると、三匹の子ぎつね飛び出して、金玉の上から猟人を突き刺す。
子狐「おれらの親方、白狐殿の計画、みたか。よくもよくも、猟人を連れてきて、おれの親父を殺させたな。今こそ思い知れ」
子狐「親の敵、思い知ったか」
子狐「いつかは宇津兵衛を討つべえ、うつべいと思いしが、コンコン今日コンコンコン」
宇津兵衛「だまされたか。無念無念」
狸「これこれ、金玉の上から突かれたら玉々たまらない」
となりの穴のたぬき、手伝いに来ていたが、この様子を見て逃げ出す。
十三
さても夏の頃、おおいに日照りがつづき、うなぎやどじょうが品切れになり、中田屋も商売ができず、おおいに難儀し、妻のお花は、三両の金に困り、無間の鐘をつけば、不思議や不思議、鵜と鷺がやってき、三両分のうなぎとどじょうをはらりはらりと吐き出す。
お花「これは夢かうさぎ(現)か」
鵜、鷺、生前の恩を報ずる。
鵜&鷺「これを売って、命をつなぎたまえ」
鵜が反吐のように吐き出したうなぎ、格別の風味があり、その後「へど前大蒲焼き」と看板を出したものの、ちょっときたならしいので、「江戸前」と改めると、日増しに繁盛しけり。
十四
かくて軽右衛門、生き肝をさしあげければ、侍に取り立てられ、芦野重右衛門と改め、重く用いられ、田舎の親父をひきとり、大切に養い、自身もだんだんと立身出世して、富み栄えけり。
父「長生きをすれば、また、このようなめでたい春にもなりもうす」
重右衛門「千代万代もお栄えを願いたてまつります」
喜三次(喜三二)戯作
恋川春町画
黄表紙を含む絵本である草双紙は、もともとは赤本、黒本とよばれるもので、昔話やお芝居の名場面を描いていた。黄表紙は、それに浮世、つまり現代を描いている。現代の中に、吉原の遊郭が出てきたりするので、「大人の絵本」といわれるのが黄表紙である。
本作でも、「カチカチ山」の昔話の後日譚として描く中で、江戸前の鰻の蒲焼きが出てきたり、日照りが続いて雨乞いをよくした時代背景が見られる。
雨乞いの川柳は、
596の句、
488の句、
これらの川柳をまとめたものはこちら、
あっ、そうそう。黄表紙の新刊は正月に発行されるので、内容もめでたいものが多くなっている。
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