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6年間の片想いに終止符を。

私は、ある人に6年もの間片想いをしていた。

このお話は、私が彼を好きになってから、次に彼氏ができるまでのほぼフェイクなしの備忘録。

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高校時代。はじめの三年間。

私が彼と初めて出会ったのは高校1年生の頃だった。

中学生の頃と大して変わらない制服に身を包んで、第一志望だった高校の教室にいて、できたばかりの友人二人とお昼を一緒に食べていた4月の昼休み。部活動の勧誘が忙しく、先輩らしき人が教室に入ってきては部活決めた?と声を掛けてくる。私の友人は二人とも既に部活を決めていたが、私はなかなか決められなかった。

4月も半ばになりだんだんと新入生が高校生活に慣れ始めた頃、クラスのグループラインが動いた。バスケットボール部のマネージャー募集の声掛けだった。クラスの男子がバスケ部に入ることを決めたのだが、先輩にマネージャーがいないから見つけてこいと言われたらしい。もうほとんどの人が部活を決めていたし、マネージャーの枠は人気だからどの部活も定員になり締め切っていた。バスケ部はなぜか一向に決まらなかったらしく、私もまだ部活動を決めていなかった。「見学に行ってみたい」。気づくと私は、そのクラスの男子に個人ラインを送っていた。

運動が苦手な私にとってグラウンドや体育館は、ただ体育をする場所でしかなくて、あまり好きではない場所だった。金曜日、見学に行く予定の日。初めて放課後の体育館というものに足を運び、運動部が部活をしているところを見た。体育館の手前半分を使用しているのがバスケ部。見学に来たことと、マネージャーになろうか悩んでいる旨を伝えると、3年生のマネージャーさんが飛び跳ねて喜んでくれた。ウェーブのかかった長い黒髪が特徴の美人なお姉さんという印象のその先輩は、とても私を気に入ってくれた。

後から聞いた話だが、その先輩は初めて私を見たときから絶対に私を部活に入れさせると意気込んでいたらしい。何となくそれはとても伝わってきた。見学に行ったのが金曜日だが、次の日の土曜日には練習試合があるから見においでと言われ、半ば無理やり見学に誘われた。嫌な気はしなかった。マネージャー、バスケ部。縁遠いと勝手に思っていたこの二つのワードが自分を示すものになることに不思議と納得感を抱いていた。ワクワクしていた。入部しますと言うまでに時間はかからなかった。

バスケ部に入部して始めの二週間ほどは、仕事と先輩の顔と名前を覚えることに必死だった。男女どちらも一緒に練習をしていて、顧問も一人。全部で50人弱のプレイヤーさん相手にマネージャーは私ともう一人の同期のマネージャーを含めて5人。バスケ部の引退は早く、5月の上旬には引退試合がある。それまでに3年生の顔と名前は憶えておかなければと必死に記憶した。同期の顔と名前なんてここでは全く気にしていられなかった。

3年生が引退してからはさらにマネージャー業に磨きをかけるべくテーピング講習に参加したり、誰よりも早く放課後体育館に着けるように努力したりした。そんな中、ようやく私は1年生のプレイヤーの顔と名前を一致させることに成功した。どうやら私は男子の顔を覚えるのが苦手らしかったが、10名ほどの同期を一度に覚えることでその苦手意識は克服できたように思えた。

これから好きになる彼は、同期10名のうちの一人だった。

マネージャーとプレイヤーの恋愛は、彩られ輝かしく漫画やドラマで描かれることがある。それが全てあり得ないこと、ただのフィクションだと断言はできない。マネージャーでなくとも、プレイヤー同士などで実際に部内恋愛をしている人もいなくはない。ただ、私のこの恋は全くキレイでも美しくもなく、私のただの空回りだったということを周知させたうえで続きを書こうと思う。

彼と初めて話した時のことは全く覚えていない。気づいたら近くにいた。私たちは比較的家が近くて、部活後に途中まで一緒に帰ったり(二人きりではなく他の部員もいるが)、練習試合などの土日の遠征では朝ばったり会って一緒に行くなんてこともしばしばあった。

彼は私に対してそれほど口数は多くなくて、でも話しかけたら返してくれた。向こうから話しかけてくれることはあまりなく、基本的に私から声を掛けることが多かったと記憶している。脈ナシフラグ。

この時点で、私は自分の恋心に気づいていなかった。女バス(バスケ部の女子の略)とは直ぐに打ち解けて仲良くなれたが、このときの私は男バスとの距離の詰め方を模索している最中だった。元々男子と話すことに慣れていなかったこともあって、私と彼らの距離が縮まるまで、そして彼らが私に心を許してくれるまでに時間がかかった。たくさん話しかけてみたり、部活以外でも顔を合わせてみたりした。彼に対してだけではなかった。平等にみんなに対して同じことしていた。つもり。

彼はなかなかに整った顔をしていたらしい。確かに綺麗めな顔立ちではあったが、正直言って私は男子がイケメンだとかそうじゃないとかいうことにめっぽう疎かったため、彼の顔に対して評価はしていなかった。まあ、今思えば顔の綺麗さに惹かれた部分も多少あったかとは思うが。単にタイプだったというだけか。

夏が過ぎ、秋が終わろうとしているとき、私は何となく彼に対して、他のみんなとは違う想いを抱いていることに気づき始めていた。ラインを送っていた。『映画を一緒に見に行かない?』。彼は了承してくれた。誘いを断れないという彼の性格を知ったのはまだ先の話だ。

こんなことをしながらも彼への恋心は自分では認めていなかった。別に彼のことを特別好きなわけではない。二人で出掛けようとする時点で一歩踏み出しているではないかという突っ込みには対処方法があった。

私は「二人で」話をしたり出掛けることが好きだったのだ。

複数人だとどうしてもしたいように話ができない。話題があらゆる方向に切り替わったり、話すタイミングを逃したりする。男女どちらであっても、私は基本的に「二人で」出掛けることが多かった。高校時代に付き合っていない男女で出掛けることは、裏で冷やかされていたと思う。周りを気にしなくなったのもこの頃だ。

彼とは映画を見に行った。でもそれきりだった。
特に何もなく、今までと同じ「家がちょっと近いだけのプレイヤーとマネージャー」という関係性は全く崩れる気配を見せず、また私も崩したくはなかった。

あっという間に月日は流れた。私は彼のバスケをしている姿が好きで、見ていられればそれでよかった。付き合いたいとか、告白しようかとか、考えてもいなかった。恋心を持っていることさえ、まだこの時点でも自覚をしていなかったくらいだ。

部活が終わった。私は彼と部員という関係性からクラスメイトになった。高校三年生、クラスが同じになったのは運命かと思った。

高校三年間はあっという間だった。苦しい気持ち、楽しい気持ち、いろんな感情を経験しながらも私たちは確実に成長し、高校を卒業した。この頃には既に恋心を自覚していたと思う。

卒業式から二週間ほどして、私は彼をご飯に誘った。この春から私は大学生、彼は浪人生。三年間ほとんど同じ時間を同じ場所で過ごしてきた私たちは全く違う道を進む。ここで告白しない道はないと思った。彼はやはり私の誘いを受けてくれた。お人好しだ。

待ち合わせは17時頃だった気がする。夕飯には早くて、ウィンドウショッピングをしながらとにかく他愛もない話をした。食事に行っても話題は尽きなかった。楽しい。その思いで胸がいっぱいだった。

帰り道に私は告白した。浪人生になる彼がこの告白を断わるのはわかっていたから、返事は要らないと言って一方的に伝えた。

返事は要らないと言ったのに連絡がきた。気持ちは嬉しかったけど、答えられないと。わかってる。残酷だけど、こんな私にきちんと答えを伝えてくれる彼の優しさが愛おしくてたまらなかった。

大学時代。後半の三年間。

大学一年生の私はとにかく忙しかった。留学のために勉強をしていたし、アルバイトも掛け持ちしていたし、車の免許を教習所に通って取ろうともしていた。彼のことはおろか、恋愛をしている余裕すらもなかった。

私が大学二年生になり、彼が受験を終えて大学一年生になるとき。SNSを通じて彼が第一志望の大学に合格したことを知って私は思わず連絡をした。絶対に彼から連絡をしてくることはないとわかっていたから、私から連絡をした。落ち着いたらご飯行こうという話になった。誘ったのはもちろん、私だ。

そういってからしばらく日が経った。私たちが会えたのは夏、私の留学前。今回は二人きりではなかった。彼の提案で共通の友人を呼んだ。そうだよね、二人きりはやっぱり嫌だよね、なんて思った記憶がある。それでもいいから私は彼に会いたかった。

好きだった気持ちを思い出すのは簡単だった。彼が浪人生だった一年間、もちろん連絡なんて一切取らなかったけど、そんな空白がなかったかのように恋心はあっという間に芽を出し直した。

でも、私たちはただの友達だった。昼に待ち合わせて遊んでご飯を食べて、人生初のカラオケオールというものをした。楽しくて仕方なかったけれど、彼が私を女として見ていないことは痛いほど伝わってきた。

留学中も、私は彼のお人好しな優しさに甘えた。時差を気にしつつ電話に付き合ってもらったことが二回ほどあった。電話好きで話すのも好きな私は、本当に幸せだった。彼のことが好きだったから。そして、異性としてだけではなく人としても彼のことを好いていたから。

今まで彼から連絡をしてきたことはなかった。0だ。さすがに落ち込む。しかし唯一、彼から私に連絡をしてきたことがあった。留学中に迎えた、私のハタチの誕生日だ。嬉しかった。初めてだった。ただ、彼は勘違いしていて実際の私の誕生日の一週間前に連絡をしてきた。そんなことどうでもいいくらい嬉しかったんだが。

帰国して、私はやはり彼に連絡をした。帰国したことをSNSに上げても彼から連絡が来ることはなかった。「帰国したらまたご飯でも行こう」と言っていたのは社交辞令か、忘れているのか。相変わらず私から彼に連絡をして、会う約束を取り付けた。

彼はまた言った。他の人も誘う?と。私は、もっともらしい理由を取り付けて今度は断った。二人で会いたかったから。

お互いもう成人していたから、自然な流れで居酒屋に行った。

そこで彼の優しさをさらに感じてしまったことが、これからまた一年弱私自身を苦しめることになるとは予想もしていなかった。

優しいと感じた一面をおすそ分け。
禁煙席ではなかったから、隣のテーブルのお客さんがたばこを吸い始めた。私は気にしていなかったが、彼は聞いてきた、「席替えてもらう?」と。その気配りどこで覚えたんだ。
注文はほとんど彼がしてくれた。お会計も、私に伝票を見せてくれなかった。帰りは、私の家の近くまで送ってくれた。

優しくて、優しすぎて、本当に残酷だった。

私はこんなに彼への恋心がさらに肥大していくなんて思ってもみなかった。帰り道に私は告白し直そうか迷ったのだが、そんな勇気はもう持ち合わせていなかった。

その日はそのまま別れたが、やはりもう一度会いたい。どうしても彼へ今の私の想いを伝えたい。そう思ってもう一度会えないかと誘った。彼の返事は、「予定がわかったら連絡する」。

察しのいい方ならわかるだろう。彼からの連絡はそれ以降来なかった。

共通の友人を介して、彼に彼女ができたと聞いたのはそれから二か月ほどしてから。私と最後にご飯に行ったときには気になっている子がいるという話も実はしていたから、彼女ができたと聞いても驚かなかった。とうとうできたんだ、そう思った程度だった。

彼への恋心は消えなかった。私はそれなりに他の男の人と出掛けることもあったけれど、自分でも驚くほどに彼のことを思い出してしまっていた。彼ならこう言うかな、彼ならこうしてくれるな、なんて。失礼なほどに、他の人と一緒に居ながら彼のことばかり考えていた。

そんな生活をしながら私は、半年ほどずっと寂しい思いをしていた。時々泣いて、親友に話を聞いてもらった。LINEもSNSも、彼とのつながりを全部削除しても彼への想いはなかなか消えてくれなかった。

そんな時、出会ったのは今の恋人だった。

終止符、そしてスタートライン。

今、私には恋人がいる。
そして、ずっと好きだった彼のことはもう完全に私の中で過去の思い出となった。

今の恋人と出会って、仲を深めていけたおかげで、私の心に絡まって解けなかった重い重い鎖が柔らかく溶けていった気がした。

過去の彼は、ある種の呪縛。執着で、依存。いつしか気づいたら彼への想いは純粋な恋心ではなくなっていたのだ。もっと早くに気づけたらよかったのに。

しかし、ひとりの人を想い続けてきた過去は、私の中で大切にしたい経験でもあって、これがあったからこそ今の恋人とお付き合いができている。大切にしたいとは言っても、恋心とか愛情とかとはまるで違う。ただ、あの頃の私が今の私を作り上げている、ただそれだけ。

私が過去の彼を想っていたように、今の恋人も前は他の女の子を長い期間想い続けていた。そしてその恋はうまくいかなかった。それがどれだけつらいことで、でもどれだけ愛おしい時間だったかを私は知っているから、彼の支えになってあげられた。それがお付き合いに発展する一つの種だった。

今の私はとても幸せで、きっとこれからもっと幸せなことが待っていると思う。それは過去の彼を想ってきた私だから、そしてそんな私が今の恋人と出会えたから。

私の6年間の片想いに終止符が打たれた。そして今、新しい道を歩もうとしている。

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