BEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAME OF 2023 受賞作&候補作紹介
BoardGameGeekのアブストラクトゲームフォーラムで有志により毎年行われているBEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAME が今年も行われ、Drew Edwards作のアデレ(Adere)が受賞作に決定しました。前年に発表された、運要素やアクション要素のない2人用ゲームが対象です。
過去のエントリについてはこちら。
2021年(歴代受賞リストを含む)
2022年
今年は筆者のゲームが4作も最終候補12作のうちに残っていたのですが、残念ながらどれも3位以内には入りませんでした。以下、得票数の多い順に内容を紹介します(数字が同じになっているものは同率順位です)。
1.Adere (アデレ)
by Drew Edwards
スタッキングルールのあるエッジ接続ゲームで、Yと同様に3辺を自駒のグループで繋げれば勝ちです。手番で行うことは「空きマスに自分のコマを置く」か、「同じ高さの隣の敵コマ・スタックの上に自分のコマ1つを移す」のどちらか。スタックの高さ制限はありませんが、ゲームはかなり自然に収束します。
エッジ接続のゲームは、例えばヘックスの「二股がけ」のように有効な戦法やヒューリスティックが大なり小なり共通している感じがありますが、アデレはこのジャンルにかなり質感の異なる戦略性を持ち込んでいます。
面白いのは、このルールがヘックスと同じ平行四辺形のボードや円形ボードなど、様々な形状のボードで使用できることが示されている点です。そういう意味では単独のゲームというより、接続ゲーム全般に適用できる基底的なメカニクスの1つが発見されたことが評価された感があります。
2.AlmaTafl(アルマタフル)
by Paschalis Antoniou
中世ヨーロッパの非対称ゲーム・タフル(ネファタフル)をベースにしたゲームです。タフル+スタックという組み合わせは盲点を衝かれた感じで似たものを見た記憶がなく、斬新さから短期間で注目が集まりました。白のプレイヤーは赤い「王」をボードの外周の12の出口のいずれかに到達すれば勝ち、黒側は王を捕獲するか、白の移動を封じれば勝ちです。
コマは隣接1マスに移動し、3段まで他のコマに重ねることができます。スタックは1番上のコマのみ、スタックの高さと同じ距離を移動します。王にのみ敵のコマの上を移動し続けることができる「バウンス」ルールがあり、バウンスをうまく使って出口に導けると爽快です。
個人的には、両プレイヤーが守りに入ると若干膠着したり、慎重になると終了までかなり手数がかかる可能性があるのがやや気になりました。作者にワンサイズ小さいバージョンも作れるのではと提案したので、よりプレイしやすいバージョンが登場するかもしれません。
3.Moon Squad(ムーンスクアッド)
by Drew Edwards
アデレと同じDrew Edwardsさんのゲーム。不規則なグリッドの円形ボードで、こちらもY型接続が目標です。セットアップ時に5色の資源トークンが各セルにランダムに配置されていて、手番ではそのうちの1つを取り自分のディスクを配置、手元に同じ色のトークンが3つ揃ったらそれを捨てて「スクアッド」ミープルをディスクの上に追加できます。ミープルは資源を1つ捨てることで移動したり、隣り合った相手のディスクを自分のものに変えたりすることができます。
ユーロゲーム的なリソースマネジメントとコネクションゲームをうまく統合した楽しいゲームで、ちょうど前年のストリートカー・サバーブとアデレの中間という感じもします。
4.Stair(ステアー)
by Kanare Kato
筆者のゲームです。6×6マスのボードを使うスタッキングゲームで、クラウドファンディングで物理版をリリースしたメリディアン(2021年作)を除くと、去年出した筆者のゲームのうちではこれがもっとも評判が良かったようです。
コナネなどと同じように2色のコマを互い違いになるように置くというセットアップではじめます。手番では自分の色のコマ1つを隣(8方向)に動かし、他のコマ(どちらの色でも可)の上に乗せます。スタックから移動する場合は1番上のコマのみ動かします。移動先は常に移動前と同じ高さのコマです(つまり移動後は必ず1段高くなります)。
また手番では常に自分の1番低いスタックを動かす必要があります。「コマを隣に移動させるだけ」の単純なゲームですが、2,3のルールの組み合わせで意外と複雑な状況が生まれるようになっています。
5.Passo (パッソ)
by Clemente Musa, Steffen Mühlhäuser
Helvetiq傘下のレーベルとなってから初のSteffen-Spieleの新作。一言でいうとボードの代わりに25枚のタイルを使うノッカ×ノッカで、8方向の隣接スぺースへの移動や、最後列のさらに奥に到達すると勝ちという勝利条件もおおむね同じ、敵、味方にかかわらず他のコマに乗って3段まで重ねられるという点もノッカ×ノッカと共通します。違いはコマの移動後に空いたタイルは除去するという点で、孤立したタイルはコマごと除去します。相手に合法手がなくなっても勝ちです。
候補作の中ではもっともコンポーネントが少なく手軽に楽しめるゲームで、隠蔽要素の特殊能力を付加する追加ルールもあります。ノッカノッカから着想を得ているのかどうかという点は気になります。
5.Quagmire(クワグマイア)
by Christopher Field
ポーンを動かしながらスペースを塞いでいき、相手が先に動けなくなったら勝ち、という「アマゾン」や「それは俺の魚だ」型のゲーム。ビデオゲーム「フォールガイズ」のステージのひとつ「止まるなキケン (Hex-a-terrestrial) 」から着想を得たゲームとのことで、基本的なルールは単純ながら、2歩先に進める「ダッシュ」や、塞がれたスペースを1マスだけ飛び越える「ジャンプ」のオプションがうまく楽しさを引き出しています。
着想元のゲームを見たときはボードゲームにできそうだなあと思ったものですが、こうすればよかったのかという答えを見た思いでした。
7.Estate(エステート)
by Kanare Kato
筆者のゲームで、六角形ボードを使用する対辺接続ゲームです。毎手番プレイヤーは5ポイント持っていて、ポイントの範囲内で場所に応じたコストを支払い、ボードに最大5コマまで配置します。コストは中央ヘクスが1番高く、端に近づくにつれて同心円状に安くなっていきます。有利なコーナーをあえて安くしているのがデザイン上のポイントのひとつで、有利だからといってコーナーを欲張ると負けにつながったりします。
手軽で面白い接続ゲームになっていると自負しているのですが、いかんせん前年度の受賞作ストランドと発想が似ている感は否めません(2020年に考案したもので影響を受けたわけではないのですが)。また今年になって気づいたのですが、『Game & Puzzle Design』 Vol. 1, No. 2(2015年)にHex-Yという、同様のメカニクスをもつY接続のゲームが発表されていたようです。
8.Comune(コムーネ)
by Kanare Kato
こちらも筆者のゲーム。タイプとしてはオメガのように自分の複数のグループを成長させていくようなものになります。家形(長方形)のコマで、ヘクスに対して置く方向によって3種類の向きが区別され、向きが同じである場合のみ敵のコマに隣接することができます。同色の同じ向きのコマが集まっていればグループと見なされ、自分の3種類の最大グループを掛け合わせて得点とします。
最初の配置が比較的重要になりますが、自分のグループの成長を優先するか相手の邪魔をするかの選択肢があったり、相手がコマを置けないようなエリアを作るテクニックがあったりと、一筋縄ではいかない領土ゲーム的な側面もあるゲームです。コマの向きを区別する方法は配置ゲームでは珍しいですが、3種類のマークがあるコマを無制限に用意すれば実質的に同じゲームができます。
8.Natal Sea(ネイタル・シー)
by Dale Walton
海洋テーマの領土ゲームで、このタイプにはめずらしく捕獲ルールがありません。コマは一定の制限のもとで他のコマを軸にしつつ移動しつづけることができ、この移動ルールをうまく活用して相手が侵入できないテリトリーを作っていきます。このような他のコマを軸にする移動メカニクス(ピボット)はアブストラクトではちょくちょくありましたが、本格的な領土ゲームに使われた例はなかったんじゃないかと思います。
移動や領土の確認の際には隣接するコマの数のカウントが必要で、同作者のスロング(Throngs)ほどではないにしてもスムーズにプレイするには若干の習熟が要るゲームです。
10.Verge(ヴァージ)
by Michael Amundsen
今回の候補作の中では最もユニークと言えそうなゲーム。順番に1つずつコマを置いていって、自分のコマのグループで囲まれた領域ができたとき、その領域を作っているコマのグループ(パーティショングループと呼ばれる)に隣接している、パーティショングループでない敵のコマをすべて除去する、という形でゲームが進行します。自分のパーティショングループの隣に新たに自分のコマを配置することはできません。先にコマを置けなくなった方が負けです。
ルールとしては一度理解してしまえばそれほど複雑ではないものの、パーティショングループを作ることにメリット(相手のコマを除去できる)とデメリット(自分のコマを置く場所が制限される)の両方があり、勝つためにどういう動きをしたらいいのか数回のプレイでは正直理解できませんでした。捕獲で盤面を制御しつつ膠着勝利を目指すという点ではバグに似ているという意見もあります。
11.Asli(アスリ)
by Luis Bolaños Mures
同作者のゲーム(共作)で前年の候補作でもあったライフラインを四角盤に適用したものです。ライフラインは「視線ルールのないメリディアン」のようなゲームで、自分のコマのグループは空きマスをたどって自分の他のグループに行きつけるようになっていなければならず、それがなくなるとグループごと捕獲されます。アスリでは「一手で捕獲できる場合は相手のテリトリーに侵入できる」という追加ルールがあり、このためもあってかなり囲碁に近いゲームになっています。
いくらなんでも囲碁に似過ぎという意見と、囲碁の画期的なヴァリアントだという意見で評価が二分されたようですが、実際囲碁のゲーム性を保ちつつプレイヤーにとっての戦略性が明快になっているようなところがあって、囲碁界に知られてほしいゲームではあります。
12.Apart(アパート)
by Kanare Kato
最後は筆者のゲームで、こちらは汎用ボード「スクエア」セットに収録したものになります。8×8マスではじめ手前2列にコマが配置されており、これを互いに隣接しないようにボード上に「散らす」のが目標です。移動の際は、そのコマが加わっている列の長さと同じ歩数を、列と同じ方向に動かします。捕獲は可能ですが通常は相手の有利になります。
イングリッシュチェッカーと同じコンポーネントでプレイでき、かつ名作ラインズ・オブ・アクション(LOF)と逆の目標を持つゲーム、ということでわりと注目してもらっていたのですが、「インタラクション性が低い」(要はプレイヤーがそれぞれ一人でプレイしているように感じられる)とのことでマイナス票が複数つき結果0点となってしまいました。
ただAi Aiに実装されたものを改めてプレイしてみると作者としては完全に意図通りで面白くプレイできましたので、LOFの名前を出したことでLOFにあるような激しいインタラクション性を期待させてしまったのがよくなかったかもなあと思います。
総評
全体的な所感としては1位(アデレ)、2位(アルマタフル)、4位(ステアー)、5位(パッソ)と、「一番上のコマだけ移動する」タイプのスタッキングゲームが並んだのが面白いなと思いました。特にアデレとステアーは「隣接する同じ高さのスタックに向かって移動する」という点も同じ(ただしアデレは敵のスタックへのみ移動)です。公表時期はステアーが先でしたので、もしかしたら無意識裡のインスピレーション元の1つになっている可能性はあるかもしれません。
あと、第一回からの歴代受賞作を改めて見直してみると「接続ゲーム」と「領土ゲーム」が優勢だなあと思いました。アブストラクトゲームフォーラムでは「引き分けや千日手がない」ゲームはプラスに評価されやすいのですが、特に接続ゲームはそのようなルールが作りやすいという特徴があるのと、スケール感で領土ゲームの優れたものは評価が集まりやすいといった傾向があるように思います。逆に捕獲ゲームは「チェスやチェッカーの変種」という形で前世紀までにさんざんいろんなものが作られているのでハードルが高くなっているというのもありそうです。
今年は決戦投票で出所不明の不正票が複数投じられるというトラブルも起こりました。BEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAMEは同様の賞がないという点ではユニークで貴重な賞ですが、現実的には賞金も審査員もないささやかなイベントですので、このような波乱が起きてしまったことは残念です。私もメリディアンの宣伝のためにこの賞の名前を過剰に喧伝してしまったのはよくなかったかもしれないと思いました。
また自分のゲームが複数候補になっていたことで今年も筆者は投票を控えてしまったのですが、投票者が少ない(毎年10人弱しかいない)というのも賞の脆弱性の1つですので、来年こそ投票に参加しようかなと思っています。