和訳のストラテジー #2 『若草物語』 2

No sooner had the guest paid the usual stale compliments and bowed himself out, than Jenny, under pretense of asking an important question, informed Mr. Davis, the teacher, that Amy March had pickled limes in her desk.

Little Women by Louisa May Alcott

またもや出典は『若草物語』でした。なかなか面白いんですよね。さて、前回の続きです。ライムを持ってきていることがばれてしまうんでしたね。
細かく見ていきましょう。

部分解説

No sooner had the guest paid the usual stale compliments and bowed himself out,


"no sooner"という否定語のまとまりが文頭に出ているので後ろが疑問文の語順に倒置されています。主語と動詞が入れ替わる倒置とは異なることを確認してください。混ぜるな危険の文法事項です。倒置に関しては訳に影響しないので指摘のみとさせていただきます。ちなみに"no sooner"は後ろの"than"と呼応し、"no sooner ~ than ……"で「~するや否や……」となります。「……するより~するのは早くなかった」という意から、同時性を表すのに使います。あと、過去完了を使うことで順序も表しています。~の部分のほうが早く、……のほうが遅いということになります。と言ってもほぼ同時。だから「するや否や」という定訳が生まれるわけです。
"stale"は「陳腐な、古臭い」ですかね。sta-が"stand"から「立つ」→「立ち止まる」となり、遅れたイメージからこのような意味になります。(参考までに、私は発音から「捨てるほど古いもの」→「古臭い」と覚えた記憶があります笑笑)
"compliments"は「褒め言葉、賛辞、あいさつ」。compli-の部分が"complete"と同じです。つまり完全に満たされた状態。ここから生まれているようですね。ただちょっと難しい。さらに"complement"(これはSVOCのCですよ)と混ざる……!!まあ覚えてしまうのが手っ取り早いですね。今回は挨拶でしょうか。賛辞は先ほどから述べていますから、改めて言う必要はなさそうです。
"bow"は「お辞儀をする」。名詞で「弓」という意味があるように、"bow"はもともと「曲がる」という意味から来ています。"out"があるので、部屋から出ていくというのもセットになっていると考えられます。
このように覚えにくい単語は語源を調べて覚えてしまうのもありですよ。そうするとほかの単語とのつながりも見えて、より効率よく覚えられるかもしれません。たまに間違いに遭遇するかもしれませんが、単語を覚えられるならそれでもいいですかね……(雑学として話すなら恥ずかしいですが)

訳は「彼(客としてきた名士のこと)がいつものように陳腐な挨拶を述べ、お辞儀をして部屋を退出するや否や」

than Jenny, under pretense of asking an important question,informed Mr. Davis, the teacher,

"than"以下の部分です。" , "が多くて複雑だ!と思うかもしれませんが、得意になればむしろ" , "があるおかげで読みやすいと感じるようになりますよ!!
まず意識してほしいのは「" , "はあまり意味を持っていない」ということです。日本語の読点と同じで、読みやすさを意識したものととらえて構わないでしょう。もちろん挿入や同格など入るのが主流なことも多いですが。知人に聞いたところ、あとは話者の感覚として入れたり入れなかったりするところもあるよ、と答えてくれました。例文などをたくさん読みこんで感覚をしみ込ませてください。とにかく、","自体には意味はないととらえてください。しかし、それが使われることが多い状況が決まっているので、それを確認すればOKということです。そうやって慣れれば怖いものなしになりますよ。
ここでは、"under~question"が挿入で副詞句となっており、"the teacher" が"Mr.Davis"と同格になっています。
語句で確認しておきたいのは"pretense"くらいでしょうか。"pretend"「~のふりをする」の名詞形です。つまり……?そうです。前回、前々回の復習です。名詞構文ですね。"pretend"はOfficial髭男dismの”pretender”を思い出せば一発で覚えられますね!
あとは"inform"ですか。"inform 人(人でないときもあるか?) that S V" で、「人にthat以下のことを知らせる」という意味になります。
訳は「ジェニー(スノー)は大事な質問をするかのようにデビス先生に(以下のことを)話した。」でどうでしょう。かなり「意訳」になっていると思いますが、これでいいのです。「知らせる」だとあまりにもかたい報告のようですよね。「チクった」が使えたらいいのですが……さすがにやめておきましょう。「告げる」くらいがいいのかもしれません。

that Amy March had pickled limes in her desk.

informの「型」のthat以下ですね。ここは特にいうことがありません。
訳は、「エミイ・マーチが机の中に塩漬けライムを隠し持っているということを」とします。「隠し」というのは文脈から足しましたが、先生にチクるならこのくらいに言いますよね(間接話法なので実際の言葉ではありませんが……)
すこし意訳が過ぎると思われた方は、「持ってきている」としてもいいかもしれません。とにかく、違反していることを伝えるニュアンスが出せていればオッケーです。

構造解析

前回と同様ですが再掲。<>が名詞句/節、[]が形容詞句/節、()が副詞句/節です。ルビでSVOCを振っています。’ が付いているところは従属節の文要素となります。

(No sooner)M had助V <the guest>S paidV₁ <the usual stale compliments>O and bowedV₂ himself out, (than <Jenny>S’, (under pretense of asking an important question,)M’ informedV’ <Mr. Davis>O’, <the teacher>O’と同格, <that Amy March had pickled limes (in her desk.)>)

※なお、inform 人 that SV に関してはSVOOとは考えにくいのでここではthat節に文の要素を振らないこととしました。もしこの語法の文の要素の考え方をご存じの方がいらっしゃいましたらこっそり教えてください……(笑)

全訳例

彼がいつものように陳腐な挨拶を述べ、お辞儀をして部屋を退出するや否やジェニー=スノーは大事な質問をするかのようにデビス先生に告げ口した。エミイ=マーチが机の中に塩漬けライムを隠し持っている、と。

ポイントまとめ

では、今回のポイントをまとめてみましょう!

  • 文頭に否定語が来たら後ろは疑問文の語順!ただし訳はそのままでOK。

  • "no sooner ~ than ……"で「~するや否や……」

  • 単語の覚え方も工夫しよう!

  • " , "は読点と似ていてそれ自体には意味を持ちにくい。前後から考えてなぜここに" , "があるのか考えてみよう!基本的には文法事項が絡んでいることが多い。

  • 名詞構文の復習

  • inform 人 that S V の「型」を覚える。

いかがでしたか?

次回の課題文

“I like his manners, and he looks like a little gentleman, so I’ve no objection to your knowing him, if a proper opportunity comes. He brought the flowers himself, and I should have asked him in, if I had been sure what was going on upstairs. He looked so wistful as he went away, hearing the frolic and evidently having none of his own.”

Little Women by Louisa May Alcott

ちょっと長めにしてみました。ざっと字面を追って、「もしかして次のポイントはここかな?」と気づいた方は素晴らしいですね。コツコツ勉強をなさっている方は本当に素敵だと思います。私も見習って勉強を続けなければ。そして、みなさんにこうした演習の場(そして振り返りの場)を提供し続けたいと思います!

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