【先行公開】『子ども白書2024』(4)国連子どもの権利委員会の「一般的意見26号」丸山啓史
『子ども白書』(日本子どもを守る会編)は今年60冊目を迎えました。児童憲章の精神に基づき、子どもたちが安心して暮らし、豊かに育ち合っていける社会の実現をめざして刊行を続けています。今年の特集は「気候危機は、子どもの権利の危機」。かもがわ出版のnoteで内容を一部先行公開します。
*『子ども白書2024』の一般書店での発売は7月23日(予定)です。
************************
国連からのメッセージ
子どもの権利委員会の「一般的意見26号」
子ども白書編集委員・京都教育大学●丸山啓史
「3重の惑星的危機」に直面する子どもたち
国連の「子どもの権利委員会」は、2023 年8 月に、「子どもの権利と環境─特に気候変動に焦点を当てて(Children’s Rights and the Environment, with a Special Focus onClimate Change)」を表題とする一般的意見(General Comment)26 号を公表しました。
子どもの権利委員会は、子どもの権利条約に基づき、2001 年の一般的意見1 号「教育の目的」をはじめとして、特定のテーマについての情報や見解を「一般的意見」として示してきました。2019 年には「司法制度」についての一般的意見24 号を出し、2021年には「デジタル環境」についての一般的意見25 号を出しています。
一般的意見26 号のテーマに「環境」が選ばれたのは、世界的に環境危機が深刻化し、環境危機が子どもの権利にとっての重大な脅威になっているからです。一般的意見26号の冒頭では、「3重の惑星的危機(the triple planetary crisis)」を(構成するものとして、「気候の緊急事態」「生物多様性の崩壊」「汚染の広がり」が挙げられています。
◎ 3重の惑星的危機(パラグラフ1)
気候の緊急事態、生物多様性の崩壊、汚染の広がりによって構成される3 重の惑星的危機の範囲と規模は、世界的に、子どもの権利にとっての差し迫った全体的脅威になっている。持続不可能なかたちでの天然資源の採取と利用は、汚染物質や廃棄物を通じた広範な汚染と合わさって、自然環境に重大な影響を及ぼしている。気候変動があおられ、有害物質による水・空気・土壌の汚染が増大し、海洋酸性化が引き起こされ、すべての生命を支える生態系そのものや生物多様性が荒廃しつつある。
健全な環境への権利
一般的意見26 号は、「子どもたちは、清浄で、健康で、持続可能な環境への権利(theright to a clean, healthy and sustainable environment)をもっている」と述べています。そして、この権利が子どもたちのさまざまな権利の土台になっていることを指摘しています。
健全な環境への権利が損なわれることで、子どもたちのいろいろな権利が奪われていきます。たとえば、農薬やプラスチックによる化学物質汚染は、大気汚染と同じように、健康への権利を脅かします。家の近くに安全な空間がなければ、遊びへの権利が阻害されます。「気候変動を含む環境劣化は、子どもたちに対する構造的暴力の一形態」(パラグラフ35)ですから、環境劣化は「あらゆる形態の暴力からの自由への権利」を侵害するものです。
一方で、情報への権利や教育への権利の保障は、子どもたちが環境的危害から身を守ることにつながりますし、環境危機の克服に向けて子どもたちが力を発揮することをえます。表現の自由や集会の自由が守られることも、環境問題に関する子どもたちの活動にとって大切です。社会保障の充実、生活環境の整備は、災害等の環境的危害への抵抗力を高めます。一般的意見26 号は、「子どもの権利と環境の保護は、好循環を形成する」(パラグラフ8)と述べています。
◎清浄で、健康で、持続可能な環境への権利(パラグラフ63)
子どもたちは、清浄で、健康で、持続可能な環境への権利をもっている。この権利は、子どもの権利条約に暗黙のうちに含まれている。特に、生命・生存・発達への権利(第6 条)、(環境汚染の危険やおそれを考慮することを含む)到達可能な最高水準の健康への権利(第24 条)、十分な生活水準への権利(第27 条)、(自然環境への敬意を育むこと(第29 条)を含む)教育への権利(第28 条)と直接的に結びついている。
◎子どもの権利条約に示された権利は「環境」と深く関係する(第Ⅱ章の見出し項目)
非差別への権利(第2 条)
子どもの最善の利益(3 条)
生命・生存・発達への権利(第6 条)
聴かれる権利(第12 条)
表現・結社・平和的集会の自由(第13 条と第15条)
情報へのアクセス(第13 条と第17条)
あらゆる形態の暴力からの自由への権利(第19 条)
到達可能な最高水準の健康への権利(第24 条)
社会保障と十分な生活水準への権利(第26 条と第27条)
教育への権利(第28 条と第29条(1)(e))
先住民の子どもとマイノリティ集団に属する子どもの権利(第30 条)
休息・遊び・余暇・レクリエーションへの権利(第31 条)
対策の緊急性
一般的意見26 号では、「緊急の(urgent)」や「直ちに(immediately)」といった語が要所に登場します。パラグラフ12 では、「特に気候変動に焦点を当てて、子どもの権利の享受に対して環境劣化が及ぼす悪影響に対処する緊急の必要性を強調すること」が一般的意見26 号の「目的」として掲げられています。また、パラグラフ65 では、「各国は直ちに以下の行動をとるべきである」として、求められる行動が列挙されています。世界的な環境危機は、まさに私たちの目の前にあります。
気候変動は、緊急の対策が迫られている問題の最たるものです。一般的意見26 号は、環境問題のなかでも特に気候変動に焦点を当て、全5 章のなかで第5 章全体を気候変動の問題に充てています。
人間の活動によって排出された二酸化炭素は長期間にわたって大気中に留まるため、対策が遅れれば遅れるほど、気候変動の問題の克服は難しくなります。対策の遅れを一気に取り戻すことは不可能です。(略)
子どもの声、子どもの参画
・・・・・・続きは『子ども白書2024』でお読みください
*『子ども白書2024』の一般書店での発売は7月23日(予定)です。