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#8『天穂のサクナヒメ』から学ぶゲームデザインの引き出し(2)「失敗体験からの成功」

本記事は遊んだゲームから、一つのアイデアに注目してゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。

ゲーム開発者や、これからゲーム制作を志す方へ向けて、アイデアの引き出しとなれば幸いです。

ゲームの紹介

『天穂のサクナヒメ』(てんすいのサクナヒメ)は、2020年に、Nintendo Switch / PlayStation 4 などで発売された和風アクションRPGです。

アクションゲームとしての面白さもさることながら、稲作パートの米作り部分が奥深く、あまりにリアルに作られていることが大きな話題を呼びました。

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『天穂のサクナヒメ』 ©2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.

稲作で米を育てて主人公のパラメータを向上させ、そのパワーアップした能力でアクションパートを攻略するという、2つのパートが上手く組み合わさっていることもこのゲームの評価が高いポイントでしょう。

本ゲームの魅力は様々なサイトで語られていますので、本記事では改めて深くは触れませんが、私も非常に楽しんだ作品です。

最初はやり方が分からない稲作

本作では、育成SLG的なパートとして「稲作」があります。

この稲作パートはとても奥深い作りとなっていて、他のシンプルな農作ゲームでは、例えば……

・水やりをして
・時間が経過したら
・収穫!

という感じだと思いますが、本作はそんな単純なものではありません。
ざっと主なものを書き出すだけでも、

・田起こし(田んぼ全体を念入りに。石は取り除く)
・田植え(稲と稲の間隔でも変わってくる)
・水位調整(季節や天候に応じて調整が必要)
・雑草取り(こまめに)
・肥料を撒く(配合や養分の管理も大切)
・収穫(タイミングも影響)
・稲架掛け(乾かし度合いにも左右される)

などのように複数の育成パートごとに色々やることがあり、気温、水量、養分、害虫や病気など、様々なパラメータが関与してきます。

(※一応言っておきますと、最初に最低限のアドバイスはもらえるため、「やり方が分からない」「難しすぎて出来ない」ということはありませんし、完璧にやらなくても充分ゲームは進行できます)


数年経過するまでは便利なスキルもなく、稲作のやり方もよく分かってないため、全然上手く稲作が行えないのが普通です。収穫は出来てもその質と量は満足できるものではないでしょう。

これは一見ユーザーにとっては不親切、不快のように思えるかもしれませんが、制作者は敢えてこのようにゲームシステムをデザインしていると思っています。

最低限のヒントだけ与える

『天穂のサクナヒメ』では、稲作の説明が最低限のヒントだけで始まります。では、何故このようなデザインにしたのか。以下の2点の理由があると私は考えています。

1)最初に全ての説明を出し切ってしまうと、情報量が多すぎる。
2)失敗体験からの成功、という高揚感を感じて欲しい。

1)情報量の調整

世の中にあるゲームには、最初のチュートリアルで全てのゲーム要素を説明しきってしまおうとするものも多く見受けられます。

説明は一箇所にまとめてしまった方がゲームの造りは簡単になりますし、管理も楽なことは確かです。

ただ、プレイヤー側からすると最初のチュートリアルが長すぎると、早くゲームを始めたいのにいつまでチュートリアルをやらされるんだ……と飽きてしまいます。

また、まだゲームを始めてもいないのに次から次へと説明を投げ込まれても、何のことやらさっぱり理解できず、頭を右から左へ通り抜けるだけになってしまいます。


一つ例え話をしますが、初心者にサッカーを教えることを考えてみましょう。

ボールを蹴らせるよりも先に、「インサイドキックはこうでインステップキックは足のここで蹴る。軸足の置き方はこうで、身体のバランスの取り方は……」などと長々説明しても、初心者は全く理解できないでしょう。
これが、チュートリアルでいきなり全部の要素を話す方式です。

それよりもまずは「ボールを足で蹴ってみよう!」とだけ教えて実際に蹴らせてみて、下手なりにもボールを蹴ることを体験させる。その次に蹴り方のコツなどを徐々に教えていく方が理解がしやすいのではないでしょうか。


『天穂のサクナヒメ』で最初にヒントを出しすぎないのは、そのような効果を狙っているのではないでしょうか。教えるにしても、「まずは体験させてみせてから」ということです。

2)失敗体験からの成功

もう一つの製作者の狙いに、「失敗を体験させたい」というのがあると考えています。

初回プレイ時に右も左も分からずやってみた稲作は、おそらくあまり上手くいかないまま終わります。

これは一見、プレイヤーには不快なことなので、「楽しませる」というゲームの目的に反しているのでは? と思う人もいるかもしれません。

特にユーザーの継続率(離脱率)が重要な無料ゲーム(ソーシャルゲームなど)の世界では、最初に気持ちよさを味わわせるのが大事、というセオリーも言われていたりします。


しかし、本作ではこの初年度の失敗は「翌年以降にもっと美味い米を作ってやる」というゲームプレイのモチベーションを生み出します。

私の体験談なのですが、初年度の稲作ではわずかな米しか出来ず、それを仲間たちに食べさせるも数ヶ月で備蓄も尽きて、ひもじい思いをさせてしまいました。

ゲーム中で特に大きな不利があるわけではないのですが、仲間たちが米もおかずも無く「団栗(どんぐり)汁」に「水」という献立を食べているのを見ると自分の無力感、責任感を感じます……。

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『天穂のサクナヒメ』 ©2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.

そして「来年こそはお腹いっぱいの米を食べさせてやりたい!」という強い思いが、自分の中に湧き上がってきます。

この体験を経た後に十分な量の米が収穫できたときは、とても嬉しかったですね。

「これでひもじい思いをさせなくて済むぞ! 失敗を乗り越えたんだ!」と普通に成功する以上の達成感を味わうことができました。

失敗を一度体験させるというのは、ユーザーに不快感を与えるようではありますが、それが上手く転じれば「次こそは!」という、ゲームプレイのモチベーションを強力に引き出すことになります。

(もちろん匙加減を間違えれば、最初の失敗で「あーあ、もうやめた」とやる気を削いでしまう可能性もありますが)


考えてみましょう

皆さんの遊んでいるゲームや、開発しているゲーム、構想中のゲームで、最初に一度失敗の体験をさせるとしたら、どのような導入の展開が考えられるでしょうか。

そのために敢えてヒントを出しすぎないとするなら、どのくらいのヒントの量と出し方が適切でしょうか。

・ゲームを進行するために最低必要な説明
・ゲームを上手くプレイするためのヒント

の2種類に分類して出し分けを考えてみましょう。

また、最初の失敗体験の後に「次こそは成功するぞ」とプレイ意欲を掻き立てるためには、どのような演出が効果的でしょうか。

皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。
本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。


本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。

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(※本記事中のゲーム画像は、「引用」の範囲で必要最低限の範囲で利用させて頂いています)