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彼女のいま
運転中、後部座席から5歳の長女が話しかけてきた。
「おかーさーん、クイズね、檻の中にいる動物、何でしょー」
高すぎる自由度ゆえ、難解な問題。彼女の見聞きしてきた本日の流れ、出来事、情報を踏まえて答えを推測せねばならん。母の腕の見せ所、しかしさすがのわたしも全く検討が付かないので
「えーそれだけじゃわからんよヒントは?」
と聞くと
「えー色々あるでしょ、
ウサギとかー、トラとかー、マントトヒとかー」
マ ン ト ト ヒ
思いがけない笑いの刺客、しかし本人は至って真面目、笑ったらだめだ、と震える手でハンドルをギュッと握りしめる。
マントトヒ……
是非とも声に出して頂きたい、この絶妙な語感。
まんととひ。マントトヒ。
子どもって自由で、如何に自分が固定概念にがんじがらめになっているか痛感する。文字通り、笑いを堪える腹や頬が痛い。
いいじゃん、マントトヒ。
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洗面所で歯を磨くわたしのもとに長女が登場、何やら話しかけてきた。ぺちゃくちゃ喋り続ける彼女に生返事をする。
「サキちゃん(お友だち・仮名)、【自分磨き】してるんだってー」
これはスルーできない。
自分…磨き…?!さすがは令和、わたしが思う幼女の生活ルーティンにはそんなものまで組み込まれているのか。娘が当たり前に使う言葉が、想像を超えてきたことに驚きを隠せない。しかしながら、果たして年中女児の【自分磨き】とはいかに。
「えっ…サキちゃんは、【自分磨き】でどんなことすんの?」
恐る恐る聞いてみる。
「んー、なんかねー、お父さんお母さんには磨いてもらわないみたい」
今のわたし自身の状況に気づき、ようやく理解。なるほど、自分で歯磨きすることね…。あぁ驚いた、5歳児がどんな自己研鑽積んでんのかと思ったよ。
納得すると共に、自分が、いかに現代のSNS社会の自己顕示バイアスがかかった状態であるか自覚した。
そして、幼女の【自分磨き】の真実にちょっと安心もしたわたしであった。
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娘たちが首を長くして待っていた、クリスマスの朝。早起きするかと思いきや全くそんな気配は無し。
いつも通り起こしにいく。
「起きるよ、ほら…」
もぞもぞ動くだけの長女。
「サンタさん来てたよ!プレゼントあったよ!!」
途端、むくりと立ち上がる。
そして明朗な声で
「残りは、明日寝る!!」
また眠いけど、プレゼントのために今日は早起きするという意思表示らしい。分かるけど、瞬時に口から出たのがその表現って、斬新。
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5歳の言葉は、わたしには到底思いつかない表現ばかりでほんとうに面白い。忘れずにいたい。