【読書感想文】『7 YASUHITO ENDO』遠藤保仁の「ま、いいか」
遠藤保仁(以下ヤットさん)の自伝「7 YASUHITO ENDO 」。
横浜フリューゲルス、京都パープルサンガ、ガンバ大阪、ジュビロ磐田。プロ生活26年の軌跡をヤットさん自らが振り返った書籍。
磐田サポーターの自分にとって、ガンバ大阪の象徴ともいうべき存在だったヤットさんが、ガンバ大阪から磐田に移籍してきた経緯を改めて知りたかった。
ヤットさんの自伝ならばきっと語られているはず。ぜひ、あの当時の心境が知りたい。
この書籍の発売直後、私は書店へ走った。
2020年10月にガンバ大阪からジュビロ磐田へ移籍してきたヤットさん。
当時の磐田はJ2で思う様に勝ち点が積み上げられず1年でのJ1復帰に対し厳しい状況に陥っていた。
そのため、2020年10月2日、磐田は成績不振の影響でフェルナンド・フベロ監督を解任し鈴木政一監督に交代することを発表。
監督交代発表と同時の2020年10月2日に、ヤットさんがガンバ大阪からジュビロ磐田へ期限付き移籍する報道があった。
「監督交代」と「ヤットさんの招聘」
私を含め、当時多くの磐田サポーターが衝撃を受けたこの2つの人事。当然ながらその経緯は当事者しか知り得ない。
本書を開くと、冒頭の目次は、
となっており、ヤットさんがプロデビューした1998年から引退した2023年まで、1年ごとに振り返る構成になっている。
まさに「ヤット年表」。
私はジュビロ磐田に移籍した年「2020年」から読み始めた。
20年間戦ったガンバ大阪への想い。鈴木政一監督との会談。ヤットさん独特の口調で綴られたその文体は、まるでヤットさんが直接語りかけてくるような感覚になる。
そこには、私が知りたかった移籍の経緯がしっかり綴られていた。
2018年頃から感じていたガンバ大阪が目指すサッカーとヤットさんのサッカー感のすれ違い。試合出場に恵まれない現状。それらから生じたガンバから出るべきタイミング。そこへ手を挙げた鈴木政一監督が志向する磐田が目指していたサッカー。
それらがマッチした結果であったことを知った。
一方で移籍当時、監督交代と同じタイミングだったこともあり、ヤットさんの招聘は磐田サポーターのなかでもいろんな意見があったように記憶している。
でも私は、ヤマハスタジアムでヤットさんのプレーを間近で見られることがなにより嬉しかった。
ミーハーと呼ばれるかもしれない。
でも目の前であのフリーキックを見られただけでも幸せだった。
当時はコロナ禍。
声出し応援もできず、J2でもがき苦しんでいた磐田にJ1のガンバ大阪から来てくれたヤットさんのプレーに魅了されたのは私だけではなかったはずだ。
ヤットさんが来てからのジュビロは13位から徐々に順位を上げた。「一時はもしかしたら、もしかするかも?」と奇跡のJ1復帰に期待をもたせた。
しかし最終的には6位でJ1復帰を逃した。磐田史上最低の成績。しかし次年度に期待をもたらす結果だった。
また、2020年のヤットさんについてもう一つ知りたいことがあった。
12月以降の試合でメンバー外になったこと。ホーム最終節にも姿を見せなかったことだ。
これにも実は公表されていなかった事実があった。詳細は割愛するが初めて知る事態が起こっていたことに驚いた。
一方で2020年~2023年のジュビロ磐田でのヤットさんのプロサッカー人生のほんの一部。
そこに至るまでの経緯を知るには、やはり1998年からのヤットさんのプロデビューからの足跡を知る必要があった。
磐田でのヤットさんの振り返りを読んだ後、本書の最初に戻ってプロデビューの1998年からのヤットさんの歩んだ道を1ページずつ読み進めていった。
まるで冒頭で核心部分をバーンと見せられた後に、時系列を過去に戻して物語がはじまる。
そんな映画を見ているような感じに浸っていた。
Jリーグで26年戦い抜き、日本代表として世界と戦ってきたヤットさん。一社会人として働いてきた私とは全く違う世界での経歴だし輝かしい。
日の丸を背負い厳しい環境で戦い抜いたヤットさんから学ぶべきと感じたのはヤットさんのオンとオフの切り替えの早さだった。
という何気ない言葉。
しかし、ネガティブな気持ちを長引かせない極めて有能な言葉に感じた。
私は基本ネガティブに考えてしまう傾向がある。結構な時間をおいて思い悩みことも多々ある。人間だれしも生きていれば失敗や後悔が常に付きまとう。「ああすればよかった。」「なぜこうしなかったんだろう。」
しかしヤットさんは一度その場を離れれば、何か思うことがあっても「ま、いいか」という言葉で早々に切り替えてしまうのである。
一つ一つのプレー、勝敗、昇格や降格。
という言葉でサッカー人生を振り返っている。
ピッチ上でどんな状況でも落ち着き、次のプレーに向かっていく姿勢。サッカーだけに限らず、長く人生を歩んでいく上で非常に胸に響いた言葉だった。
サッカーに限らずプロスポーツ選手が現役でいられる時間は決して長くはない。しかしヤットさんは26年という長きに渡り現役で戦い続けた。致命傷になるような大きなケガがなかったことも幸いしたと思う。
サッカーは技術も戦術ももちろん大事だがメンタルに大きく左右されるとヤットさんは説く。「1点くらいどうぞ、2点取ればいいんでしょ」と気持ちでいたそうだ。その気持ちの持ち方が、長くピッチに立つことができた秘訣だったように感じた。
それはすなわち
という言葉にすべて凝縮されているように感じた。
ヤットさんの卓越したサッカー技術については、今更私が細かく論じるまでもない。一般人の私が取り入れるべくもない。
しかし、気持ちの持ちよう、すなわち、切り替えの早さ。物事に対する姿勢については私でも取り入れることができるだろう。
そして、ヤットさんが去ったジュビロ磐田は現在J1残留争いの苦境に立たされている。悲壮感をもって練習に取り組んでいるかもしれない。
残り少ない試合数ではあるがヤットさんの
の気持ちを少しでももてれば、もしかしたら歯車がいい方向に回転し始めるかもしれない。
ヤットさんはガンバ大阪のコーチとして新たな道を歩み出している。今後どんな人材を育て、どんなチームを作りあげるのか?将来、ヤットイズムを引き継いだサッカー選手がピッチに立って戦う姿を見るのが楽しみで仕方がない。
最後までお読みいただきありがとうございました。
遠藤保仁のファン・サポーターに歓喜が訪れることを願って。
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