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講演「既存政党VSポピュリズムの現在地と未来」(後編)

前編からの続きです。今回も硬い文章になりますが、どうぞよろしく(笑)。

3.ポピュリズムをどう止めるか: 「包括政党」

(2)日本の新しい政治状況(2024年、総選挙後) 
しかし、ポピュリズムを抑えるのに有効に機能してきた「包括政党・自民党」が不安定な状況に陥っている。

「裏金問題」などで、自民党内の保守派の牙城であった旧安倍派が崩壊した。旧安倍派が多かった「裏金議員」の多くが衆院選で落選した。

保守派の崩壊で、自民党が保守からリベラルまで「包括的」にカバーすることはなくなった。石破茂氏が首相になることで、「中道路線」となった。

衆院選で、自民党・公明党は少数与党となった。野田佳彦氏が率いる立憲民主党も「中道保守」を打ち出した。「包括政党・自民党一強」から「中道」の与野党による議論による「コンセンサス政治」が始まることになった。

新しいコンセンサス政治とは、 自民党、公明党の与党に 、立憲民主党 、国民民主党 、日本維新の会という野党が、議論によって進める政治である。それは、かつての「理想の野党→現実的な与党」の復活である。国民民主党が主張している「 手取りを増やす政策」を自民党、公明党が受け入れつつある。そして今後、選択的別姓や 女性、子供、LGBTQの人権を守る政策が与野党の議題として浮上してくるだろう。

日本の安全保障政策は、戦後ずっと与野党が激突してきた。 話し合いの余地はほとんどなく、不安定な状況が続いてきた。だが、初めて、与野党のコンセンサスで意思決定できる可能性が出てきたのではないだろうか。

具体的には、石破首相が「岸田政権の政策を踏襲」するとしている。 これは、首相の持論である「アジア版NATO」を基本的に封印するという意味でもある。

一方、最大野党立憲民主党の野田代表は党首討論に置いて、「安全保障は継続」と発言している。 つまり、 与野党の違いは「防衛増税」への考え方だけといえる。これはおそらく、財源を「防衛国債」とすることで、いずれは与野党間で解決するだろう。 例えば、国民民主党の玉木代表が、かつて「教育国債」を打ち出すなど、野党は基本的に国債を好んできた。

その結果、少数与党、与野党伯仲と不安定な状況であるにもかかわらず、日本の安全保障政策は与野党の合意によって強くなる可能性がある。それは、 トランプ新政権も歓迎のはずである。

ここで、新しいコンセンサス政治の顔ぶれをみてみよう。 石破茂首相、野田佳彦立憲民主党代表、 前原誠司日本維新の会共同代表など 与野党の主要幹部の多くが、90年代の「政治改革」に「非自民陣営」で取り組んだ共通の経験を持っている。

彼らは、「細川護熙門下生」といえる政治家だ。その他には、野田聖子氏、茂木敏充氏、枝野幸男氏らがいる。石破首相の側近に、長島昭久安全保障補佐官、細野豪志氏という、かつて民主党に属した政治家がいるのも興味深い。

そして、高市早苗も「非自民」で政治家人生をスタートしている。朝まで生テレビのコメンテーターだった高市氏は、無所属で政界入りし、新進党の結党に参加した経歴を持つ。

噂レベルだが、昨年11月の総選挙後、自民党が少数与党となり、首相指名選挙の動向に注目が当たっていた時、小沢一郎氏が高市氏を引き抜くという話が出た。高市氏と小沢氏は、かつて師弟関係といえる。今もつながりがあると考えるのが自然だ。

細川氏の政治信条は、「一内閣一仕事」。権力にこだわらず1つの仕事をやり切るという考え方。これは、細川内閣が「政治改革法」による小選挙区比例代表並立制の選挙制度改革を、野田内閣が自民・公明との三党合意を結んで消費増税を、「一仕事」として実現したことに、表れている(その一仕事の是非は、ここでは論評しません)。

それは、安倍氏、菅義偉氏、麻生太郎氏ら「第二次安倍政権」が、「長期政権」という権力の維持に徹底的にこだわったことと対極的である。

4.新しいコンセンサス政治の懸念
(1)新しいコンセンサス政治の行きつく先 :
現在、様々な政策について、与野党の協議が行われるようになった。しかし、国民民主党のいわゆる「103万円の壁」を撤廃する「手取りを増やす」政策も、維新の会の「教育無償化」も一言で「バラマキ合戦」の様相を呈している。

今後、財政赤字のさらなる拡大に直面することになる。「コンセンサス政治」は、 増税を検討せざるを得なくなる 。国民がそれに不満を抱くようになれば、政治は不安定化することになる。

その上、重要なのは、前述の通り石破政権下で自民党が中道化していることだ。それは、自民党の「非包括政党化」であり、自民党が右翼・左翼層を抑えられなくなることが懸念される。

言い換えれば、ラディカルなSNS政治になれた国民が、穏健な 「コンセンサス政治」を理解できず、退屈になれば、内閣支持率・既存政党への支持が低下する。国民が既存政党外に強い指導者を求めることになり、左右のポピュリスト政党の台頭を許すことになるかもしれない。

さらに問題なのは、与野党の「コンセンサス政治」がバラマキ(再分配一極集中)になれば、それは「経済成長戦略」が欠如することになる。

 IT化、デジタル化、AI化の遅れ、 規制緩和の遅れ、そして保護主義が台頭することになれば、 富裕層、起業家、インフルエンサ―らが不満を持つことになる。

もし、富裕層、起業家、インフルエンサーがポピュリストを支持すれば、 ポピュリスト政党は泡沫政党から、巨大な組織に発展する可能性がある。

ポピュリストと富裕層・起業家・インフルエンサーの合体という現象は、すでに起こっている。東京都知事選挙の 「石丸伸二現象」である。

ドトールコーヒー創業者の支援を得て、石丸氏は 蓮舫氏を破り2位となった。また、 AIを用いて人間が政治的決定をする部分を最小化する「AI民主主義」を掲げる安野貴博氏も登場した。

日本のみならず、世界でも類似の現象が起きている。

アメリカ大統領選挙では、 「 イーロン・マスク」の政治への参画が起こった。トランプ次期大統領を支持したマスク氏は、「政府効率化相」としてトランプ政権に入閣する。

マスク氏が率いることになる「政府効率化省」は、政府の無駄をAI等で徹底的に削減するという。

マスク氏の政界参入のインパクトは絶大で、新しい政治の潮流として世界に広がる可能性がある。それは、世界中で富裕層、起業家、インフルエンサーが ポピュリストを支持し、巨大な政治勢力になるというものだ。

5.新しい政治の対立軸
(1)今後、世界で、日本で新しい対立軸が浮上していく。 
対立軸は、政治の内側での保革の対立「55年体制」から、政治の内側「社会安定党」 VS政治の外側「デジタル・イノベーション・グループ」に変わっていくことになる。

(2) 「社会安定党」: 
デジタル化などについていけない「負け組」「弱者」を 守るためにある。現在でいえば、自民党・公明党の連立与党 に加えて、両党を補完する勢力として、国民民主党、社民党、 立憲民主党・日本維新の会、日本共産党・れいわ 新選組などになる。

社会安定党の役割は、 社会の急速な進化と、それに伴って生じる格差から 「負け組」を守るシェルターを作ることになる。その政策は以下の通り。

1)弱者・高齢者・マイノリティー・女性の権利向上
2)同一労働同一賃金・男女の賃金格差解消
3)外国人労働者の拡大
4)斜陽産業の利益を守る公共事業の推進
5)社会保障や福祉の拡充・教育無償化

(3)デジタル・イノベーショングループ
SNSで活動する個人(インフルエンサー)、起業家、 スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどが含まれる。  「勝ち組」を目指す「強者」である。

第一の関心事は、自分 の利益でありキャリアアップだ。 ・日本のデジタル化やスーパーグローバリゼーションなど、 社会の発展にも関心がある。

堀江貴文氏は、 昨年放送されたインターネットテレビ番組『ABEMA Prime』で以下のような発言をした。

「(自民党に対抗できる勢力は)マネーと 志と戦略があったら作れる」 「前澤友作のような人が1000億円を入れる と言ったら政治は変わる」
「そこにインフルエンサーも絡んできたら、小 選挙区も比例も一気に獲得して、政権交代 する可能性はあると思う」

今、まさにこのような状況が生じつつある。

6.トランプ2.0と日本の行方
(1)米国: ・
米国が覇権国家の座から少しずつ降り始めた。 「世界の警察官」「世界の市場」から具体的に撤退を開始している。

米国から恩恵を受けてきた国が、米国との関係を悪化させている。 米国の覇権の下で安定していた地域で、再び近隣同士の関係を不安定化させている。

(2)国際紛争の頻発:
第一次トランプ政権は、「戦争」の高リスクを嫌い、在任中、 国際社会で大きな紛争が起きなかった。 しかし、大統領退任直後から以下のようなさまざまな紛争が起こった。

1)2021年2月、ミャンマーで軍による民主派を排除する クーデター。
2)2021年8月、アフガニスタンでイスラム主義組織 タリバンが首都カブールを制圧し、大統領府を掌握。
3)2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻する「ウクライナ 戦争」が勃発。
4)2023年10月、パレスチナのイスラム組織ハマスがイスラ エルへ攻撃を仕掛け、イスラエルが大規模な報復。

地域紛争が、 様々な地域における米国のプレゼンス低下の「空白」で 起こっていることは否定できない。 戦争を嫌った「アメリカ・ファースト」の皮肉な現実だ。

ある地域において、より強い力を持つものが、力の弱いも のを攻撃し、強引に「現状変更」を迫っているという共通点である。 様々な地域で「弱い者いじめ」のような状況。

この現状で、日本が最も警戒しなければならない。この現状で、日本が最も警戒しなければならないことが「台湾有事」であることはいうまでもない。

(3)どうする日本?
第一次トランプ政権下で、日米関係は過去最高に良好であったという評価がある。 それは、安倍晋三元首相がトランプ大統領には一切逆らわず、 ゴルフなど接待漬けにしていたからというような単純な話ではない。

トランプ大統領が「バイ・アメリカ!(アメリカを買え!)」と 諸外国に圧力をかける時、実際に米国製品を買い、米国に投資できる実力の ある自由民主主義陣営の同盟国は日本しかない。だから、日本をないがしろにはできなかった。 

バイデン政権でも、引き続き日米関係は良好だった。「防衛費倍増計画」など安全保障政策の劇的な転換の方針を高く評価していた。

トランプ氏が大統領に復帰したら、良好な関係が続く のか?日本に「バイ・アメリカ!」を続ける経済力が残っているのか?

様々な地域紛争による資源・食料の供給不足に端を発したインフレが続き、日本経済は打撃を受け続けている。 日本が生き残るには、経済成長は絶対に必要だ。

日本を取り巻く安全保障環境が、トランプ氏にとって、 非常に「コスト高」に映る懸念がある。

台湾有事は、まさに「地域において力の強いものが 力の弱いものに強引に現状変更を強いるもの」だ。最も、次に起こりえる紛争であることは間違いない。

もちろん、トランプ大統領が再び誕生しても、米国がすぐに 台湾の防衛から手を引くことはありえない。 しかし、日本に対して、より大きな軍事的負担を求めることは 容易に想像できる。

米国が本気で要求してくればそれに抗するのは難しい。日本は、受け入れる準備ができているか(?)。 ・ トランプ大統領の米国が再び現れた時、それと正面から 対峙する覚悟があるか、日本に問われているのだと思う。





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