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映画『上飯田の話』 監督インタビュー② 「町で映画を撮るということ」−町民の方々との撮影について−

4月15日に公開される横浜市泉区の小さな町を舞台にした全く新しいタウンムービー『上飯田の話』。本記事シリーズはその魅力をより深く知ってもらうために監督にインタビューを行いました。

聞き手:本田ガブリシャス克敏

―――作中には上飯田町の人々がエキストラではなくセリフがある形で出演されていますが、どのような経緯でそのような演出を行おうと思ったのでしょうか。
またそれを行ったうえでの工夫した点や気づき、作品に与えた影響などご自身でどのように考えていますか?

僕は映画内でも出てくる居酒屋「和らく」の客としてこの場所にはよく行っていて(今でも行っています)、普段のそこの場所がとても好きでした。この場所で映画を撮りたいなと漠然と思っていた時期から、実際に撮影をしようと思った段階で、やはりこの町で撮る以上、単なる1つのロケ地としてこの場所を使いたくはありませんでした。せっかく撮影をするので、この場所の方に出てもらいたいし、なるべくなら普段の感じを出せないだろうか。こうしたことが出演をお願いした理由です。

『上飯田の話』居酒屋 和らくでのワンシーン

予告編にも出てくるバナナの木を説明する方は、たしか撮影をさせてもらえないかと相談しに行ったときにお会いしたんですね。あの方はこのショッピングセンターの自治会の会長さんで、そのときに映画に出てきたようなバナナの木の話をそのまま僕にしてくれました。これがとてもおもしろかった。話のおもしろさだけでなく、この方の雰囲気というか、ここに実際にいる方の声だなという感じがした。この感じを映したいと思ったので、後日出演いただけないかと話しました。

この前撮影をしてくれた小菅と話していて思い出したのですが、居酒屋での撮影のときは、撮影予定時間の1時間前くらいにあの場所に行って、普通にお客さんとしてお酒を飲んだり食事をしたんですね。助監督の福地と、2話目に出演した生沼さんに、先に入っていて1杯飲んでいてもらいもしました。で、僕たちが到着して、また軽く飲みながらその場でここに機材を置いたらあまり邪魔にならないだろうという話をしたのだと思います。それは場所に慣れるというか、まずこの場所の一員になろうということで行いました。僕がそういう感じで撮りたいということを和らくのマスターもママも知っていて、撮影があるから常連さんに声をかけてを呼んでくれました。そうして撮影を進めました。

これはどの方のときもそうなのですが、地元の方との話は台詞を決めていません。せいぜい決められて最初の一言くらいだと思っていました。あまりに決めすぎるといつもの感じから遠ざかってしまう恐れがありましたので。あくまで僕たちは撮影するためにお邪魔させてもらっているという感じでいきたかった。そのため撮影時に僕ができることはショットが始まったら俳優とその場にいる方々をただ見守るくらいのものです。もし話している内容で映画全体がわけのわからないものになったら、そのときはしょうがない。編集で悩もうと思っていました。

この撮影を通じて気づいたことはたくさんあるのですが、一番はとても楽しかったということです。自分自身どういうシーンになるのかわからなかった中で撮影をするのは、緊張もありましたが最終的には楽しい経験でした。普段はなかなか今のショットがOKなのかどうか判断ができないところもあるのですが、こうしたシーンは自然と「これはOKだな」ということがわかりました。綿密に準備をしてきて、それがバチっとうまくいったショットというのは、確かに嬉しいのですがそれは僕の予想通りにいったという嬉しさです。それとは別の「このシーンはこういうことだったんだ」と撮りながら自分で映画を理解していく体験はまた別の楽しさがあります。自分の予想通りにいかなかったおもしろさは、この映画を撮って味わうことができました。
撮っているときにフと現れる喜びみたいなものを味わうことができました。

1つ思い出に残っているのが、バナナの木の話をしているおじいさんのシーンを撮っているときです。僕は実はフレームのすぐ横にいまして、カメラのモニターではなくおじいさんの声を聞いていました。それがなんとも可笑しくてゲラゲラ笑いながら撮影をしていました。同時に「編集でこれはどこを使えばいんだろう」と不安にも思いましたが、まあそれは編集のときに考えよう、今はこの場を一緒に楽しもうと決めて撮影をしていました。案の定編集で頭を抱えることとなり、完成直前までどこまで使うべきか悩むこととなりました。けどそれで良かったのだと思います。

ーー③に続く

たかはしそうた監督インタビュー① --作品の着想について--


横浜市泉区上飯田町を舞台にした
全く新しいタウンムービー
04月15日 ポレポレ東中野にてロードショー

本作は単なるショートストーリーが連なったオムニバス映画ではないかもしれない。いうなればショートストーリーによって連結された町の物語であり、主役は町そのものと言ってよいだろう。その不思議な感覚は特殊な撮影手法によってもたらされている。

今回が初の劇場公開作となる本監督は、劇中にも登場する「上飯田ショッピングセンター」の建物の佇まいから強い映画創作の着想を得た。現地に何度も足を運び、町民の人々と交流するなかで、物語を制作していった。

主要キャストはエビス大黒舎に所属する若手俳優たち。こちらも演技のレッスンに足を運び、それぞれの人物像と登場人物を丁寧にすり合わせていった。上飯田町に実際に生活する人々も出演してもらっており、俳優たちの演技のなかに、いきいきとした町民の会話が溶け込み、フィクションにいろどりが与えられた。

フレームの外の町の風景、生活、人々が、巧みにフレーム内に融合した、この時代にしか撮れないエスノグラフィックムービーが誕生した。

コメント

上飯田という場所は実在するが、『上飯田の話』はどこにも存在しない。それは誰かの私的な記憶の場所でありながら、誰もが知っているはずの風景である。映画と現実。ドキュメンタリーとフィクション。歴史と現在。あなたとわたし。バナナの木とソフトボール。あらゆるものを結びつけながら分割する「と」という接続詞をヒョイと飛び越え無効にしてしまうたかはしそうたの大胆不敵さを御覧あれ。これもまた映画にしかできない離れ技である。

諏訪敦彦(映画監督)

その辺の普通の人たちのいつもの生活が、気味悪いほど確信に満ちた映像で撮られることによって何やら神聖なものに見えてくるから不思議。たかはしそうたは若くして映画の本質をつかんでしまったようだ。カメラがゆっくりパンを開始する度に、僕は自然と襟を正した

黒沢清(映画監督)

生きることを物語に要約しないことで、毎日の暮らしのどうでもいい細部にひそむ不安が見えてくる、隠された日常の発見。

谷川俊太郎(詩人)

その他のコメントはHPで閲覧ができます。

横浜の小さな町を舞台にした『上飯田の話』4月15日(土)ポレポレ東中野にて公開。

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