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読了本『うつくしが丘の不幸の家』
「2021年本屋大賞」ノミネート『52ヘルツのクジラたち』著者、町田そのこさんの『うつくしが丘の不幸の家』を読みました。
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』、『52ヘルツのクジラたち』に続く読了3冊めです。
私がこの本を手にしたとき、知人が「出版元がミステリーに特化しているところなのに、どうしてここから出したのだろう」と言っていました。
東京創元社、確かにミステリー雑誌や書籍を多数出版している出版社ですね。ただ、「2020年本屋大賞」を受賞した凪良 ゆうさんの『流浪の月』も東京創元から出ていました。あちらも正統派ミステリーではないかなと…今度感想まとめたいと思います。
とはいえやはりミステリー要素があるのかしら?と少しドキドキ(?)しつつ読み進みたのですが、結論から言うと、やさしさに溢れたヒューマンストーリーという感じでした。
時系列がうまく交差されていて、おもしろかったです。
うつくしが丘というところに建つ素敵な一軒家で営まれた(ている)5つの家族の物語。
第四章の『夢喰いの家』に、心に残る文章があったのでここに。
「繋がりなんてのは、最初は細く頼りないものなんだ。一本一本糸を手繰り寄せ、それを組み上げながら太く確かなものにしていく。幸太郎との繋がりの糸を探しなさい。全く無い、なんてことはないはずだよ」
どんな些細なことでもいい。これも、あれも、と糸を見つけては自分の中で紐を編んでいった。編まれていく紐を思い浮かべるだけで気持ちが落ち着いた。
「あなたたちも、そうよ。自分たちなりの糸で、自分たちだけの紐を編み続けていく。それが、一緒に生きていく、ということだと思うのよ」
すごく絶望的で哀しい話の中にも、必ず救いがあり、きちんと光が差すところが、心地よい読後感につながっているのだと思います。
結局のところ、私は町田そのこさんの作品が好きなようです。
合っているというのが正しいかもしれません。
この作品も、いろいろなことを感じながら、ゆっくりと味わって、でもいつの間にか読み終えていました。
短編でもしっかり読み応えがあって一つひとつが完成されているのに、耳を澄ませば聞こえてくる通奏低音があり、全体が一つの物語をしっかり成している。
町田さんの連作短編集は交響曲のようです。分かっているのに、最後やっぱり鳥肌が立つんですよね。
長編小説をガッツリ読む元気がないときでも、少し物思いにふけりたいとき、自分の立ち位置を確かめたいときなどに少しずつ楽しめる、おすすめの本です。
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