息子が義務教育から脱出するまで
行き渋りの原因
長男は、地元の公立小学校を3年生の夏休みに離脱した。
好奇心旺盛で、何をやっても「楽しい!」と言っていた長男が、「学校つまんない」と言い出したのは2年生の夏頃だった。どういうことなのか、長い時間をかけて少しずつ聞き出したところ、学校で過ごす時間の両面である「授業」も「友達との社会生活」もどちらも彼には合っておらず苦しんでいるようだった。
授業がつまらないのは、「知ってることを何度もやる。いつもやることなくてぼーっとしている」という。
さらには「知ってること話すと静かにしてと言われる」という言葉が心に刺さった。とにかくおしゃべりで、朝起きた1秒後から、夜寝る1秒前までずっと喋っているような息子にとっては静かにじっと座っていると言うこと自体が苦痛なのだろう。知っていることを言いたくても大人数の一斉授業の中では、息子の不規則発言は妨害でしかないのだと思う。
授業を聞いていて「俺知ってる!」と思ったことにうれしくなり、自分の知識を披露したい気持ちを、押さえつけられた無念もわかるし、
進めるべきカリキュラムや数十人の生徒を前に、不規則発言をうるさく思う先生の気持ちもわかる。
友達とも気が合わないようだ。流行りのアニメやゲームに触れていないせいでそういう話題についていけないし、ついていきたいとも思っていないようす。自分が好きな、戦国武将や宇宙の話をしても「自慢すんな」とか言われる。(喋り方が、いかにも知識をひけらかす喋り方をするからだと思う)
長男は年中の時に、認可保育園からインターナショナルスクールのプリスクールにうつり、少人数クラスでのんびりと過ごしてきた。それぞれに好きなものや世界があり、それぞれにとても主張が強かったが、それを否定したり排除したりする子がいなかったので、自分の好きなことを「ひけらかし」て、否定的な言葉を投げつけられたのがショックだったようだ。
担任の先生との面談
不規則発言については、先生との個人面談でも度々指摘された。
「元気があってとても積極的でいいです。…が、今話すべき時なのか聞くべき時なのかという区別がまだできていない。外部講師がiPadの使い方を説明しにきてくれたとき、「俺知ってる!」と使い方を話し始めて。講師の方が怒ってしまって「それならあなたが授業をしたらいいじゃない」と言った。みんな、シーンとしている状況なのに、怒られたというのがわからず、意気揚々と前に出て授業を始めてしまった。あとで呼び出して、あれは、怒っていたんだよと説明したんですけど。」
先生もいたたまれなかっただろう。申し訳ない。でもそれよりも、息子に対して、そんなことで怒られ、そんな言い方をされ、意欲をもがれるような環境に置いてしまっていることに申し訳ないと思ったことで、自分が、息子を学校環境に適応させることよりも、ありのままの彼のままでいられるような場所を求めていることに気がついた。
外部機関への相談
じっと座っていることが苦手、ずっと喋っていたい、人を傷つける言葉を選んでぶつける、そんな特性を不安に思う部分もあり、区の発達・教育相談にも通った。
相談員の方はすごく丁寧で、話を聞いてもらうだけで私の気持ちが整理され、すごくありがたい時間で、一歩踏み出して電話してみて、本当に良かったと思った。
ジャッジすることなくただただ聞いて受け止めてくれて、こういう方がいる場所に通えたらと思った。
相談を重ねた結果、WISK検査を受けることになった。息子には「どんなことが得意で、どんなことが苦手なのかわかる検査だよ」と伝え、2時間ほどにも及ぶ検査を頑張ってもらった。
そろそろ結果が出るはずなので、結果についてはまた別の記事で。
追い討ちをかけるかのように…
2年生の秋ごろだったか、「今日は学校でなんの授業あったの?」と聞くと「うーん」と何か言いたげ。「何か嫌なことあった?」と聞くと「なんかさ、追いかけられて殴られるんだよ」。「なんで?!」と聞くと「わからない」と。その単語の持つ破壊力に私はびっくりして(いやいや、小学2年生だ、、、友達同士のふざけ合いの話のはず)と自分を落ち着かせながら、どういうことなのか少しずつ、小さな質問を重ねて状況を理解しようとする。
クラスの男女5〜6人が、息子を追いかけてきて叩いたり、トイレに行こうとするのを阻んだり、みんなで回し読みしている本を息子にだけ貸してくれなかったりすることがあり、休み時間が苦痛なんだという。休み時間がすごく嫌で、授業もそもそもつまらなくて、学校に行くモチベーションがどんどん下がってきているようだった。想像するに、息子が何か人を刺激するようなことやおちょくるようなことを言ってきっかけを作っているのだろうと思う。でもそれに気づいていない息子にとっては、ただただ友達に意地悪されているように感じているのだろう。
先生に相談したところ、どんなことがあったとしても暴力は良くないという話をし、叩いていた子たちは謝ってくれたと言う。しかしその後数週間後にまた再発し、今度は夫が学校に話に行って、同じ対応によって、また叩かれたり追いかけられたりと言うのは無くなった。
学校が相手の子たちの保護者にも連絡したため謝ってくださった方も数人いたが、大半は特に反応がなかった。保護者会で会っても特に触れることもないので「子供同士の些細なことで、大袈裟にしゃしゃり出てきて」と思われているのかもしれない。自分でも、大袈裟にしゃしゃり出るほどのことではないのかもしれない、という自覚があるけど。けど…。
息子は「嫌なこと」は無くなったが、きっとその「やられる立場」みたいな立ち位置がなかなか変わらないのだろう、学校の友達との距離感がますます遠くなった。保育園時代の友達や習い事の友達など仲のいい友達はいるが、学校がつまらないという気持ちはますます加速しているようだった。
他の「選択肢」
我慢してなんとなくやり過ごしていくことも考えたが、凄まじい吸収力があるこの年齢に、毎日長時間過ごす場所がつまらないなんて、貴重な時間がとにかくもったいない、子供には、世界は本当は楽しい学びに溢れていると言うことを実感していて欲しい、と言う気持ちが日増しに強くなり他の選択肢を探すことにした。
学校に通い続けながら、彼をサポートしていける方法と、学校自体を変える方法、どちらも検討し始めた。
不登校に対するサポートは拡充してきているとはいえ、まだまだ選択肢が少ない。不登校と一括りに言っても、子どもごとにケースが違い、求めるものが違い、それぞれに合う環境は整備されていない。
🔸ホームスクーリング
興味はとてもあるけど、自分が通勤しているため、毎日家で過ごす時間が長いのは心配なのと、毎朝起きて、同じ場所に通うというルーティンで社会参加していると言うことから離れないで欲しかったので現段階では断念。
🔸We are buddies
友達との横の関係でもなく、親との縦の関係でもなく、関係のない大人との継続的な「斜めの関係」を大切にする理念に共感して面談させてもらった。とてもいいなと思ったけど、人気なので担当の方を紹介していただけるまで数年待ちのようで…待ってます。
🔸フリースクール
近所で通える範囲のところはいくつか調べて、それぞれに全然特色が違って、合いそうなところもあった。
小学校と連携して出席日数に換算してくれるところは、自習がメインだったので、自分で学習を進めるより、喋り相手がいる場所や、常に新しい学びが溢れているような場所の方が息子に合うだろうなと感じた。
🔸オンライン学習、放課後スクール
学習指導要項を進めるものから探究学習まで様々あり、今までも習い事として何種類か通ってきたが、放課後の時間が充実すればするほど、昼間の学校のつまらなさが引き立つ部分もあるようで「朝からここにいきたいな〜」とか「オンラインじゃダメなの?家でできる」とか言い出したので、やはり昼間の居場所を変えた方がいいような気がしてきた。
辿り着いた結論 インターナショナルスクールへの転校
結局、我が家の結論はここに辿り着いた。社会には属して毎日自分のいる場所があることは必要だと思ったから、転校と言う選択肢を選んだ。
通学が負担にならない範囲で、たくさんの学校や類の施設を見学して、一番息子にあうと思ったのが、電車で2駅のところにあるインターナショナルスクールだった。とにかく発言を受け止めて対話的に学びを深めてくれる環境がいいと思った。
せっかく今の彼は学ぶ意欲が高いので、それを深めてくれる先生と内容に期待できると思った。
学校を選んだのが2年の冬。そこから願書を提出し、体験と試験と面談があった。
2023年8月末から、3年生の学年に入れることが決まった。
小学校転出へ
次にすべきは今の学校に伝えること。
学校自体に不満があるわけじゃない。熱心な先生の多い、いい学校だと思うし、3年生になってからの担任の先生は、息子の良さを伸ばそうとしてくれるいい先生だった。
夏休み前のある日、ご多忙の中お時間をいただき、現状と、息子の気持ちと、家族の気持ちと、2学期からはインターに転校することを伝えると「学校としてはとても寂しいけど、応援します」とあたたく受け止めてもらえた。「授業がつまらないのは、そうだろうと思います。こうしたらどうなるの、こう言うふうにもやってみたい!と常に次ステップの学びを提案してくれるのですが、なかなか準備や環境の問題で対応できなくて。」とおっしゃてくれた。状況を理解しない勝手な提案や意見を、迷惑がられることに慣れていた私は本当に、心底、ありがたくて、涙が出た。
後日たくさんの荷物を引き取りに行った際も、寂しい、と言いながら笑顔で送り出してくれた先生には感謝しかない。
本人は、学校のみんなに伝えたいものの、どう言ったらいいかわからず「なんで転校するのって聞かれたら説明できないから、言わないでいく」と言って正式な挨拶はしないまま夏休みに突入した。この学校やみんなのことが嫌なわけではないんだけど、別のところに行ってみたいということを、彼が持つ言葉には変換しきれなかったのだと思う。
義務教育を外れると言うことは、子供を就学させる義務違反になるので、教育委員会などと向き合うことになると聞いたことがあるので、今後の展開にはまだ少しドキドキしている。
授業料が高額なのと日本の学校の卒業資格がないことが後の選択肢を狭めてしまうので、今のところ、数年で地元の小学校に戻ることを想定していて、本人もそのつもりでいるが、通ってみて、本人がその時どうしたいか次第でまた考えようと思っている。
とにかく今、辛い、つまらない、毎日から逃げようと思っただけ。
少しの勇気とたくさんのお金がかかったけど。
どうか楽しく学んでほしい。あとは背中を押して送り出すのみ。