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ショートショート:「コンセントの場所」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノです。
こんな場所、あったらいいなぁ。
少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。
【コンセントの場所】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・サセボユウタ 33 プログラミングのバイトをしている。
・カシワギユキコ 34 サセボたちの同期でマドンナ。
・ヨコヤミツテル 33 サセボの色んな意味でライバル。
廃墟めぐりが趣味何て、誰に言えようか。
友達は多くも無く少なくも無くって感じで、そんな友人たちの中でも言うほどの仲はいない。
何故廃墟を巡るのか? それは…ズバリその〝神秘的な空気〟だ。
荒廃した建物や場所、そこに根を張る草木の虚無感と生命力の矛盾のコントラスト…。
人という生命なんて遺物が暮らしていた場所で、新しいコミュニティが派生している光景。
ん~!それがたまらないんだよなぁ…なんて思いながら廃墟めぐりを続けていたある日のこと。
ネットの書き込みで気になる廃墟記事を見た…〝人の縁を操るパワースポット〟!?
そんな廃墟パワースポットなんて不思議な場所…渡りに船! 行ってみたいに決まってる!
と言う訳で、半日かけて野を越え山を越え、とある電波塔の廃墟にやって来たのだが…。
「なんだここ…コンセントだらけの部屋?」
第一印象は…怖さ…だった。 だから何もせず、数枚写真を撮ってその日は帰った。
翌日、バイト先で先日の廃墟写真を眺めている時だった。
「何それ、廃墟写真? うおっ! 気持ち悪っ。」
「うわっ!ちょっ!見るなよ!」
「バイトの休憩中に油断しすぎだって。スゲーなココ。」
「何見てるの? 廃墟写真? 凄い数のコンセントと、プラグだねぇ。変な場所もあるもんだね。」
「お前、廃墟とか行く趣味合ったんだな。」
「いいじゃんんか別に…。」
「あ、ここ…〝人の縁を操るパワースポット〟じゃん。」
「え、なんでここ分かるんだよ。」
「そりゃお前…なぁ。」
「え、ミツテル行ったことあるの?」
「あー、ちょっと前に身内で流行っててさ。そん時に。」
「そうなんだ…。」
「あ、今夜三人で久々に呑みにいかない?」
「今日?」
「話したいことあるの。」
「…分かった。」
夜、近所の居酒屋でソワソワした二人に突然打ち明けられた。
「俺たち、結婚するんだ。」
「それでね、仲人…お願いしたいの。いいかな?」
「え……い、いつから?」
「は? 何が?」
「いや…ふ、二人って、いつから付き合ってたの?」
「は? いつからって…。」
「半年前かな、ほらミツ君が肝試しではぐれた時。」
「え? そんなのあったっけ?」
「あったよ、覚えてないの?」
「いや、そんなのどうでもいいだろ? だから、いいのか悪いのか! どっち?」
「…も、もちろん…いいよ。」
「ありがとうサセボ君!」
「サンキューな! いや~みんな何でか断るからさ! 助かったよ。」
二人が、付き合っていた…しかも、半年後には結婚!?
ショックだった。
自分の縁を取り持とうとしたら…先越されるなんて…。
あの時、噂信じてコンセント差し替えときゃ良かったって直感的に思った…。
電波塔の奥、場所は恐らく地下三階か四階に位置する大きな会議室よりも一回り大きい部屋。
そこに壁面全体にコンセントの差込口、その穴を繋ぐプラグが所狭しと繋がっている部屋を発見した。
間違いなく、噂の〝人の縁を操るパワースポット〟だった。
その光景は、きっと集合体恐怖症の人が見れば卒倒するだろうし。
スチームパンクが好きな人が見ればたまらない近未来感だし、僕にとっても少しワクワクする光景だった。
こういう何の施設だったのか、何の管理室だったのか分からない様な部屋も好物だ。
懐中電灯を照らしながら壁を隅々まで観察すると、見たこのある名前を見つけた。
「…〝カシワギ、ユキコ〟?」
職場の同期…片思い中の女の子と名前が一緒…。
「コンセントの先は…〝ヨコヤミツテル〟!?」
同じく同期の…友達の名前。
「…偶然か?」その時、イタズラ心が少し芽生えたが、グッと堪えて何枚か写真を撮ってその場を後にした。
それを今…無性に後悔してる。
「どうしたの?」
「いや…おめでとう。」
「本当ありがとうね、ユウタ君。」
微笑む彼女は…もうこの目の前の友達…もとい恋敵の…。
失恋の味は、泣かない様にと流し込んだぬるいビールの味だった。
気付くと、俺は廃墟に向かっていた。
「はい、カシワギです。」
「もしもし、カシワギさん?」
「サセボ君どうしたの?」
「ごめん、今日バイトちょっと休むわ。」
「え、珍しい。 風邪?」
「うん…これから病院。」
「そっか…お大事にね。」
「…ありがと。」
初めて好きな人に嘘をついて、また半日かけて電波塔に向かった。
「…あった。」
〝カシワギユキコ〟のコンセント…その横には…俺の名前。
〝サセボユウタ〟のコンセント穴。
差し替えるのに少しのためらいもあったが…これで運命が変わるなら…。
そう願いながら、コンセントを差し替えた。
また翌日…コンセントの効果は、確かにあった。
「おはよう、ユウ君。」
「え!? …おはよう。」
「どうしたの?」
「いや、呼び方…。」
「いつもユウ君だったじゃない?」
「じゃないって…そうだっけ?」
「そうだよ? 何か変だよ…まだ熱あるんじゃないの?」
「あるかも。」
「いいよ、店長には私から言っとくから。 今日早退しちゃいな?」
「え、でも…。」
「好きな人が無理するのは嫌だからさ、ほら。」
「え!?…あ、ありがとう。」
「バイト終わったら、家行くね。」
片思いして二年、家に何て来たことないはずのカシワギユキコが来る!?
夢見心地で帰宅して、気付いたら…。
「どうしたの? 本当に大丈夫?」
「だ、大丈夫。」
「重症だねこりゃ…。」
本当にいる…カシワギさんが、俺の家に!
「今日泊ってっていい?」
「え!?」
「心配だし、一人って心細いじゃん?」
「そう…だね。」
三十過ぎて諦めていた青春の様な時間が…今…叶った。
翌朝、やっぱり夢だったのか…カシワギさんは部屋に居なかった。
「サセボ君、昨日ごめんね…勝手に帰って。呑みすぎたのか記憶ないんだけど…家に遊びに行ったんだね私。」
「……へっ?」
「どうしたユキ、あんま遊び過ぎるなって。」
「え、ごめん。記憶案まなくて呑みに行ったのかも曖昧で。」
「行ってたよ、連絡来たもん。 あんまユウタ困らせるなって。」
「そうだよね、本当ごめん。」
「…すまんな、ユウタ。」
夢だと思いたくなくて。店長に確認したら…確かに俺は昨日早退していたし。
それを伝えに来たのは、間違いなくカシワギさんだったと…。
「もしかして…。」
そう思って、俺はバイト終わりに急いで電波塔に向かった。
そこの〝カシワギユキコ〟のコンセントは、元の〝ヨコヤミツテル〟に刺し変わっていた。
「…きっと、ミツテルだ。」
そう感じた時、無性に腹が立って…俺はまた、〝カシワギユキコ〟のコンセントを自分の元へ繋いだ。
翌日、また夢が…いや、現実が戻って来た。
「ユウ君、今日も家寄ってもいい?」
「…うん!? う、うん!」
「おい、ユウタ。」
「ん!?え…ミツテル?」
「帰り、ちょっといいか?」
「……いいよ。」
夜、バイト終わりにミツテルが神妙な面持ちで話し始めた。
「なぁ、悪いんだけど…邪魔しないでもらえるか?」
「…は?」
「ユキコのこと。…つかお前行ったんだろ? あのパワースポット。」
「やっぱりあのコンセントって…。」
「肝試しの時偶然見つけて…自分たちの名前見つけて、噂も知らなかったけど。興味本位で何か自分の名前とユキコの名前繋いだら…、肝試し終わりめっちゃいい感じでさ。」
「やめろよ、その話。」
「何かめっちゃ幸せだったんだよ! なのによ、お前…邪魔したろ。」
「邪魔って何だよ! そんなのズルだろ!」
「お前に言われたくないね! あそこ使って良い思いしたなら同罪だかんな!」
「でも…俺は!」
「知ってたよ! お前がずっと片思いしてたの! おれはそんなでも無かったけどさ…。」
「なら!」
「でもよ…一回付き合ったらめっちゃ献身的な感じで! もう、俺も好きなんだよ!」
「知らないよ…そんなの知らないよ!」
「知らなくても! …もう邪魔しないで欲しいんだよな、俺が先だからさ。」
「好きに…後も先も無いだろ!そんなの…そんなの只のズルじゃないか!」
「だからお前に言われたくないね!…とにかく、もう邪魔すんなよ。」
「でも、もう無駄だろ。 …コンセントは、俺のに刺さってるんだから!」
「今日だけ勘弁してやる…、明日には…もうお前の女じゃないからな。」
「ミツテル!」
「うるせえ! …人の幸せ横取りして、いい顔してた罰だ。」
捨て台詞を残して、ミツテルは車に乗って去った。
…きっと真っ直ぐ電波塔に行ったんだ。
俺も追うべきだったんだろうけど…。
「ユウ君、大丈夫?」
「大丈夫…家、行こうか。」
「…うん。」
その夜は、凄く落ち着かず…彼女と一緒に居ても上の空だった。
朝、その日はユキコより先に起きてご飯の支度をしている時だった…。
「あれ? …なんで私サセボ君の家に?」
「…………昨日。」
「昨日?」
「また、酔いつぶれていたから…。失礼かもって思ったけど、家で休ませてもらったよ…。」
「あ、そうなんだ…。 あれ、私、誰と呑んでたの?」
「もちろん、三人でだよ。」
「ミツ君と?」
「………そう。」
「そっか…ミツ君一緒に帰って無かったんだ…。」
「婚約者なのに…大変だな。」
「もうさ、色々遊び歩いてるの向こうなのにさ…私には遊ぶなって言うんだよ?」
「酷いな…、そりゃ酷い…。」
「でしょ? …正直、結婚が心配だよ。」
「……まぁ、この年までバイトして好き勝手やってたんだから…そう真っ当な感じにはならないよな。」
「そうだよ! もう就職とかも考えてもらわないと…。」
何か、心にチクチク来る会話だな。
この会話は、コンセントがまたミツテルの元に刺された証拠だ。
朝食を済ませ、ユキコは帰り…俺は、真っ直ぐまた電波塔に向かった。
もうこれで四度目…、コンセントをまた自分の所に刺そうとした時だった…。
「なんで……抜けない?」
よく見ると、穴は接着剤で固定されていて…抜くことが出来ない。
「ミツテル…そこまでして………。」
確かに、あの日。婚約を言い出した時のミツテルはキラキラと…幸せそうだった。
でも、この部屋で縁結びしたって……。
「ただの、ズルじゃないか。」
気付いた時には…コンセントを持ってきたカッターナイフで切断していた。
このコンセントで縁結びされて嬉しかったけど…やっぱりなんか違う気がする。
ここでの縁結びでズルするんじゃなく…真っ当に勝負しよう。
深夜、ミツテルが家に押し掛けてきた。
「お前、何したんだよ!」
「何って、コンセントを切ったんだ。」
「切ったじゃねーよ! どーしてくれんだよ! せっかく婚約まで来てたのによ!」
「ズルして婚約して、いい人生送れる何て考えが甘いよ。」
「何!? お前に言われたくないわ!」
「俺は! もう決めた。 告白する。」
「はぁ?」
「お前も、告白しよう。」
「何言ってんだよ。」
「白黒つけようって言ってんだよ。 同時に告白して…どっちが選ばれるかでいいじゃないか。」
「テメェ…。 分かったよ、それで決めよう。」
そして、翌日…カシワギさんを呼び出し居酒屋で呑むことに。
勝負の時が、迫っていた。
「二人とも、どうしたの?凄い顔して。」
「いや……。」
「別に……。」
「フフフ、何かさ。最近二人の家に沢山遊び行っててごめんね。まぁ記憶も無いから更になんだけど。」
「あの、ちょっと真剣な話いいかな。」
「どうしたの? ヨコヤくん。」
「あ!あの! 俺からも…話あるんだけど。」
「どうしたの、二人して。」
「あのさ…。」
「あの!ユキコさん! 好きです!」
「あ! あの!俺も好きだ!付き合ってくれ!」
「え?…え!?」
「ユキコは、どっちが好きなんだよ!」
「いや、そんな急に言われても…。」
「困るのは分かる…でも、大事な話なんだ。」
「店長。」
「え?」
「今なんて?」
「いや、だから…店長!」
俺の時間とミツテルの時間が…停止した。
「だから、ごめんだけど…二人とは付き合えない。」
「あぁ…そうだよね。」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!くっそー!お前のせいだぞ!」
「え?なんでサセボ君のせい!?」
「フフフ、いや…ごめん。ごめんなんだけどスッキリした!」
「はぁ?」
「ヨシ!呑もう!今日はとことん呑もう!」
「お前何言って!」
「よし!二人が私に振られた記念で呑もう!」
「何でユキコまで楽しそうなんだよ!」
「いいからいいから! そうかそうか! 二人は私が好きだったのか!」
「ハイ! めっちゃくちゃ好きでした!」
「くそおおおおお!ああああ!俺も好きだったよ!」
「よしよし! 今日は記憶無くすまで呑むぞ!」
「おおおお!」
「もうヤケクソだ!乾杯だ!」
その日、久々に感じるほど。 みんなで吐くまで呑んだ。
それからというもの、何だか俺たちはさらに仲良くなった気がする。
自分たちの本音をぶちまけられる間柄に変わった…。
確かに、あそこはパワースポットだったんだろう。 こんなに、みんなとの縁を深めてくれたんだから。
「よし!ユウ君、ミツ君!今日も呑みに行こう!」
「今日こそ吐かねえからな!」
「よし!今日も楽しんでいきますか!」
前よりも縁が深まり、深酒の量も増えた同期三人の中なのでした。
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
恋愛、難しい。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
《作品利用について》
・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。
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