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時間切れ!倫理 156 折口信夫

 柳田国男の弟子で一番有名なのが折口信夫です。信夫と書いて「しのぶ」と読みます。釈超空(しゃくちょうくう)という名前で、歌人としても活躍しました。
 この人は戦後の1953年まで生きています。高度経済成長前の日本には、まだまだ昔の風景が残っていて、昔ながらの村落共同体的なものも残っていた。折口は日本全土を旅して、伝統的な祭りを観察します。
 また万葉集や神道の研究などもしている。柳田国男とは違って国学の系統も引いている人です。古事記や万葉集などは全部暗記していたのではないかな。
 彼の説で有名なのが「まれびと」の理論です。死後の世界の話なのですが、死んだ人の魂はどこに行くのか。柳田国男は死んだ人の魂はちょっと遠くの山の麓あたりに漂っていて、お盆の時などには帰ってくる。それが終わるとまた山のふもとの辺りに漂っている。何十年かするとふっと消えていく、そんなふうに考えていました。
 折口信夫は各地の祭を研究してそれとは違う考え方を打ち出しました。
 日本の各地で、冬至になると様々な祭りが行われていました。冬至は昼の長さが一番短い時です。冬至は死を意味する。冬至を境に昼が長くなっていきます。これは再生を意味する。
 冬至には、再生のための活力を与えに「常世(とこよ)」から「まれびと」がこの世界に訪れる。こういう構造を折口信夫は提唱しました。「常世」とは死んだ人の魂が行く世界で、はるか西の海の彼方にあると考えられている。そこから訪れる「まれびと」というのは、例えば、「なまはげ」のような鬼の仮面をつけて祭りに登場する異形の者達です。彼らは「常世」から訪れてくるというのです。
 そして、「まれびと」が再生に向かう活力を、この世界にあたえる。
 同じような祭りが全国各地に残っており、それらを研究観察することによって、彼はこういう理論を打ち出しました。いまや定説となっている有力な説ではないでしょうか。
 折口信夫がこういう考えに至った方法が独特です。彼は、全国各地のこういう伝統的な祭りをめぐって、じっと観察する。観察しながら、かれの心はこのような祭りをつくりだした昔の人々の心を追体験する。そういう研究方法を取った人です。折口には霊感というか、神がかり的な特殊なレーダーがついているイメージが、私にはあります。

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