コーヒー焙煎の考え方(後編)
コーヒー焙煎の教科書はありそうでなく、
専門書や他の焙煎士と話をして学んで、最終的には自分独自の理論で焙煎している。
僕も焙煎を始めた頃は、不思議に思ったが焙煎を学んでいく中で知ったことは、焙煎機によっても理論は異なり、味の方向性も様々だった。
焙煎は、与えるカロリーと排気のコントロールという主に二つの可変要素で操作する。
味わいの違いは、この二つの操作の加減によってクリーンな味になったり、個性を強調したりできる。
その工程の前に、僕の焙煎の一番大切にしている考え方がある。
それは、焙煎前にコーヒー生豆を洗うこと。
これにはメリットとデメリットがあり、ほとんどのお店では洗うことはしないと聞く。
ではなぜそれをするのか。
僕たちの目指すコーヒーの根本は、飲みやすく飽きのこない味わいを引き出すこと。
50℃のお湯でお米を研ぐように豆を洗う。
するとコーヒー生豆の表面についたホコリや微生物を取り除くことができる。
その際にもちろんコーヒー生豆の成分も多少は出てしまう。
僕たちはこの二つを天秤にかけて、洗う方を選択した。
この結論は、かつてコナコーヒーの農園を見学させてもらって感じたことから得たヒントが大きい。
理由はいくつかある。
コーヒーは産地で精製されてから長い時間をかけて船便で日本に届く中で、少なからずホコリや微生物の活性化は進むと考えており、それを取り除きたいから。
雑菌などは焙煎で200℃くらいまで加熱するので、死滅するのはもちろんだが事前に取り除ける方がいいと考えた。
次に、コーヒーは精製工程の中で最後に乾燥させて水分を12%前後まで低くして流通することに着目した。
水分を抜くことで、味を凝縮させることはもちろんあると思うが、僕の中で乾燥工程をみたときに一番に感じたのが、水分を抜くことで菌の繁殖を抑えて流通できるようにしたのかなということ。
世界の三大貿易商品であるコーヒーは、流通させることが前提。
その際に、一番の懸念点は輸送中の劣化や菌の繁殖。
そのリスクを抑えるためにもこの工程が関係しているのではないかと考えた。
そして次に、表面に水分を含ませることで前半から強いカロリーを与えることができて、芯までの熱伝導を均等に効率よくしたかったから。
最後に、コーヒーを長年提供していく中でお客様からたまに聞いた「コーヒーを飲むとたまにお腹が痛くなる」という言葉。
最初はカフェインが合わないのかと思っていたが、もしたしたらコーヒーの何か違う要因が影響しているのかもしれないと思うようになった。
あくまで仮説でしたないが、食材に微生物や雑菌が付着しているのはよくあること。
コーヒー豆の場合は、200℃ほどの加熱により、菌が死滅するから安全と僕も学んだ。
もしかしたら、この死滅したものが影響しているのかもしれない。
これには科学的根拠は一切なく、あくまで僕の経験と予測であるが、0%ではないと思った。
これらのことから「豆を洗う」ことにした。
大げさかもしれないが、
お米を炊く際に、研いでから炊くことと同じに考えている。
この考え方は、個人的見解の意見なのでこれを正当化するつもりもなく、多数派を否定するつもりもない。
少しでも飲みやすくネガティブな味を出さないコーヒーを作りたいという考えを元に行っている僕たちの選択である。
この結果はお客様の反応でしか計れない。