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【読書記録】「リベラル保守」宣言
本書は現在の軽薄な「アンチ左翼」と化した保守に代わる保守思想を模索する。保守主義こそ近代合理主義によって個々の具体性を捨象、抽象化、アトム化され、熱狂や暴力、断言に弱くなった「トポスなき大衆」を包摂する社会を構築すべきであるという論調。バーク、チェスタトン、小林秀雄、福田恆存など引用した保守主義の思想家の著書にも触れたくなってきた。
バーク以来の保守主義の背景には、人間は不完全だという前提がある。そういう謙虚な姿勢を掲げる保守主義を掲げるからこそ、脱原発、排外主義反対、徴兵制反対、構造改革反対*を訴える必要がある。著者が定義するリベラル・ナショナリズムは再分配の動機としての同胞愛(郷土愛)であり、国内への共感・想像力を養うもの。断じて国粋主義や排外主義を訴えるものではない。
トポスの本質は時間と空間の連続性を伴うもの。作家としてのペンネーム夢野久作で知られるジャーナリストの杉山泰道が福岡から関東大震災直後の東京に赴いた際、「江戸っ子」の滅亡の危機を嘆いたが、この「江戸っ子」こそトポスの中で生きる人であるという著者の指摘には思わずうなずいた。
ふと思ったけど、中島さんの思想は穏健な保守主義という点で枝野さんと相性がよさそう。互いに互いのことについて言及はしていないようだけど。