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上久保の理論(5):少子化対策は「ダブルインカム・ツーキッズ政策」で(前編):現状認識

今回は、理論というほどのものではないのですが、政府の「異次元の少子化対策」がいかに的外れかということと、上久保の考える、今すぐできる、おカネのかからない「少子化対策」です。

私は、女子のゼミ生に常々言ってます。「結婚しても、絶対に仕事を辞めるな」と。端的にいえば、それが何よりも大事です。

1.「異次元の少子化対策」は「子育て対策」にすぎない

岸田文雄首相が最重要課題の一つとして位置付けているのが「異次元の少子化対策」だ。

日本の合計特殊出生率は下落を続け、年間の出生数は80万人を割り込んでいる。国家として危機的な状況といえる。岸田首相は、こうした状況を「異次元」の施策で一挙に解決するという。

「異次元の少子化対策は、「アベノミクス」のまねをしたのか「三本の矢」で成り立っている。

  1. 児童手当を中心とする経済的支援強化

  2. 幼児教育や保育サービスの支援拡充

  3. 働き方改革を、将来的に予算を倍増させて実現する

これらを「異次元」の予算規模で実行するというのだ。だが、こうした支援の充実は、既に子どもがいて、子育てにお金がかかる親だけを対象としている。

しかし、未婚や子どもがいない夫婦h支援の対象外だ。

国民が「もう1人子どもを産み、育てる」ことにつながるかというと、必ずしもそうではない印象だ。

つまり、三本柱は本当の意味での「少子化対策」ではなく、子どものいる家庭の生活をサポートする「子育て支援策」にすぎないことが問題だ。

2.「結婚したくてもカネがない」ことが問題

この調査結果によれば、「子どもが減っている理由は何だと思いますか」との問いに対する答えは「家計に余裕がない」「出産・育児の負担」「仕事と育児の両立難」が上位を占めている。

また、「結婚はした方がよいと思いますか」との問いに対し、30代女性のわずか9%が「そう思う」と回答した。結婚が減っている理由は「若年層の低賃金」「将来の賃上げ期待がない」などが上位を占めていた。

要するに、経済的な理由で、結婚したいのにできないでいる人たちや、結婚しても子どもを持てない人たちが多くいる。これが日本の「少子化問題」の本質なのではないだろうか。

3.「日本型雇用システム」と「結婚したくてもカネがない問題」の関係

どうして「結婚したくてもカネがない」ということになるのか。突き詰めると、日本では結婚して子どもができると、妻は離職して専業主婦になるか、正規雇用の職を失い、非正規雇用になるしかない「日本型雇用システム」にあるように思う。

その実態は、データで見るとよく分かる。「女性の年齢別労働力率」をグラフ化すると、学校を卒業した20代でピークに達し、その後30代の出産・育児期に落ち込み、子育てが一段落した40代で再上昇する。いわば「M字」に似た曲線となるのだ(参考:男女共同参画局の「年齢階級別労働力率」のグラフ)。

30代女性の労働力率が低下する「M字の谷」現象は、日本や韓国に特徴的な現象だ。欧米諸国などでは、一定の年齢層で労働力率が下がらず、女性の働き方に対して柔軟性が高いので「M字の谷」はない(参考:男女共同参画局の「主要国における女性の年齢階級別労働力率」のグラフ)。

確かに、日本でも安倍政権以降に打ち出された女性の社会進出を促進する政策によって、「M字の谷」が緩やかになった。今では「台形」に近づきつつある。

だが、それは労働力化率が高い「未婚」の女性が増えているという側面もある。そして、それ以上に問題なのは、非正規雇用が増えた結果だということだ。正規雇用は、結婚、出産等とライフイベントを重ねるにつれて、徐々に非正規雇用に移っていくか、離職していく(第1-特-14図 年齢階級別労働力率の就業形態別内訳(男女別,平成24年)

また、女性が結婚・出産で離職した後、正規の職員・従業員としてはほとんど再就職しないという傾向がある(第1-特-16図 女性の年齢階級別労働力率の世代による特徴(雇用形態別))。

こうした現象が起きる要因は、先述した「日本型雇用システム」によるものだと考えられる。

年功序列・終身雇用を前提としたこのシステムでは、一度離職した女性が幹部になるのは難しい。日本における離職は、組織内における同世代の「出世争い」からの離脱を意味し、一度離れると二度と争いに復帰できない。

ゆえに、数年のブランクのある女性は正規雇用での職場復帰は難しく、正規雇用での中途採用枠も極めて狭い。

一方、欧米諸国の企業や官僚組織は、基本的に年功序列・終身雇用ではない。新卒の一括採用は少なく、組織が必要とする業務について人材を募集する。

マネジャーや幹部職も公募で決まる。内部昇格が行われるのは、外部から応募してきた人材と公平に比較・検討され、内部の人材が優秀と判断された場合のみである。

欧米でも、女性が結婚・出産で離職することはもちろんあるが、キャリアアップのハンディにはならない。離職前の経歴をアピールすれば、それに適したさまざまなポジションを獲得できる。

世界的に見れば、女性の政治家や企業経営者・幹部、学者には、パートナーを持ち、出産・子育てを経験している人が多い。企業の管理職における女性の割合が、わずか14.9%の日本とは大きな違いがある(参考:男女共同参画局がまとめた「就業者及び管理的職業従事者に占める女性の割合(国際比較)」)。

表面上は、日本企業でも産休・育休制度が普及し、一度現場を離れた女性(育休の場合は男性も)が正社員として復帰できる体制が整っている。

年功序列・終身雇用システムそのものが終わったという意見もある。だが、「ジョブ型」と呼ばれる新しい働き方が目立つだけで、今の大学生の就活をみたら、明らかに大多数は日本型雇用システムの残る会社に入っている。

会社の中では、復帰した人が周囲になじめなかったり、子どもの送り迎えなどで仕事を中抜けする人が白い目で見られたりといった「あしき風習」は今も企業に色濃く残っているようだ。

そして、「少子化問題」との絡みで、日本型雇用システムの何が問題かといえば、結婚すると所得が減ってしまうことだ。簡単な事例で考えてみればわかる。職場結婚を考える同期の正規雇用のカップルがいるとする。年収は2人とも500万円。結婚で妻は退職する。2人で夫の年収500万円を使うことになり、一人当たり、250万円となる。子どもができるともっと少なくなる。

妻が非正規雇用で働くとしても、夫の500万円+100万円で合計600万円。やはり、一人当たり300万円ずつ結婚前より使えるおカネは少ない。要するに、結婚すると生活が厳しくなる。これでは結婚し、子どもを持とうという気にならないのは当然だ。

この実態を変えることが「称した対策」には何より大事だということだ。

(後編へ)


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