推し活をする人の分類に関する研究:ウェルビーイングとアクティブ度に注目して
著者:片岡洋和・京角幸樹・西脇花音・福井美海・藤谷章乃・藤原伊織・
藤原菜々美・松本明太・松元萌々花・南山千紘・六車碧玖
監修:羽藤雅彦
はじめに
近年、日本のポップカルチャーにおいて「推し活」という現象が注目を集めている。「推し」とは、アイドルやアーティスト、キャラクターなどの熱心に応援している対象を指し、「推し活」はそれらを支援する活動全般を意味する。この現象は単なるファン文化の一形態にとどまらず、現代社会における個人のアイデンティティ形成や消費行動、さらにはウェルビーイング、コミュニティ形成にまで影響を及ぼす重要な社会現象として認識されつつある。
本研究では、推し活へのアクティブさと個人のウェルビーイングに注目し、推し活を行う消費者を分類することを試みる。さらに、分類後のグループ毎にどういった特徴が見られるか、具体的にどういった活動を行っているかを定量的・定性的なデータを用いながら考察する。
なお、本研究はnoteでの公開を前提としているため、論文のようにアカデミックな書き方を優先するのではなく、やや砕けた表現にしている箇所もある。また、今年度の卒業研究については極力教員で修正はしないようにしている。
1. 推し活
1-1. 推し活とは
近年、世間でよく耳にする推し活とは一体何か。推し活とは『「推し」のために時間やお金を消費したり、あるいは他者に薦めようとしたりといった特徴的な行動』(長谷川・福崎 2023, p.29)のことである。これはアイドルグループのファンの間で自分が特別に応援しているメンバーのことを「推しメン」と呼ぶことが、おおよその始まりだと言われている。(正木 2023, p.53)
現在では推しのジャンルはアイドルだけでなく、俳優やスポーツ選手、アニメキャラクターなど様々な分野に広がっている。この要因となったのがソーシャルメディアの登場である。とりわけTwitter上で生まれたハッシュタグがその活動を後押ししている。ハッシュタグの登場によって、テキストや画像の投稿に補足情報を加えることが可能となり、自分の投稿がどういったテーマに属するものかを簡単に説明することができるようになった。さらに、投稿にハッシュタグが付与されることによって、閲覧する側もハッシュタグをクリック/タップすればそのテーマと関連する情報を容易に閲覧することができるようになった。その結果、様々な場で推しを共有する人々のコミュニティが生まれることとなった。
推し活は多大な経済効果を生んでいる。事例として、2024年9月中旬に開催された人気歌手LiSAのライブ会場での出来事を挙げる。ライブではソニー銀行とコラボした、ツアー開催記念限定デジタルコンテンツプレゼントキャンぺーンを行った。このキャンペーンでは、ソニーグループが運営する「SNFT」というサイトをダウンロードし登録することで、参加者限定にコンテンツをプレゼントするというものである。この取り組みを通したソニー銀行の狙いとしては、主な顧客であるファミリー層以外の新たな顧客の獲得である。また、アプリを通じて推し活を楽しんでもらった後に銀行サービスの利用を高めたいという意図もある。このように推し活は企業とコラボした形で経済効果を生み、『推し活市場は新型コロナウイルス禍の落ち込みを経て再び拡大傾向にある。』(日本経済新聞 2024.10.24)
このように推し活とのコラボは企業にとって、利益を向上させる要因の一つであると考えられる。実際に2022年度の日本におけるアイドル・アニメに対する推し活消費額は約4500億円(矢野研究所)であり、この金額はこれからも増加を続けると推測できる。
このような経緯から、現在では推し活に時間と費用を使っている人が多く見られる。そこで、推し活にかけた時間と費用は生活の充実度にどう影響しているのかを明らかにしたいと思い調査を行った。
1-2. 類似概念との整理
「推し活」の類似語に「オタ活(ヲタ活)」や「推し事」「応援消費」がある。「オタ活」とは「オタク活動」の略で、趣味や 興味のある分野に深く没頭する活動を意味する。推し活とオタ活には明確な定義はないが、オタクにはネガティブなイメージを持たれることが多かった。オタクの語源は「御宅」つまり「家」を示す言葉であり、家の外で活動する人たちとは異なり、家で黙々と趣味に講じる人のことを指している。そのため、「ネクラ」や「キモイ」などのネガティブなイメージを持たれることが多かったのだと考えられる。(宮田 2024, pp.88-89)しかし、インターネットが普及したことをきっかけに今まで狭いコミュニティでしか手に入らなかった希少な情報が共有しやすくなったため、オタク文化が浸透していった。(正木 2023, p.55) またオタクを公言する著名人が見られるようになったため、否定的な捉え方をする人が減少していくようになった。
1990年代後半から2010年までに生まれた「Z世代」といわれる若い世代の中では、推し活のことを「推し事」とも言っている。推し事は「お仕事」にかけて作られた言葉で、「推しの売上に貢献したい」「推しが人気になるための後押しをしたい」などの使命感や義務感を持って推しを応援することである。「応援消費」とは「苦境の人や企業を消費で支援する動き」(水越 2022, p.2)を意味する。この言葉は、東日本大震災の被災地復興支援活動で使われるようになった。具体的な活動としては、「東日本大震災の際には、義援として東北産のリンゴを購入する人たちがいた。観光で被災地に赴くことも応援消費になる」(水越 2022.pⅱ)とあるようにその地域で特産品の消費や観光でお金を落とすことで復興資金を増やすような動きがあった。その後も、「新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた生産者や店、アーティストらを消費で支援する動きが盛り上がりました」(水越 2022, p.2)とあるように、近年の苦しい状況下でも「応援消費」は使われているため、「推し活」とは異なる概念である。
このように推し活とオタ活は類似しており、時代の変化とともに名称が変化していった。一方で応援消費は、苦境の人達を支えたいという思いが強く、自分の充実度向上や推しを応援したいという推し活とは異なるということが分かった。本研究では我々の周りで増加している推し活に着目して調査する。
1-3. 推し活の具体例
具体的に推し活とはどういった活動のことを指すのか。推し活における対象は、その特性から大きく3つのジャンルに分類することができる。第1のジャンルはアーティスト(アイドルを含む)、第2のジャンルはタレント(主に俳優・声優)、第3のジャンルは2次元コンテンツ(主にアニメ・ゲーム・漫画)である。本研究では、これらの人物性を持つ対象に焦点を当て、施設や動物などの非人物的対象は考察の対象外とする。推しのジャンルごとに実際に行っている推し活の内容について、以下に簡単にまとめる。
第1のジャンル、アーティスト(アイドルも含む)を推している人は、直接パフォーマンスを体感し、それに応えて声援を届けるイベント/ライブ参戦、推しの出身地やドラマ・映画・のロケ地を直接訪れる「聖地巡礼」、この聖地巡礼を行うなかでファン同士で場所の情報共有や一緒に訪れたりするなどファンコミュニティも深まる。
第2のジャンル、タレント(主に俳優・声優)を推している人は、「舞台鑑賞、ドラマ鑑賞、試写会や舞台挨拶といった作品のイベント参加」などの推し活を行っている。また、第1のジャンルと同じく、「聖地巡礼」やSNSでのライブ配信で推し活を行う。
第3のジャンル、2次元(主にアニメ・ゲーム・漫画)を推している人は、「コラボカフェ」、アニメの舞台となった場所を訪れる「聖地巡礼」「2次元アイドルのライブ参戦」などを推し活として行っている。そして、ジャンルを問わず、ペンライトやうちわ、Tシャツといったライブで販売されるグッズやアニメ・ドラマの公式グッズの購入も推し活に含まれる。グッズ購入後、部屋に飾ったり、日常生活で使用したりできる。また、同じグッズの異なるバージョンを全種類集めるファンもいる。経済的な負担はあるが、推しの支援に繋がるため、多くのファンが行っている。X(旧Twitter)やInstagramなどのプラットフォームを使用して推しの魅力をSNSで発信することも推し活において重要な役割のひとつである。推しの写真や動画、情報、推しへの応援メッセージ、推しの記念日にはお祝いを投稿する。ハッシュタグを使用することで同じファンとつながり、情報の共有ができる。
このように、推す対象は異なったとしても、ライブイベントへの参加、聖地巡礼やグッズの購入など、推し活の具体例から検討していくと、大きな差は見られないことがわかる。
1-4. 問題意識
ここまでの議論からわかるように、一般的に推し活は推す対象によって分類分けが行われている。しかし、より幅広い対象すなわち推し活をする人すべてを分類する基準の提案ないしは分類結果についての研究は行われていない。そこで本研究では、推し活をする人の充実度 (ウェルビーイング)、アクティブさ等の特徴から、分類分けを行う。これにより、企業がマーケティングを行う上での指針を明らかにすることで、推し活による経済効果を期待する。
2. 推し定量的分析
2-1. 調査目的
推し活の現状把握の為、また分類を行うことを目的にアンケート調査を行った。調査は2024年6月、大学内のコミュニティを通じて男女332人にアンケートを行っている。以下の表からわかる通り、10代〜50代以上の男女が対象である。
2-2. 調査概要
最初に、性別によって推し活に差があるかを調べるためにHADを用いてt検定を行った。「推し活の有無」「自由に使えるお金のうち推し活に費やす金額は年間にどれぐらいか」「自由に使える時間のうち推し活に費やす時間は一日にどれぐらいか」などの項目を用いて分析を行ったがどの項目についても性別による傾向の違いは特に見られなかった。
次に動機によって推し活へのアクティブさに差があるのかを調べるために動機に関する分析を行った。調査項目については、動機として考えられる項目を30個用いており、それぞれ5段階のリッカート法で評価してもらっている。30個の変数を用いて探索的因子分析を行ったところ大きく二つのグループに分けることができた。
各因子に強く寄与する変数が多かったため、今回は各因子から上位4項目〔(Factor1:楽しくて好き、気持ちが盛り上がるから、幸せになれるから、元気になれるから)、(Factor2:推しを布教したいから、地元でライブをしてくれるから、推しを経済的に支援したいから、自分の趣味をアピールできるから)〕を使って推しに使う金額を目的変数に重回帰分析を行った。
その結果、「元気になれるから」、「推しを経済的に支援したいから」、「自分の趣味をアピールできるから」の項目からの有意な影響が見られた。(R²=.170,p=.00;元気β=.317,p=.021;経済的に支援β=.162,p=.049;アピールβ=-.247,p=.002)
なお、「自分の趣味をアピールできるから」の係数がマイナスになっている理由としては推し活をしている人ほどお金を使わないか、あまり推し活をしていないにもかかわらず推し活をしていると思い込んでいる人がいることが考えられる。「元気になれるから」の係数が高いことに注目し、この項目に着目してさらなる調査を行うことにする。
2-3. 分類基準としてのウェルビーイングとアクティブ度
本研究では推し活をする人を分類する基準としてウェルビーイングとアクティブ度を用いる。前者については、推し活と元気になれるという点には強い関係が確認できたためである。この点を受け、推し活が幸福のような側面に寄与していることに注目し、より深い議論を行いたい。なお、推し活とウェルビーイングについて先行研究でも論じられている (井上・上田 2023)。
ウェルビーイング (Well-being:幸福) とは、「個人や社会が経験するポジティブな状態のことである。健康と同様、日常生活の資源であり、社会的、経済的、環境的条件によって決定される。 ウェルビーイングとは、生活の質、そして人や社会が意味や目的意識に従って世界に貢献する能力」 (健康促進用語集 2021) を意味する。
ここではウェルビーイングについては「私の生活は最も理想に近い」「私の生活の状態は素晴らしい」「私は自分の生活に満足している」「これまでに人生で大切なものを手に入れた」「もし人生をやり直すことができたら、ほとんど何も変えないだろう」の質問から分析を行った。この質問に対する数値が高いグループは自分の推し活に充実しているため満足をしていることがわかる。一方で、この数値が低いグループに属する場合は、自分の推し活が充実しておらず、不完全燃焼な状態であると推測できる。
ウェルビーイングに加え、推し活を実際にどの程度行っているかを示すアクティブ度も重要である。アクティブ度についてはあなた自身の推し活によって変化があったか「友達が増えましたか」「行動範囲が広がりましたか」「趣味が増えましたか」という3つの質問から分析を行った。この結果から数値が高かったグループは、推し活を始めたことによって、同じ趣味を持つ友達や推しに会うための行動範囲、推しの影響を受けた趣味など、推し活を始めてからの私生活に大きな変化があったといえる。
2-4. クラスター分析
次に、推し活を行う人を分類するため、ウェルビーイングとアクティブ度を用いてクラスター分析を行った。なお、それぞれのクロンバックαも0.735(アクティブ)0.910(充実)と確認している。以下では、それぞれの因子得点を用いて分析を行っている。分析については、非階層クラスター分析を行いクラスター数にあたりをつけ、階層クラスター分析を行いグループ分けを行っている。その結果、大きく5つに分類可能なことがわかった。
1つ目のクラスターはかなりアクティブ度が高いにもかかわらず、ウェルビーイングがやや低い傾向があるため、「迷走オタク」というグループにした。(アクティブ0.6 充実-0.19)
2つ目のクラスターはウェルビーイングもアクティブ度も低いため、「ノーマル人間」というグループにした。(アクティブ-1.35 充実-1.2)この層の人たちは、特定の推しがいないと考えられるため、ライブやグッズを購入するという行動が見られず充実も低いと考えられる。
3つ目のクラスターはウェルビーイングも高く、アクティブ度も高いため「溺愛オタク」というグループにした。(アクティブ0.65 充実0.91)
この層の人たちは、推しに対してお金を惜しみなく使う傾向があり、ライブやグッズを必ず購入していると考えられる。
4つ目のクラスターはウェルビーイングがやや高く、アクティブ度は低かったため、「非オタ」というグループにした。(アクティブ-1.17 充実0.41) この層の人たちは、数多くある趣味の1つとして推し活を捉えており、特定の推しに熱心なわけではないことがわかる。
5つ目のクラスターはウェルビーイングが低く、アクティブ度は高かったため、「虚無オタク」というグループにした。(アクティブ0.4 充実-1.35)積極的な推し活がウェルビーイングに対しては寄与していないことが読み取れる。
ここでの分析からは推し活をする人が大きく5つに分けられることがわかったが、各グループの特徴を確認することはできない。そこで次に、各クラスターの特徴を明らかにするため、インタビューを行った。
3. ケーススタディ
充実度とアクティブ度を基準に推し活をする人を分類した結果、大きく5つに分類できることが明らかになった。ここでは、各グループに属すると考えられる消費者について、より深い考察を行いたい。この点への理解を深めるため、各グループに属する人に各ゼミ生でインタビュー調査を行った。各グループごとに共通していた点を抜き出し、ペルソナとして以下にまとめる。なお、虚無オタクについてはインタビュー対象として適した相手がいないこと、また、ウェルビーイングの水準が低い理由として、実際には推し活というよりも日常生活の影響を強く受けていることが考えられるため、ここでは深堀りしていかない。
迷走オタク:コスパとタイパのいい推し活をするA子さんの場合
インタビューの結果、このグループの特徴は次の3つにまとめられる。「自分のために推し活をしているが自分の生活には満足していない」「イベントに行く頻度が低い」「コスパの良い推し活」。これらのキーワードやインタビューをもとに、以下でそれぞれのグループの特徴をペルソナでまとめる。その後、マーケティング施策を提案する。
大阪で実家暮らしをしている21歳の大学生A子さん。3年前のコロナ禍の際に、自宅で見ていたTikTokから流れてきた動画を見たことがきっかけで、男性アイドルに興味を持つようになる。アルバイトで月5万円稼いでおり、現在は就活を控えている。大学ではサークルの代表を務め、狭く深い交友関係を築いており、推しについて話し合える友達がいる。
A子さんの1日は推しが歌っている曲で目覚める所から始まる。メイクをしている間や通学中も、推しが配信している動画や音楽を聴きながら行う。お昼ご飯は友達とお互い推しの話をすることで、楽しい時間を過ごしている。帰宅後も暇になったタイミングで、推しの動画を見たり、推しの曲が使われているリズムゲームを無課金で行っている。
A子さんはファンクラブに入会しており、生配信やサブスク、SNSでの投稿は常に見ているが、ライブは年に1回大阪で開催される公演のみ参加している。グッズはペンライト、タオル、うちわといった必要最低限のものだけを基本的に購入しており、ランダム系のグッズはお金を使いすぎてしまうため購入しない。「今は就活を控えていてアルバイトにもあまり行けていません。なので節約をしながら推し活をしています(笑)」
A子さん自身はSNSで自分の推し活を投稿するタイプではない。以前は推し活専用アカウントを作っていたが、他のオタクの熱量と自分の熱量を比較してやる気がなくなった。「推しの誕生日を祝うためにスーパーでショートケーキを買いましたが、熱量のあるオタクの人は推しの誕生日に合わせて渡韓したり、韓国アイドル御用達のケーキ屋さんでケーキを注文したりしていて、その財力と熱量の差に挫折しましたね。」
この経験からA子さんは1か月程で公開アカウントを削除し、他のオタクと交流をせず推しの情報を得るために非公開アカウントを1つ持っている。A子さんは推し活をしていくうえで、自分よりも推し活に力を注いでいる人がいると知ったため、ウェルビーイングには直接繋がっていないと推測される。
迷走オタクはコスパよく推し活をする傾向がある。そのため、グッズもペンライトやタオルなどの必要最低限の物を購入する。また、ライブに行く頻度が低いことも迷走オタクの特徴である。迷走オタクは推しへの熱量が変化しやすいが、ライブ参加時は推し活に力を入れたい時期であると仮定する。
そこでライブ会場のグッズ販売にて、今後開催予定のオンラインイベントへの参加を促すことで、推しに対する高い熱量を継続させる。
ライブ当日の物販で後日推しとの1:1のオンラインミーティング(1分間推しと話せる)の参加応募券がランダムで封入されたCDを販売する。これにより、オタクが支払う金額を増やすことができる。このようなマーケティング施策を行うことで、迷走オタクは熱量を下げることなく推し活を続けることができ、より推しに対する熱量を高めることが可能である。更に節約思考なことから、ただお金を使うのではなく、コスパやタイパがよく、お得感を感じられるサービスや特典を提供することが有効であると推測する。
ノーマル人間:友達との推し活を楽しむBさんの場合
インタビューの結果、このグループの特徴は次の5つにまとめられる。「飽き性」「推し活にお金は使わない」「SNSで推し活」「多趣味」「友達との話題作り」これらのキーワードやインタビューをもとに、以下でそれぞれのグループの特徴をペルソナでまとめる。その後、マーケティング施策を提案する。
岡山から大学進学のために神戸へ引っ越してきて1人暮らしをしている大学2年生のBさん(20)。大学では留年ギリギリの単位をとっており、ゼミは友達と同じゼミに参加し、サークルは友達と一緒の球技サークルに所属している。最近、「友達がいるから」という理由でゼミやサークルを選んだせいで本当に自分がしたいことがよくわからなく悩んでいる。アルバイトは扶養が外れないように月7,8万円ぐらい稼いでいる。バイト代は推しの邦ロックバンドに使うのではなく主に友達と遊んだり旅行に使っている。
「推しには、去年大阪で開催されていた夏フェスに友達と行ったときに、友達が好きだというバンドを聴きに行ってみたら、ボーカルの歌声と歌詞のメッセージ性がめちゃくちゃ刺さったのではまりました!!!」友達が好きだからという理由で推しているためファンクラブには入っておらず、好きなバンドのCDを購入することもないが推しのバンドの曲を聴きながら登校しているので音楽系のサブスクには加入している。推しが出演しているフェスには友達と一緒に年1~2回参戦し、友達とおそろいのタオルやリストバンドを購入している。「邦ロックバンドの曲を聴きにいくというよりかは友達とフェスに遊びに行く感覚ですね(笑)」。
推しのSNSアカウントをフォローをしており、たまに「いいね!」をしている。サークルが終わった後には友達と飲みに行きそのまま二次会でカラオケによく行っている。「友達にも布教するために普段カラオケにいくときは好きなアーティストの盛り上がる曲を歌ってます(笑)。」
ノーマル人間は推し活にお金をあまり使わず、友達との話題作りのために推し活をしている傾向がみられる。そのため近場でライブやイベントを行うことで、彼/彼女らが交通費をかけずに友達と気軽にライブやイベントに参加できるのではないだろうか。また、アパレルブランドや食品メーカーなど全く異なるジャンルの企業とコラボすることで、推しにお金をあまり使わない人にも抵抗感なく商品を購入してもらえるのではないだろうか。
溺愛オタク:時間もお金も惜しまないCさんの場合
インタビューの結果、溺愛オタクの特徴は次の3つにまとめられる。「近場であれば絶対に参加する」「自己投資を惜しまない」「推し活に投資する金額は月平均2~3万円」以下でペルソナならびにマーケティング施策を提案する。
神戸市で地方公務員として働く24歳Cさん。毎月約24万円の収入があり、推し活関連の支出を細かく把握し、支出管理は欠かさず行っている。「毎月の支出を細かく把握して家計簿をつけるようにしています。経済的な自立を大切にしながら、推し活に使うお金は自己投資として惜しまず使っています。」
たまたま見たアニメ「進撃の巨人」をきっかけに推しの声優を好きになり、積極的にイベントへ参加している。「仕事が休みの日はもちろん、平日にイベントがあるときは有給を取ってイベントに行くことも多いです。関西で開催されれば必ず参加していますし、遠くても会いたい思いが強くなりすぎて行ってしまいますね。」イベントに参加する以外にグッズにもお金をかけていると語る。「グッズはついつい買ってしまいます。買ったグッズは自分の部屋に飾っているため、部屋中にグッズが溢れています(笑)」
Cさんは同担拒否のため、コミュニティには参加せず、1人での推し活が中心だが、推しの出演するラジオのファンクラブに入会している。ラジオは聴くだけでなく、メールも送って楽しんでいる。「推しがいるから、仕事も頑張れます。通勤・退勤時や昼休憩時にはSNSで推しの画像や情報を見ることが日々の活力になっています。本当に推しのおかげで充実していると感じます。」と語る。Cさんは、推し活を楽しむことが生活の充実に繋がっており、推し活はCさんにとって欠かせない生活の一部だと考えられる。
溺愛オタクは時間があれば常に推し活をしている傾向がわかる。そのため、マーケティング施策として、このような既存ファンを「飽きさせず減らさない」ために、各イベントについて常に新しさを提供していく。またSNSを活用した広報活動を、絶やさないようにする。推しへの欲求を常に満たし続けることが企業には求められる。
非オタ:充実した生活の+αで推し活するDさんの場合
インタビューの結果、このグループの特徴は次の5つにまとめられる。「お金をあまりかけない」「私生活が充実している」「多様な趣味」「SNSやメディアに積極的」「推し活の優先度は他と比べて低い」これらのキーワードやインタビューをもとに、以下でそれぞれのグループの特徴をペルソナでまとめる。その後、各グループに訴求するためのマーケティング施策を提案する。
関西在住大学生20歳一人暮らし彼氏持ちのDさん。アルバイト収入は大学生平均月収の5万円。そのうちの大半が生活費や彼氏のために充てており、推しにはあまりお金を使っていない。1年前にTikTokを開いたらオーディション番組の広告が流れてきて、現在推しているアイドルグループ「ME:I」を知るきっかけとなった。
「オーディション番組で彼女たちが頑張っている姿を見た時に、勇気をもらいました。オーディション番組が終わった後でも彼女たちのSNSやCMなどを見て元気をもらっています。彼女たちはビジュアルが良く曲も最高です!!!!」
Dさんの推し方としては動画を見ることや曲を聞くことがメインで、グッズの収集はしていないという。また、ファンクラブにも入会はしていない。なぜグッズを収集しないか、またファンクラブに入っていないかを聞いてみた。「私は一人暮らしをしており、生活費は全てアルバイト費用から賄っています。また、彼氏とデートに行く費用などにも充てているので推し活にお金をかける余裕がありません(笑)。お金に余裕があればグッズなども買いたいですね。」
Dさんは私生活で出費が多く、推し活にお金はかけないようにしている。
「それと、アルバイトや趣味でギターの練習をしているので時間もあまりかけてないです。通学中の電車で動画を見るなど、隙間時間を楽しく過ごすために推し活をしています。」話を聞く限り、Dさんはもともと私生活が充実していると考えられる。推し活はDさんにとって生活をさらに充実させるための一つの手段である。
非オタはもともと私生活が充実しているため推し活優先度が低く、推し活にお金をあまりかけない。その上、推し活への積極性が低いため、SNSやテレビなどの受動性の高いメディアに触れる機会が多いため宣伝広告などの影響力が大きいと仮定する。このことから、普段の買い物でも手に取ることの多いペットボトル飲料とコラボし、CMなどで認知度を拡大し訴求力を高めることが有効と考えられる。
4. 推し消費を促す要因の定量的調査
最後に、推し活への支出を予測する尺度を提案したい。ここまでの議論から、支出に影響がある要因は大きく5つと考えられる。その理由としては、重回帰分析で有意だった「元気になれるから(感情的関与)」、「経済的に支援したいから(経済的支援)」、「自分の趣味をアピールできるから」(自己表現)」から3項目。次にクラスター分析の結果であるアクティブ度を示すイベント参加意向、第1章の推し活の具体例から、「収集意欲」を抜き出した。本章ではこれら5項目が推し消費と関連しているかを調べるため、2024年の11月-12月の間に大学生を中心に再度調査を行った。
再調査は男女232人 (男:104, 女:128) を対象に再度質問項目を変更したアンケートを実施した。まず初めに推し活の有無について調査した。その結果73.3%の人が推し活をしていると回答した。また、男女別で見てみると女性は87.5%、男性は55.8%が推し活をしていると回答した。
次に、性別によって推し活への動機に差があるかをt検定によって比較した。その結果、自己表現とイベントへの参加、支出で有意差が見られた。〔自己表現 t(108.32)=2.12,p=.036 女性=3.26,男性=3.95、イベントへの参加 t(90.12)=2.73,p=.008 女性=5.50,男性=4.67、支出 t(153.29)=3.13,p=.002 女性=142495.09,男性=75581.55〕この結果から男性は「自己表現するため」、女性は「イベントに参加するため」に推し活をしていると考えられる。また、女性は男性よりもイベントに参加するための費用をかけるため、男性よりも相対的に推し活への支出が高くなっていると考えられる。
5つの動機が推し活の支出に与える影響を調べるため、重回帰分析を行った。この結果、「推しに関連するグッズは可能な限り揃えたい」のみから有意な影響が見られた(R²=.102,p=.024; β =.191,p=.036)。推しへの思いというよりも、グッズへの収集意欲が推し活への支出に影響していることがわかる。
今回調査したアンケートから使用金額の上位3つを挙げると、1位100万円(女性1人)、2位60万円(男女各1人)、3位50万円(女性6人・男性1人)
特に推し活にお金を使っている割合が多いのは女性であり、使い道は2次元・3次元を問わずアイドルが大半を占めていることが分かった。
1位の100万円を使用している女性は、プロジェクトセカイのキャラクターである「桐谷遥」にお金を使っている。ゲーム内のガチャやアクリルスタンドなどのグッズにお金を使っている。
2位の60万円を使用している女性は、ソロアーティストのNissyにお金を使っている。2024年現在ソロアーティスト史上初のドームツアーを開催しており、Nissyサイズの服やカスタネット、ネックピローなどグッズにも力を入れている。そのようなライブやグッズなどにお金を使っている。同額2位の60万円を使用している男性は、学園アイドルマスターというゲームのキャラクター育成のために課金を行っている。
3位の50万円を使用している女性達は、BUDDiiSというアイドルグループを推しており、ライブや会場限定のグッズ購入などにお金を使用している。
支出が多い対象は、そのグッズ等も幅広く展開していることがわかる。
まとめ
本研究では、推し活へのアクティブさと個人のウェルビーイングに着目し、推し活を行う消費者が4つのグループに分けられることが分かった。1つ目のグループは、コスパとタイパのいい推し活をする「迷走オタク」である。2つ目のグループは、話題のために推し活を楽しむノーマル人間である。3つ目のグループは、時間もお金も惜しまない溺愛オタクである。4つ目のグループは、私生活優先で控えめに推し活をする非オタである。
以上のグループを分類することによって、推し活がウェルビーイングに繋がっている人と繋がっていない人がいることが分かった。また、全体的には男性よりも女性の方が推し活をする傾向が熱量的にも金額的にも多い傾向があることも明らかになった。このことから、それぞれのグループに沿ったマーケティング戦略を取り入れることによって、より大きな経済効果を生むことが期待される。
課題
今回の調査は大学生を主な対象としたもので、調査したデータへの信頼性があるとは言えなかった。分析に関しても、様々な分析を行ったが良い結果が出ないことが多かった。そのために当初考えていたテーマ (好きな音楽の種類とパーソナリティ) とはやや異なる推し活に注目することになった。
参考文献
井上淳子・上田泰 (2023) 「アイドルに対するファンの心理的所有感とその影響について」マーケティングジャーナル, 43(1), 18–28.
水越康介 (2022) 『応援消費:社会を動かす力』、岩波書店。
健康促進用語集 2021 原書:”Health Promotion Glossary of Terms 2021” World Health Organization 翻訳:日本HPHネットワーク・日本ヘルスプロモーション学会 発行:2023年3月8日
『推し活とは?推し活の市場規模や活動内容、なぜハマるのか、注意点など解説!』
引用サイト:Ticket Lab(株式会社チケミー)
更新日:2024年9月27日 URL:https://lab.ticketme.co.jp/osikatu/
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---以下、学生たちのあとがき (大学生活の振り返り) や各自の推し活についてまとめています
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