ターミナル

彼は空港(そこ)で待ち続けた。約束を果たす為に…
お薦め度:.★★★★.  
予告編があんまり良い出来でしたので、「これはもしてして、予告編で期待過多になりすぎて本編を見て外すパターンかも」と思って注意をしながら観にいきました。

良いお話でした。こういう人間の温かい部分を観る事ができる作品はいいものです。

■言うまでも無く、トム・ハンクスの演技は素晴らしい。
どうしてアメリカ人のくせに英語の通じない演技が上手いんだ。
観ていて「ああ、この人全然人の言っていることが通じてないなあ…」と笑いながらもちょっぴり哀しくなりました。判っていないくせに曖昧に相槌を打つところとか、早口の英語を聞き取って理解しようとするんだけど、理解し切れませんでしたというような表情。パスポートを呈示するように求められて握手をするとこなんて、実にいいタイミング。

言葉が通じないから祖国の情報もまともに得ることが出来ない、空港という大勢の人間がいる空間で途方も無い孤独感を感じていることが良くわかる。

■「人生は待つこと」だとキャッチコピーでは言いますが、待つといっても「人事を尽くして天命を待つ」という意味での待つことでした。
ビクターは「法の穴」におちてスケープゴート=犠牲のヤギ(多分これにかけていると思うんだけど…)となるけれど、空港のロビーでひたすら待ち続けます。法を犯したり卑怯な手を使って脱出することなく、善行を重ね、前向きに、品行方正に。

彼は実にたくさんの努力を払う。祖国が無くなりアメリカにも入国できなくなるという一個人ではどうにもならない状況を、自分の出来る範囲で努力をし、ひたすら耐える。待つということは、自然に成っている木の実が落ちるのを見上げる、偶然と言う名の奇跡を望むことだと思っていたけれど、彼は種をまき、水をやり、風から守って、木が成長しそこから得られる(必然的な)結果が訪れるのを待っているようなことでした。

それは最終的に空港内で働くスタッフの否定的な気持ちさえ変え、厚い信頼を集める。最終的に空港から暖かく送り出されるシーンは本当に心温まります。

■ただ、あえて苦言を述べるならば。
キャサリンセタジョーンズ演じるアメリアとのロマンスは思っていたよりもかなり薄い印象。人間ドラマの一端程度に描かれているのでその点を期待するとがっかりでしょう。

ただアメリアはビクターと出遭ったことで人生が大きく変わったと思います。ビクターと一緒になることはなかったけれど、終盤近くのロータリーでビクターとアメリアが笑いながらお別れの挨拶をするシーンはベタベタしない、互いの意思を尊重しているようなようで、とっても嬉しくどちらも応援したいような気にさせられました。

もうひとつ、実に『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』を撮ったスピルバーク監督とトム・ハンクスらしい作品だと思いました。突出したところのない作品と思う人もいるような気がします。

それは勿論、愚作にありがちな「この程度作っておけばいいか」という作り手の匂いが漂ってくるわけではありません。
著名なキャリアのある人達が作り出したせいか、綺麗にそつなくまとまりすぎているかな?という気にはなりました。荒々しさや、無骨さ、嫌らしさを全く感じないといったらいいのか。
欠点がほとんど無い、非常にバランスの取れた作品になっていて笑えるし、泣けるし、感動はするけれど、逆にものすごく笑えないし、ものすごく泣けないし、ものすごく感動はしないのです…。

これは本当に素晴らしい美点でもありますが、もう一寸パンチを効かせて欲しかったなと思ったのも事実です。
日本公開日:2004/12/28 

(2004,12,25)/(中・感想)


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