見出し画像

#9『天穂のサクナヒメ』から学ぶゲームデザインの引き出し(3)「楽しい単調作業」

本記事は遊んだゲームから、一つのアイデアに注目してゲームデザインの実例を勉強していく連載記事です。

ゲーム開発者や、これからゲーム制作を志す方へ向けて、アイデアの引き出しとなれば幸いです。

ゲームの紹介

『天穂のサクナヒメ』(てんすいのサクナヒメ)は、2020年に、Nintendo Switch / PlayStation 4などで発売された和風アクションRPGです。

アクションゲームとしての面白さもさることながら、稲作パートの米作り部分があまりにも奥深くてリアルに作られていることが大きな話題を呼んだゲームです。

画像1

『天穂のサクナヒメ』 ©2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.

稲作で米を育てて主人公のパラメータを向上させ、そのパワーアップした能力でアクションパートを攻略するという、2つのパートが上手く組み合わさっていることもこのゲームの評価が高いポイントでしょう。

稲の収穫作業

本作では、育成SLG的なパートとして「稲作」があります。

この稲作パートが大変奥深い作りとなっていることは前回記事でも説明しましたが、いよいよ稲の収穫の最終段階というところで行う作業があります。

それは「脱穀」と言って、こき箸という昔ながらの道具を使って籾を穂から取り外していくという作業です。(ゲームが進むともっと効率的な道具が使えるようになりますが)

この作業がかなり単調な作業で、「↓」「→+Y」「←」のボタン(コマンド)を次々と入力していき、収穫した稲が無くなるまで何十回と同じコマンドを繰り返します。

画像2

『天穂のサクナヒメ』 ©2020 Edelweiss. Licensed to and published by XSEED Games / Marvelous USA, Inc. and Marvelous, Inc.

これは昔の人がやっていた農作業で、稲穂を手に取り、こき箸に挟み込んで、引っ張る、という作業を表しています。

単調作業、でも楽しい

同じコマンドを何十回も繰り返し入力させられるというのは、一見単なる作業・苦行であり、ゲームとは楽しむためのものであるという前提とは真逆のことをやらされているように見えます。

しかし、このゲームで脱穀作業をしているときの私の心理は、面倒くさいという気持ちよりも、むしろ「楽しい」「嬉しい」という気持ちが勝っていました。何故でしょう?

1)昔ながらの農作業をバーチャルで体験しているような気分になること。
2)操作を繰り返す度に、自分が育てた米がどんどん収穫されている実感が味わえること。

という2点がポイントになっているのだと思います。

このゲームの農作業は「田植え」にしても「稲刈り」にしても「脱穀」にしても、それぞれは単調な作業をさせられるだけで、バトルアクションのような爽快感も、派手な演出もありません。

しかし、扱っているものが自分が育てている大切な稲であるだけに、作業の一つ一つがとても大事なものに思えてきます。単調作業がゲームの雰囲気を高めている好例でしょう。

「楽しい単調作業」の条件を考えてみる

皆さんの遊んでいるゲームや、開発しているゲーム、構想中のゲームで、このような「楽しい単調作業」を組み込んでみるとすれば、それにはどういう条件が必要になるでしょうか。

例えば、RPGでフィールドを歩く一歩毎にボタンの連打が必要……というのでは単なる無意味な単調作業で全く面白さはなさそうですね……。何かゲームの中で大切なもの、得られると嬉しいもの、などと結びつける必要があるでしょう。


「スーパーマリオ」シリーズでは、ブロックを連続で叩く度にコインが手に入る「10コインブロック」があります。一度叩くだけで10枚分手に入れば良さそうなものですが、連続で10回叩くことで爽快感を出しています。

『MOTHER3』ではバトル中にリズムにのって攻撃ボタンを連続入力することで、威力がアップするシステムが搭載されていました。(賛否はあったようですが)自分自身がリズミカルに攻撃を繰り出している感覚が味わえます。

『リングフィットアドベンチャー』では、スムージーを作るときにリングコントローラーを押し込むことで「果汁を絞る」ことができます。筋トレをしながら、実際に絞っている気分になってきます。


例えば、ダンジョン探索中に財宝を見つけたときに、お金がパッと増えるのではなく、指でスワイプする度にジャラジャラとお金が増えていくのはどうでしょうか。財宝をかき集めている感じはしないでしょうか。

鉱石を掘り出す採掘システムがあるゲームで、ツルハシを振るう部分をタップにしてみるのはどうでしょうか。より高い鉱石のときほど何回もタップするのはどうでしょうか。


単調作業は、つまらなさ・面倒臭さと表裏一体のもので、さじ加減が難しいですが、上手く使えばゲームの雰囲気や体験を高められるかもしれません。

皆さんも一緒に色々とアイデアを考えて、より良いゲーム作りのための鍛錬を積んでいきましょう。
本記事がゲーム制作をする皆さんのインプットに役立てば幸いです。


本連載の趣旨については下記記事をご覧ください。

他の連載記事はハッシュタグ「#ゲームデザインの引き出し」からどうぞ。

(※本記事中のゲーム画像は、「引用」の範囲で必要最低限の範囲で利用させて頂いています)