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痴人の愛/谷崎潤一郎【読書感想】

あらすじ

 「君子」と評判の真面目なサラリーマン・河合譲治は、カフェーで女給をしていた十五歳のナオミを妻として引き取ります。
 ただし、それは世間一般の夫婦になるのではなく、まだ成長途中のナオミをパトロンとして育てるためでした。
 ままごとのような生活をしながら年月を重ね、少しずつ歪んでいく二人の関係が綴られています。

感想

 谷崎潤一郎作品との出会いは「谷崎潤一郎犯罪小説集」の、りんご飴を持った少女の表紙に惹かれたのがきっかけでした。
 その後「猫と庄造と二人のおんな」を読み、この「痴人の愛」は私にとって3冊目の谷崎作品だったと記憶しています。

 この本を手に取ったのは高校生のころで、当時は古本屋に通うのが趣味でした。
 読んだ本は手元に置いておきたいから購入したいけれど、可愛いだけで大した金額の入っていないお財布しか持ち合わせていない高校生には古本屋の100円コーナーは実にありがたいものでした。
 古本屋に並んでいる本には作品以外にも物語が秘められていることがあります。たとえば書き込み、破れ、日焼け――。どんな人がどんな気持ちで読んだのか、どんな風に扱っていたのか想像が広がります。
 この本も日に焼けてかなり年季が入っている様子でした。それがなんだか無性に愛おしくなって買って帰ったのだったと思います。

 そんな愛おしくすら思った本をなぜ今まで寝かせていたかというと、タイトルやあらすじから官能小説のような内容だと勘違いしていたからです。

 確かに主人公の譲治はナオミを偏愛しているし、ナオミだってふしだらな女には違いありません。でも濡れ場の描写は語るまでもないといった風に割愛されています。
 覚悟して読み始めたので少し拍子抜けしてしまったのですが、直接的な描写がないことでより純度の高い譲治の変態性が浮き彫りになっていると感じました。

 ナオミに関しても、てっきり悪女かと思っていたのですが、どちらかというと世間知らずで無邪気ないたずらっ子がそのまま大きくなったような可愛げのあるキャラクターに思えました。
 こう思うのは譲治の視点で綴られた話だからかもしれません。
 友達が「俺にはもったいないくらいの美人だ!」「今まで出会った男性で1番優しい!」とベタ褒めしている恋人に会わせてもらうと、そんなに絶賛するほどだろうかという普通の人だったり、むしろ縁を切った方が良いレベルの悪影響を及ぼす人だったりすることがあります。
 譲治にとってのナオミはこの上ない存在でも、他所から見たらそうでもないのかもしれませんね。
 この2人はきっとずっとこんな風に、たまに周りを巻き込みながら離れることなく生きていくのでしょう。

 ところで、熱海に行った際、偶々立ち寄ったケーキ屋さんで谷崎潤一郎が愛したというモカロールに出会ったことがあります。
 ひとつテイクアウトして、宿で谷崎に思いを巡らせながらいただきました。
 せっかくならもう少し著作を読んでからまた味わってみたいものですね。

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