ルビーロマンで商標登録を受けることよりも大切なこと-商標登録を受ければ良いというものではない
なんでも「ルビーロマン」という高級ブドウがあるそうだ。ブドウの品種に「巨峰」があることは職業柄極めてよく知っているが(私の場合、あとは「デラウェア」と「シャインマスカット」ぐらいしか知らない)、「ルビーロマン」は聞いたことが有るような無いような。インターネットで検索してみると、10000円/房という高級ブドウだとのこと。市場デビューは2009年とのことなので、今年(2023年)はデビューから14年が経過していることになる。
その「ルビーロマン」に問題が発覚したとニュースで知った。ブドウについて「ルビーロマン」という商標登録はされていないし、することができないというものである。原因は「ルビーロマン」という名称で種苗登録を受けたから。その結果、「第三者が別のブドウをルビーロマンの名称で売っても商標権に基づく差し止めはできない状況となっている」とのこと。
石川県産高級ブドウ「ルビーロマン」、開発当初から商標登録できず…「県職員の理解不足」原因 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
ニュースによれば『馳浩知事は「縦割りの弊害で、県庁内で制度への理解が乏しかった」とミスを認めて』いたと言う。さらには有識者から「日本は知財保護の後進国。こうした取り組みを全国に広げ、底上げを図るべきだ」とのコメントもあったとのこと。
こんなニュースを見れば「そうか、日本は知財保護の後進国なのか、種苗登録のときと商標登録のときとでは別の名前を付けないと!」と感じるのが普通だとは思う。でも私はこのニュースに「?」という印象を持った。
確かに「種苗登録の際に決めた名称については商標登録を受けられない」ということが知られていなかったのは「県庁内で制度への理解が乏しかった」ということになると思う。「第三者が別のブドウをルビーロマンの名称で売っても商標権に基づく差し止めはできない状況となっている」ことも正しいと思う。でも、それはニュースになるほどの大問題なのだろうか?
まず、第三者が別のブドウをルビーロマンの名称で売った場合には不正競争に基づく差し止めが可能となり得る。要は差し止めの根拠法が一つ減ったに過ぎない。確かに根拠法が一つ失われることで不都合は生じるだろう。ただ、それが新聞に掲載されるほどの不都合なのかが疑問だ。
次に、ルビーロマンというのは苗さえあれば誰がどのように栽培しても同様の果実を収穫できるものなのか。作物の質が品種に大きく依存することには「そうだろうな」と思えるが、だからといって品種が作物の質のすべてとは到底思えない。ルビーロマンの品質は栽培技術があってのものではないのか。
また、仮に「ルビーロマン」という名前につき商標登録を受けていたとしても、第三者はまったく別の商標を付けて「ルビーロマンと同一品種です」と言って売れば済むことだ。品種が作物の質のすべてと言うなら、商標登録には意味がない。
つまり、ルビーロマンが品種名なのか商標なのかなどと言う問題は些末なことに過ぎないのだ。そんなことよりルビーロマンの品質をより向上させる栽培技術の確立とその技術に対する特許権等の確保の方がよほど大切である。
特許権等が確保されたならば、次に大切なのはその特許発明等に基づいて栽培された一段上質のルビーロマンに別の商標を付加する仕組みを構築することである。
これらの認識が県庁内で共有されていないとすれば、そちらの方がはるかに大問題である。
ニュースのすべてが正しい訳ではない。ニュースのすべてを正しいと思い込んでしまっては陥穽にハマってしまうとつくづく感じさせられた。