箱
使い終わったガムテープの芯で箱を作り始めて、もう二十年になる。
きっかけは、アロマセラピーだった。
当時、わたしは銀座のアロマセラピーショップを辞めたばかりで、ブログでエッセンシャルオイルのことを書いていた。ずっと続けるつもりでいた仕事を突然失ってショックだったのと、どこかでアロマセラピーにつながっていたい気持ちを捨てきれなかったから。
そうしたら、嬉しいことにエッセンシャルオイルを売って欲しいというひとが現れた。それでネットでショップを開いた。嬉しかった。
わたしのお客様の半分は、自分で使うためだけじゃなく、大切なひとへ贈るプレゼントとして購入してくれた。ものすごく嬉しかった。
プレゼントというからには、綺麗にラッピングしなくてはいけない。
わたしは一生懸命ラッピングしたけれども、贈り物にする前に、買ったひとにも香りを確かめてもらいたかった。そのひとだけのために作る、オリジナルのブレンド精油も扱っていたし。
手渡しできる場合は、いったんラッピングを崩し、香りを確かめてもらってから、もう一度ラッピングをやり直した。でも、ネットだとそうはいかない。
それで、小さな飾り箱があったらなあと思うようになった。
綺麗な包装紙やリボンで包まれた小箱で、ぱかっと蓋が開くようなもの。
そんなのどこにも売ってないので、作ることにした。
はじめはティッシュの箱やお菓子の箱を利用して四角い箱を作っていたのだが、ふと、使い終わったガムテープの芯で箱を作ることを思いついた。
わたしはモノを捨てるのが苦手で、物心ついてから、ガムテープの芯をひとつも捨てたことがなかったので、家には使い終わったガムテープの芯がたくさんあった。
ガムテープの芯の他、綺麗な包装紙や紙ナプキン、リボン、ビーズのネックレス。どれもこれも捨てられなくて、大事に大事に、何年も何十年もとってあった。
そういうものを利用して作ってみたら、びっくりするくらい、かわいい箱ができたのだ。
嬉しかった。
銀座のアロマセラピーショップに捨てられたわたしは、どこか、使い終わったガムテープの芯と自分を重ねていた。
ガムテープの芯は硬くて丈夫で、なんか大きさがちょうど良くて、みどころがある奴なのに、使い終わったという理由で、捨てられてしまう。
わたしは何も捨てたくなかった。
使い終わったガムテープの芯にだって、捨てては惜しい、可能性がある。
ほら、こんなに素敵な箱になるんですよと、わたしを捨てた社長に訴えたかった。
そうしてできた箱の写真もブログにアップしたら、今度は箱だけ欲しいというひとが現れた。嬉しかった。ネットショップに品物が増えた。
そしたら、イベントに出店しませんか? とか、びっくりするようなお誘いも頂くようになった。
ある劇団がお花屋さんで、お花にまつわるお芝居をする。
その会場に、花をモチーフにしたアート作品を飾りたいから、協力してもらえませんか、なんて言われたこともある。
閉店後のお花屋さんに椅子を並べて作った劇場は、美しい花々と花の香り、そして自分を含めた数人のアート作品が所狭しと並べられ、なんとも言えない居心地のいい異空間になっていた。
けれど、それももう、十年以上も前のこと。
しばらく箱を作ることもなく、遠ざかっていたのだけれど。
今の住まいに引っ越したことを契機に、また箱を作ることになった。
たまたま、わたしの部屋に遊びにきたTちゃんに箱を見せたら、自分も作りたいと言われたのだ。
食堂で、Tちゃんと一緒に箱を作っていたら、たまたまそこにいたYさんから、その箱は素敵ですね、是非ワークショップを開きませんか?と言われた。
で、来月の8月7日、箱のワークショップを開くことになった。
自分では決して作れないような素敵なチラシも、ひょひょいと作ってもらえた。
よくわからないのだけれど、箱を作り始めると、わたしの運命は回り出す。
そんな気がする。
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