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はじめての手製本『冒頭から/冒頭へ』

22歳頃から東京に出て豊島区上池袋のアパート暮らしを始めた。すぐ近所に、一般家庭の広いガレージか倉庫を借りて、大判の青焼き図面を製本する会社の分室があり、そこで1年間ほどアルバイトをした。大型機械で青焼きした図面を2ツ折りにして重ね、背固めした後、紙裏を糊で貼り合わせ、硬紙にクロスを貼って表紙とする図面製本(背貼製本)を専門とする会社で、そこでその製本方法を教わった。たまに、大学生から手書きの卒論原稿のコピーを預かり、同様のやり方で製本する仕事も請負っていた。ただ、タイトルなどを金押しする機械は分室にはなく、新宿の本社に回していた。

そこで教わった方法で、はじめて作った手製本がこれ。クロス貼りのハードカバーだが、タイトル文字はなし。(金押しはここではできないし、タイトル文字をコピーした紙を貼ることも考えなかった)。内容は「抹消(欠如を駆除して稀薄にも過剰に)」(別稿参照)の前身で、とりあえずタイトルは『冒頭から/冒頭へ』としておこう。会社でもらった感光紙にコピーしているので、40年以上を経て変色しているが、文字痕はしっかり残っている。どうやってコピーしたのか、もう覚えていない。わずか数ページの薄い本で、今では背固めした糊も剝がれ、ページごとに紙裏を貼り合わせた糊も乾いて剝がれ、もはやバラバラに解体しそうなので(クロス貼りの表紙だけは、汚れながらも健在ですが)、noteにアップして保存を図ります。


クロス貼りの表紙で、はじめて作った手製本
タイトルもない


仮題『冒頭から/冒頭に』01


仮題『冒頭から/冒頭へ』02


仮題『冒頭から/冒頭へ』03


仮題『冒頭から/冒頭へ』04


仮題『冒頭から/冒頭へ』05

冒頭に、
紙片の契機。前景に方眼の蝕刻。裏に斜視の
眼差。紙片に、投影され、素描され、彩色さ
れる、蒼白な焔の倒立。貧血。その偏心。
  反射弧を引くコンパスの顫動。 方眼の
縮痙。眼振。  斜交する視床の偽層、偽層
の勾配に挟まれて、睡眠に潜む内視鏡の迷彩。
     視線と視線の剪断に、劈開する、
遥かな距離のなさ……
              卒倒

      冒頭に、懸垂する吃音の折衝。
閉鎖音に開いた口、口、口、………に、視痕
あるいは指痕の繊条を跡切る、植字の遅刻。
冒頭に遺棄された帰属の免疫/アレルギー。
背面 剝離 垂直に 冒頭は 書かれる 二
重の撞着 二重の挙措 既に四重の

            反衝
冒頭に換位する。 冒頭の剽窃。翻訳。転位。
擬装の反覆、再び、再び、     冒頭に
差動する。  懸隔に軋む嬰記号

  Marge/懸垂する空欄
遅延する冒頭の渋滞

  仄青い焔の
漿液が泌る、感光し、劈開する鏡のfilmに
蒸着する夢夢の顆粒、夢の消和。(だがその
常磁性の顆粒は、剝離する背面の累積と監視
に、沮喪するかのようだ)   開かれた、
視角の脱臼   漂白   水彩の視像の
ブランクフォビア  懸濁

    亢進する尖筆の切尖に、傾聴する
痕跡の点滴。  間隔   冒頭の嵌入。
垂直に、移送する方眼の交叉配列。
点綴     視線と視線の危い繫留。
秘やかな、切除と縫合

     冒頭を承前する冒頭の毀損。
声紋の波面に縒れる余剰の条り。

           冒頭を喪う
解版  Marge/垂体
                卒倒
冒頭へ


20歳から心酔した稀有の美術評論家・宮川淳氏からの影響から(別稿参照)、ジャック・デリダに興味を持ち、読めもしないのに、丸善でフランス語の本を購入したりしていた。曲尺のような記号を用いた書き方は、Jaques Derrida《La Vérité en Peinture》(『絵画における真理』)所収の「Parergon」のレイアウトを真似したもので、コピーしている図版は、同書「+R」に掲載されているものを意味もわからないまま引用している。文面からも何を表現したいのかよくわからないながらも、何か切迫した雰囲気だけは伝わる気がする。20歳代は、こんな「何も堆積しない無駄なこと」を「律儀に」繰り返していた


Jaques Derrida《La Vérité en Peinture》
Parergonより


Jaques Derrida《La Vérité en Peinture》
+Rより


Jaques Derrida《La Vérité en Peinture》
表紙


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