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【反省】娘の気持ちを超えてしまった母と一緒に、娘は秋の山を越えた
長女が英語の暗唱大会の学校代表に選ばれた。
中3だ。
もうそんな歳になったのか、と思った。
我が街の英語の暗唱大会は、市内の各中学校から学校代表者1名ずつが出場し、教科書の文を暗唱してその出来を競う大会である。
発音、表現力、正確さなどをジャッジされ、その中から最優秀賞1人と優秀賞4人が選ばれ、最優秀賞の生徒だけが全道大会に出場できる。
英語が得意な中3の子は、たいていこの暗唱大会か、高円宮杯英語弁論大会(通称・宮杯)に出ないかと先生から声がかかる。長女は暗唱大会はどうかと声をかけてもらった。
25年前、私は宮杯の方に出場した経験がある。
伝統と規模を考えても、本音を言えば、私は宮杯に出てほしかった。あれは特別だ。宮杯は確実に私の人生を変えた。これは私が子どもを授かった時からの夢だ。わが子を宮杯に!!
・・・が、早々に諦めた。
長女の通う中学校では、今は弁論大会の指導はしていないと言われたし、そもそも娘には「主張したいこと」がないらしい。
「だから弁論じゃなく暗唱にするわ〜」と
自分自身で出場を決めてきた。
親の夢を勝手に背負わせるもんじゃない。
私もそれで良いと思う。
ちょっと残念だったけど。
いや、結構心残りはあるけど。
まずは、学校代表として先生から「挑戦してみないか」と声をかけてもらったことが誇らしいし「やってみます!」と答えた長女を頼もしいと思った。それで充分。
私は自宅で英語教室をしている。
年中さんから中3までの約60名の生徒が在籍しているが、その中でも中3生は10名。そのクラスで暗唱大会の話題になった。
「今度の暗唱大会にうちの娘が出ることになったんだよ」と話すと、
「先生、それ、私も出ます。」
と、生徒の一人が手を挙げた。すると、
「え!私も出ます!」
「あ、私もです。」
「多分、私もです。」
なんとうちの教室から5名が出場すると判明した。
いや、多い!!笑
みんな違う学校の、それぞれの学校代表だ。優秀な生徒が多いと思ってはいたが、こんなにとは!
人数が多くても、とにかく先生としては、娘も生徒もみんなに時間を作って練習してあげたい。
しかし、私には弱点がある。
私は、暗唱指導が得意ではないのだ。
私の得意分野は、英検指導。
暗唱指導した経験は少ない。
それでも、生徒の練習は見てあげたい。
まずは手始めに娘の指導からスタートさせて、具合を見ることにした。
「まず、教科書の原稿を一回読んでみて」
と伝えると、娘は教科書を読み始めた。
読ませた暗唱を聞いて、
「あれ、意外とやばいかも…」と思った。
長女が選んだ原稿は、スティーブジョブスの人生を書いた文章だ。原稿の中でも約509語と一番長い。ざっくり読んで4分半。M1の決勝ネタより長い。それを一人で語り続ける。
確かに発音は良い。長年英語を習ってるだけはある。学校の先生にも、もう優秀賞を取れるレベルだね!と褒められたと喜んでいた。
でも、上手なだけだ。
人に何かを伝えるチカラがない。なにも伝わってこない。まさに、教科書の音読だ。上手に音読できてますね、で、はいおしまい。
これは、結構みっちり練習しないとやばい。
さて、どうするか。
そこで、私は人生40年のコネと人脈を駆使して、スピーチ指導がバツグンに上手いだろう講師をオンラインでお招きした。
Chandra先生だ。
シャンドラ先生、通称・ちゃんちゃんは、以前もnoteに登場した私の大学時代のクラスメイトである。
ちゃんちゃんは元英語の先生で、お父さんがアメリカ人、お母さんは日本とスイスのハーフ。日本人とネイティブの両方の感覚を持つコテコテの京都人。彼女はおもろいだけでなく英語のスピーチ指導の実績もある。
これはもう、ちゃんちゃんに頼むしかない!と連絡した。快諾してくれたちゃんちゃんと、長女の練習1回目がスタートした。
ちゃんちゃんの指導方法は、おもろい。
聞いたことも見たこともない超個性的な指導方法と、それに首をかしげながら必死についていく真面目な娘を隣で見ていた母は、腹を抱えて笑った。
1時間以上みっちりオンラインで練習して「私が吹き込んだ音声送るから、たくさん聞き込んでまた2~3日後に見せてな!」とちゃんちゃんは言ってくれた。
娘の練習を聞いて、私の中の何かがふつふつと燃えてきた。
私は暗唱指導は得意ではない。
でも発音指導は得意だし、何より宮杯で全国まで行った経験がある。どんな練習をすれば良いのか、思い出した。
心強い先生もいることだし、私だって素人ではない。出来るだけ音声を聞いて原稿を読み込んで、また週末に練習しようと娘と約束して、その日は終えた。
娘はスティーブジョブスの事をもっと理解するために、図書館で学研まんがを3冊借りてきた。
平日は授業があるので、土曜日の空いている時間に生徒の練習を見てあげることになった。
長女以外の生徒4人の指導が始まった。
みんなとっても上手だ。発音の上手い子、暗唱が完璧な子、表現力のある子、内容理解がしっかりしている子、本当に様々だった。
一人一人の発表を聞いていたら、やはり指摘する箇所はたくさんあったし、指導に熱が入った。その日は、そんなテンションのまま、私は長女に言った。
「今日練習、何時からやる?」
「あぁ、今日はなんか、いいや。」
なんか、いいや?
おい、なんだそれは。
暗唱大会なめとんのか。
いつもポジティブでやる気にあふれている長女に覇気がない。
「今日はいいやって、本番まで1週間だけど。」
「そんな事言ったって、今忙しくていっぱいいっぱいなんだって!」
珍しく、長女が怒った。
「8月末の期末試験が終わったと思ったら、次は書道の大会、それが終わったら進路決定のAテスト、でそのあとに暗唱大会、連休明けに合唱コンクール。やる事多すぎて、疲れる。」
長女は「バタン!」とドアを閉め、
部屋に戻ってしまった。
驚いた。めずらしい。
長女が私に怒りをぶつけるなんて、そうそうない。彼女は追い詰められていた。
言い訳をするわけではないが、私はテスト勉強しろ、と(長女には)言ったことがない。書道の大会も長女が自分でエントリーした。
合唱コンクールの課題曲はアンジェラ・アキさんの「手紙~拝啓十五の君へ~」だが、長女は部屋でずっとアンジェラの練習をしている。合唱コンクールなんて、そんな家で練習するもんじゃなかったけどな。ま、そのエネルギーで全部に向き合ってたら、そりゃ疲れるわな。
真面目なのだ。そういう性格なのだ。
全てに全力で取り組みたいのに、体力と時間が追いつかないのだ。
私は母だけどあの子の英語の先生でもあるから、私が出来るのは暗唱の練習に付き合う事かと思ってたけど、少なくとも今長女はそれを望んでいない。
母は、反省した。
書道の席書大会
Aテスト
暗唱大会
合唱コンクール
正直、私は暗唱大会を一番に頑張ってほしいと思ってしまう。
Aテストは一般受験生のためのテストなので推薦希望の長女にはあまり関係がない。それでも、彼女は手を抜くのを嫌がった。
もちろん書道の大会も大事だが、英語科の推薦を取りたいのであれば、推薦書にも書ける英語の暗唱大会を一番頑張るのが正しい優先順位の付け方ってもんじゃないか?と私は思ったが、彼女の中の優先順位は揺れていた。
よーく悩んだ彼女は、とりあえず
「合唱コンクールを一番がんばりたい」と言い始めた。
・・・え??
合唱コンクールなんて、もし金賞取っても推薦書にも書けないじゃんか。金賞が取れたらそりゃ嬉しいけど、喜ぶのはクラスメイトとアンジェラ・アキくらいで、残るのは思い出だけだ。合唱は、優先順位、一番低くてよくないか…?
そう考えながら、私は、はっとした。
それは、本人の気持ちを無視した大人の意見でしかないよな。
中3の娘は、頭の中で計算して物事の優先順位を決めているわけではない。目の前の状況もわかった上で、色々な整理のつかない気持ちと戦いながら、心の中の真ん中に聞いて、一番頑張りたいものを決めようとしているのだ。
これからの人生、キャパオーバーになることなんて、山ほどあるだろう。その時に優先順位を決めるのは自分自身だ。何を軸にそれを決めたのか、見極めたらいい。間違ってもいいんだ。今しっかりと経験を積み上げろ。
あの子の人生だ。
あの子が優先順位を決めたらいい。
私は思っている事は言う。私の考えも口には出す。それを一意見として、聞いても聞かなくてもいい。最後に何が一番大切なのか決めるのはキミだ。
しかも、
今回の暗唱大会は、私の欲も出てしまっていた。
自分の生徒たちも出る暗唱大会だ。他のみんなが優秀なのもよーく知っている。他の生徒たちが優秀賞以上をとって、娘が何も取れなかった時「あの子は先生の娘なのに賞も取れなかった」なんて言われたら娘だって悔しいに違いない・・・。
でも、そんなの嘘。
それが悔しいのは、多分、私だけだ。
そんなの娘には1mmも関係ない。
そんなん、私のちっぽけなちっぽけな、本当にどうでもいい見栄だ。
子どもの気持ちを、親が超えては行けないのだ。
娘がそれに力を入れようと思ってないなら、
私はお尻を叩くべきではない。
優先順位をつける練習だ。
全部がんばるのが無理なら、どれかを捨てたり手を抜くことも時には必要になる。手探りで進みながら、今それを学んだらいい。
娘に向き合い、自分に向き合い、見栄を捨てようと決めた。
次の日、書道の大会に向かう車の中で、私は娘に謝った。
「ママさ、英語の先生だからやっぱりあなたには暗唱大会を一番にがんばって欲しいと思ったんだよね。他の生徒も出るからその中で絶対賞を取って欲しかったし。でもそれはママの都合だし、あなたには一切関係ないよね。ごめん。それを押しつけて、悪かったなって思ってる。」
うーん、と言いながら、
長女は静かに話し始めた。
「別に、暗唱大会をがんばりたくない訳じゃないんだよ。」
「知ってる。」
「ただ、いっぱいいっぱいなの。」
「うん。見ててわかるよ。」
「一つの山に登ったと思ったら、もう目の前に次の山があってまた登らなきゃいけない。全然休めない感じが続いてるんだよ。しかも、いつも聞いてるK-popも我慢して、暗唱の音声何回も聞いて、で、それ終わったらアンジェラ・アキを聞くの。その繰り返し。そろそろK-popが聞きたい。」
そうか、そんなにがんばってたのか。
「書道も好きだし、英語も好き。テスト勉強もしたい。合唱も金賞を取りたい。でも、合唱を一番がんばるのかと聞かれたら、それも違う気もしてきたし、テストより暗唱が大事な気もするし、考えても、どれを一番がんばっていいのかわからん。」
そうだよね。わかるよ。自分にもそんな時はたくさんあった。だから、人生をそこそこ長く生きた母は、それなりに思った事を言わせてもらうよ。
「そしたらさ、とりあえず目の前の一番近い山を精一杯登るってのはどうよ。」
「あぁ。例えば今日なら書道の大会ってこと?」
「そう。で、今日は他のこと忘れて書道に集中して精一杯がんばってくる。で、今日が終わったら、次は明後日のAテストを一番がんばる。手を抜けないなら、そうやって、一番目の前の山をひとつひとつ全力で登るしかないんじゃないか?」
「あーね。なるほど。」
長女は府に落ちたようだった。
「それなら、わかるわ。」
そう言って長女は書道の会場に着くと、スタスタ歩き始めた。さっさと自分の書く場所を決めて、床に新聞紙を敷き、半紙を広げ、もくもくと準備を始めた。
長女の書道の大会はお昼には終わった。
長女は片づけをしながら
「ま、とりあえず、終わって良かったわ。」と言っていた。
翌日、書道の大会の結果が出た。佳作だった。
そうやって、長女は一つずつ山を登って行った。
3日後のAテストの結果は散々だったらしい。
前日に「歴史の範囲があと1700年分終わってない」とかつぶやいてたから、まぁ、期待してなかったけど、本人は晴れやかな顔をしていた。
Aテストが終わった日の夜に、2回目のちゃんちゃんとの練習があった。
「前回よりめちゃくちゃうまくなってるやん!」と褒められた。「私の音声、たくさん聞き込んでくれたんやな、ってわかるわ。」と言われ、本人も自信がついたようだった。ちゃんちゃんには感謝しかない。
そこから本番までの3日間は、自分から
「ママ暗唱練習見て。」というくらいにはやる気を取り戻し、積極的になっていた。
前日の夜も遅くまで私に練習を見てほしいと言った。最後の最後に「なんか、明日が楽しみになってきた!」と言い始めたので、私はもう、この子は大丈夫だと思った。
ついに暗唱大会当日を迎えた。
会場は初めて訪れた中学校の多目的ホール。
会場前では、たくさんの中学生が引率の先生と最後の練習に励んでいた。私は引率で来ていた長女の学校の英語の先生に挨拶した。先生は
「娘さん、最後の3日間くらいの追い込みと上達具合がすごかったです」と褒めてくれた。私も同じこと思ってました、と伝えた。
私は、自分の生徒たち全員にも最後のエールを送り、保護者さんに挨拶をし、席についた。
今日は保護者でもあり、先生でもある。
長女は緊張していなかった。
ただ、楽しみだと言っていた。
発表が始まる。長女は3番目だ。
名前が呼ばれ、壇上にあがる。
そして、ゆっくりとタイトルから読み始める。
”A Graduation Gift from Steve Jobs."
4分半、一度も止まらなかった。
流れるように、堂々と、はっきりと。
自信に満ちたスピーチだった。
上手だった。
発音も表現も素晴らしかった。
今までの練習の中で一番上手な暗唱だった。
でも、それは私の生徒全員同じだった。
クラス全員の前で発表し合ったのが3日前。
この3日間で、全員とてつもなく上手になっていた。みんな忙しい中、どれだけ練習したんだろうか。
みんなの暗唱を聞いて、胸が熱くなり、鼻の奥がツーンとしてきて、私は保護者席で、泣いた。
3時間の静かな激戦の後、大会は幕を閉じた。
審査と総評の後に、
最優秀賞1人と、優秀賞4人が発表された。
うちの生徒の一人がなんと、最優秀賞を取った。
以前から圧倒的にスピーチが上手な子だった。
一位になるならこの子だとみんなが思っていたので、納得の最優秀賞だった。
その他にもう一人、生徒が優秀賞を取った。元々シャイな子だったので、こんな大勢の人の前で、広島の原爆についての題材を発表したのを見て、感動してしまった。こちらが悲しくなるほどの表現力と素晴らしい発音で発表してくれた。泣いた。
そして、娘。
うちの娘も、優秀賞をもらうことが出来た。
名前が呼ばれた瞬間「よっしゃ!」と静かに一人、保護者席でガッツポーズをしてしまった。
誇らしかった。そしてやっぱり安心した。
意外と、欲は消えてなかった。
帰りの車で娘は
「また一つ山を越えたわ。」と
K-popを大音量で流し始めた。
「今日から好きなだけ聞けるね。」
と言ったら
「いや、まだアンジェラがいるから。」
と言っていた。
相変わらずストイックだった。
その2日後に合唱コンクールがあった。
毎日「今日の練習動画みて」と合唱の動画を見せられたので、私ももうじきアルトで歌えるんじゃないかと思い始めた。
迎えた本番では、最高のアンジェラが聞けた。
言わずもがな、母はずっと泣いていたので、にじんで娘が見えなかった。
娘のクラスは金賞を取った。
結果発表で「3年A組、金賞!」と言われた時、娘は友達と抱き合って泣いていた。それを見て、私も泣いた。
アンジェラもきっと喜んでる。
娘の忙しい秋は、終わった。
娘の、K-popを聞きまくる日常が戻ってきた。
私は「お疲れ様」という気持ちでいっぱいだ。
今回、私が学んだことは、
「親は子の気持ちを超えてはいけない」という事だ。
私に限ってそんなことはしないと思っていたけど、やはり自分の分野の英語に関しては、その気持ちを娘以上に超えてしまったと思う。
私は、学校の先生に口を出すタイプの親ではない。
でも、多分子どもたちには大いに口を出すタイプなんだと自覚している。ダメだとわかっていても、私の考えや思っていることは言ってしまう。
でも、母のそんな意見を聞いても聞かなくてもいい、とは思っている。
私は意見を言った上で、必ず「あとは自分で決めて」と伝える。決めた事には口を出さない(ように極力している。いや、出してるかな…)
自己決定が、いちばん大事だ。
でも中学生とは言え、そこに至るまでの思考回路がまだまだ未熟な時もあるから、私が間違っていると思う事は伝える。
子どもたちの意見に違和感を感じても、何も意見せずにすべて片っ端から受け入れるのは、これまた親として違うと思うから。
大切なのは、「対話」だ。
とにかくお互いが「この人に話しても無駄だ」とならないように。
普段「ママ全然話聞いてなかったでしょ~!」とは言われるが、今のところ「話しても無駄だ」とは思われてないと思う。
相手を否定せずに、共感し、傾聴することは、
人間関係の一丁目一番地だ。
その上で親の意見を伝えたっていいよな。
そして伝えたあとに、決断するのは子供たち自身だ。そのあとはその決断を全力でサポートしようじゃないか。そして時に、そのサポートを必要としていないのなら手を出さず、歯を食いしばって我慢しようじゃないか。
子どもにとって一番いい事を実践できる親でいたい。それがむずいんだけどさ。
私はとりえずこれからも、
しばらくはこのスタイルでやっていこうと思った。