VOL,1|わたしと本
わたしの居場所にある本
わたしが想像するわたしの居場所には、いつも本があった。
いつか住みたい家の間取りを想像する。
そこには、必ず天井まで届く本棚がある書斎がある。
いつか自分でデザインした服を置くお店を出したい。
そこには、必ず本が一緒に並べられている。
服を生み出すインスピレーションはいつも、物語の中から出てくるのだ。
中学時代の通学電車
中学時代はいつも、通学の電車の1冊の文庫本を抱えて乗り込む。
もちろん、帰りの電車でも読む。
帰りがひとりの時はラッキーだ。
大抵、自宅の最寄り駅に着くまでに1冊読み終わり、明日から読む文庫本を買いに書店に寄ってから帰る。
もちろん、それまでも本は好きだったが、この日課のきっかけになった作家は辻仁成だった。
彼の、『母なる凪と父なる時化』を読んでから、彼の文庫を読みつくすまで、どんな時間も惜しかった。
わたしは、中学に入ってすぐに、「この学校の人たちが好きじゃない」と思った。仲のよい友達もいたが、それでも誰かといるよりも、辻仁成といるほうが安心した。
そういえば、わたしには「本の話をする友達」がいた。
いつも一緒にいるわけではなく、一緒に遊んだこともない。
電車が一緒だった時だけ、ひたすら本の話をして帰る。
ときどき、一緒にいるけれどもそれぞれ本を読んでいることもある。
とても居心地がよかった。
大学時代の駅のホームと図書館の書架
中高時代も、よく電車で本を読んでいて気付いたら目的の駅を乗り過ごしていることがあった。大学生になると驚くことが起きた。
電車を待つホームで本を読んでいたら、読むはずの電車に乗りそこなったのだ。
あまりに電車が来ないと思い、電光掲示板を見ると、乗る予定の電車は行ってしまっていた。
大学時代は本の話ができる友人が増えた。
大学1年の時の校舎の古い図書館の書架がとても好きだった。
誰もいないのだ。
その奥の方に入り込み、一人の時間を過ごしたり、視聴覚室で『アラビアのロレンス』や『天井桟敷の人々』のDVDを見て過ごした。
読んだ本から、世界が広がっていった。
ここは「あなたの居場所」
だから、わたしは「あなたの居場所」になるような図書館を作りたい。
本が好きな人しか集まらない。
だから、安心して好きな本の話ができる。
本に没頭しすぎて、話を聞いていない人がいても、誰も気にしない。
本と本の隙間に入り込み、ひとりになれる。
そして、本を通して、本を通した出会いを通して、世界が広がる。
わたしがいつかつくる図書館とは、そんな図書館だ。