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BGGのアブストラクトランキングからアブストラクトを抽出してみる
この記事はアブストラクトゲーム Advent Calendar 2024の21日目の記事として書かれました。
気が付けば今年も残すところ10日ということで、今回は年末にゆっくり「ボードゲームギーク」のランキングでも眺めてみようという気楽な企画です。まあ実際はまだ今年中旬に開始したクラウドファンディングのリワード発送作業の真っただ中で(お待たせしておりすいません!)腰を据えて何かを考えている余裕がない、というのが正直なところなのですが。
ご存じのとおりボードゲームギークは世界最大のボードゲームのデータベースサイトであり、ユーザーからの評価に基づいてゲームのランキングが生成されています。このランキングにはすべてのゲームをふくむ「全体」(Overall)ランキングのほかに、「ファミリー」「ストラテジー」「アブストラクト」などいくつかのカテゴリ別のランキングがあり、ここでは我々の興味領域である「アブストラクト」のランキングを眺めてみようということです。
しかしちょっと問題なのが、ここで使われている「アブストラクト」というカテゴリもユーザーの投票に基づいて統計的に分類されているもので何かかっちりした定義に基づいているものではないので、「運要素を厳密に排除したもの」「テーマを排しただけのもの」「メカニズムの一部がチェス等に似ているだけのもの」などをいっしょくたにしたものになっているということです。そこでランキングの上位から、筆者の興味範囲である「運要素のないもの」のみを抽出したランキングを以下に作りました。
なお、「カテゴリ別ランキング」はそのカテゴリのゲームをよく遊んでいるかどうかでユーザーの評価の重みづけがされているようで、単に「全体ランキングからそのカテゴリのゲームだけを抜き出したもの」ではないことにも注意してください。
以下執筆時点(2024年12月20日)のランキングに基づきます。実際のアブストラクトランキングはこちら。拡張版や新・旧で分かれているものは順位が高い方だけを取り上げています。
1.インシュ(2003年)
クリス・ブルムによる「ギプフ」シリーズの6番目(リリース順ではない)。私がBGGを知ったころからアブストラクトのランキングではずっとトップ付近を維持していたと思います。オセロのようなフリッピングと五目並べという、親しみやすい要素の組み合わせでありながらいまだに「新しさ」を感じさせるデザイン性。適度に混沌とした見通しがたさを持たせること
で、アブストラクトでありながら運要素のあるゲームに近い感覚があるというのもポイントかなと思います。
2.パッチワーク(2014年)
ウヴェ・ローゼンベルクの名作。コストを消費してポリオミノタイルを獲得・個人ボードに配置して得点を増やしていくタイル配置ゲームで、最初のランダム配置を除き運要素はありません。可愛くて楽しいゲームですが、コスト管理をしつつ拡大再生産をしていくタイプのゲームなので、アブストラクトの文脈よりは定番ユーロゲームとして言及されることのほうが多いと思います。
3.ツァール(2007年)
ギプフシリーズの2番目(ただしリリース順は後ろから2番目)。ボードがぎっしりコマで埋まった状態からはじまるバトルロワイヤル的な捕獲ゲームで、一直線に移動して相手のコマを獲るか、自分のコマ同士を重ねて強化します。自分より高いスタックは獲れません。単純なメカニズムの組み合わせだけで将棋やチェスに比肩するような重層性を作り出しているのがなんとも上手いと思います。
4.デュポン(2001年)
ギプフシリーズの4番目。フォーカスのようにスタックの段数が移動距離になるタイプのスタッキングゲームですが、赤いコマを含むスタックとつながらなくなるとボードから除去される、というふうに垂直方向(スタック)と水平方向(コネクション)とが組み合わさっているのが面白い。上2作より玄人好みという印象があります。
というわけで上位4作のうち3作が同じ作者のギプフシリーズというかたちでした。このシリーズはゲーム自体が良くできているのはもちろんですが、コンポーネントやタイトルのセンス・統一感などを含め、やはりブランディングが非常にうまくいっているなと思います。このようにサムネイルが並んでいるだけでなんともかっこよく見えますからね。
5.囲碁(紀元前)
5位はうってかわって古代に起源をもつ伝統ゲームの囲碁。単純にボードが広いこともあって抜群の深さがあり、コンピュータの解析で一番最後に解決されるだろうと考えられている伝統アブストラクトの王です。チャトランガ系のゲーム(チェスや将棋)が文化圏ごとに分かれているのに対して一個で屹立しているのも特徴的。やや参入のハードルが高い印象もありますが、ゲームの基本的な原理はとても単純です。
6.サントリーニ(2004年 / 2016年)
5×5マスの盤上で中立のブロックを積み上げ、3段目に自分のコマを到達させれば勝ちというゲーム。基本ゲームが良くできていてそれだけで十分面白いのですが、それぞれユニークな能力を持つ神カードを各自2枚ずつ所持する追加ルールがあり、明らかにこのカードの存在が人気を押し上げているようです。もっとも筆者はシンプルなゲームのままプレイしたい派です。
7.ハイブ(2001年)
ボードを使わないアブストラクトの代表格。チェスのように移動特性の異なる複数のコマをそれぞれ持ち、捕獲はなく、相手の女王蜂が完全に囲まれたら勝ち。コマは他のコマに接するように配置・移動し、コマの塊が分割されないようにします。スタイリッシュで別種のチェスのような趣もあり。やってみると「クモ」だけ妙に使いずらいのですが、意図的にそうなっているのかな。
8.オニタマ(2014年)
こちらも将棋・チェス系ですが、移動能力はコマ自体ではなくカードによって決まります。カードは公開で各自2枚持ち、5枚目はプレイヤー同士の間に置かれていて、手番で移動を行ったら使ったカードを5枚目のカードと交換する、というふうにカードが循環します。
アプリ版を試したことがあるのですが、他と異なる方向・距離を移動できるカードをキープし続けるという単純な戦法になりがちで人気の理由がいまいち掴めなかったというのが正直なところ。拡張で変わるのでしょうか。
9.リンク(2017年)
ギプフシリーズの7番目で、シリーズ中では3つ目のスタッキングゲーム。最大の特徴はゲーム開始時にプレイヤーの担当色が決まっていないことで、手番開始時に任意で自分の色を宣言(ゲーム中2色まで)し、自分の色をトップにして5色からなるスタックをなるべく多く作ることを目指します。ツァール、デュポンと比べるとちょっとトリッキーな印象ですが、筆者は未プレイなので評価は控えます。
10.砂漠を越えて(1998年)
ライナー・クニツィア作の陣取りゲームで2~5人に対応。最初に基点となる自分のコマ(騎手)を複数配置し、以降の手番ではそれにつながるようにラクダのコマを配置、スペースを囲うことで陣地を得たり、オアシスを取得して得点を加えたりします。さすがに楽しさのツボを押さえたとても面白いゲームなのですが、デザイン性の強いエリアマップボードや複数の得点方法があるところなど、こちらも典型的なアブストラクトとはちょっと異なる感じもします。
以下は10作ずつ50位までまとめます。
11位~20位
11.SHŌBU / 勝負(2019年)
12.ゼヘツ(1999年)
13.タク(2017年)
14. メディナ(2001年 / 2014年)
15.That Time You Killed Me(2021年)
16.ギプフ(1996年)
17.将棋(11世紀)
18.ラクーナ(2023年)
19.チェス(15世紀)
20.プエブロ(2002年)
伝統ゲームと最新のゲームが混交していますね。SHŌBU / 勝負は複数のボードで同時にコマを動かす押し相撲型のゲーム。That Time You Killed Meも相手のコマをボード外に押し込むゲームで、過去・現在・未来の時間を3つのボードで表現しているらしいのですが詳しい内容は把握できていません。ラクーナはスコアチップを取っていくタイプのゲームで、グリッドのないボードを使うという珍しい特徴があります。
ゼヘツとギプフはギプフシリーズ。スタッキング+コネクションゲームのタクは一時期より少し人気が後退したでしょうか。英語のサイトなのにチェスより将棋のほうが順位が高いのは興味深いです(引き分けが起こりにくいなどの理由でしょうか)。
21位~30位
21.光合成(2017年)
22. ブロックス(2000年)
23. グレートプレイン(2021年)
24. ブロックス デュオ(2005年)
25. カミサド (2008年)
26. ブープ(2022年)
27. ブロックス トライゴン(2006年)
28. クアルト(1991年)
29. 象棋(シャンチー)(8世紀)
30. おい、それは俺の魚だ!(2003年)
この順位帯はブロックスシリーズが目立ちますね。28位のクアルトがギガミック製ゲームの最高位ですが、15年以上前ならギガミックのゲームがたくさんランクインしていただろうなと思います。ブープはSHŌBUと同じSmirk & Laughter Gamesの変則三目並べでかなり売れたらしい。
光合成はアクションポイントを使って木を成長させ、伐採してスコアを得るユーロゲーム寄りのアブストラクト。グレートプレインは砂漠を越えてのようにコマを繋げていくタイプの領土ゲームです。おい、俺の魚だ!はパーティゲーム感のある定番ゲームですね。
31位~40位
31. ルミス / ブロックス3D(2003年)
32. パターン(2023年)
33. ボスク(2019年)
34. ピュンクト(2005年)
35. ティンタス(2016年)
36. ラインズ・オブ・アクション(1969年)
37. クラミ(2011年)
38. ジェムブロ(2003年)
39. ビラボン(1992年)
40. コリドール(1997年)
引き続きブロックスシリーズがランクイン。ジェムブロもメーカーは違いますが実態は「ブロックス ヘキサゴン」ですね。パターンは色を主張しながら得点域を広げていく領土ゲームで、グレートプレインと同じく曼荼羅などで成功したTrevor BenjaminとBrett J. Gilbertのデザイン。ボスクは4段階のフェーズで得点を獲得する自然モチーフの領土ゲームです。
ラインズ・オブ・アクション、ティンタス、クラミ、コリドールは筆者の好きなゲームたちで嬉しいランクインです。ティンタスはGerhard Spieleのゲームとしては最高位になります。
41位~50位
41. アリマア(2002年)
42. ラグナロックス(2022年)
43. ウルビーノ(2017年)
44. カワレ(2022年)
45. バトルシープ(2010年)
46. ツイクスト(1962年)
47. バグハウス・チェス(1960年)
48. ペンテ(1977年)
49. ミジンリーフ(2010年)
50. ナヴィア・ドラップ(2004年)
60~70年代の一昔前のゲームが目を引きます(なぜか80年代のゲームがないですね)。個人的にはウルビーノとツイクストが嬉しい。バグハウス・チェスは2対2の変則チェス。アリマアは強さの順位のあるコマ同士で押し引きをして捕獲する、チェスと同じコンポーネント構成ながらチェスとは全く異なるゲームです。
ラグナロックスはサントリーニの作者の新作でアマゾン(51位)をベースにしています。カワレはタクにいくぶん似た移動ルールをもつ変則四目並べ。ナヴィア・ドラップはアニメフィギュア風のコマを用いるチェス系のゲームですが、ゲームの出来自体に定評があるようです。
きりがないのでこのあたりで。なお50位のナヴィア・ドラップの実際の順位は129位で、おおむね全体の4割弱が「運要素のない」アブストラクトのようです。筆者の代表作メリディアンは現在アブストラクトカテゴリで438位なので、このくくりでは現在175位くらいということでしょうか。アブストラクト500位から徐々に順位が上がっているようなので、今後の展開で「運要素のない」アブストラクト100位を目指したいところです。
来年は新フォーマットのゲームをなるべく多くリリースしたいと思っていますので、そちらもよろしくご注目ください。