見出し画像

「かわいい♡」が大衆化させる水引工芸の未来を考えてみる

こんにちは!  紙単衣の水引デザイナー小松です。

少し前までご祝儀袋やお正月飾りでしか見かけなかった「水引」が、ここ数年ハンドメイド作家さんたちに「かわいい♡」と人気です。テレビや雑誌でも紹介され、商業施設でもアクセサリーや雑貨を見かけます。
「水引ブーム到来!」と明るい声が聞こえる一方で、「大切な何かが置き去りにされていくのではないか」と危惧する声も聞こえてきます。

今回は、そんな時代の流れの中でうごめく「水引」の現状と未来を考えてみたいと思います。

■「水引ブーム」はどのくらいの人気?

実際「水引」がどのくらいハンドメイド作家さんに人気なのか数字で見てみましょう。

・某ハンドメイド通販サイト内検索ワード「水引」:約 9,300件
・instagram 投稿  #水引 :約 118,000件
水引専門ハウツー本 新書:19冊(2013年以降発売 / amazon 検索調べ)

興味のある人が結構いると思える数字ですね〜。ハンドメイド通販サイトでもっとも数の多い水引商品はアクセサリーです。instagramでも、やはり水引アクセサリーの写真が多めです。初めて水引に触れた個人から老舗企業まで、国内外の水引写真を毎日見ることができます。過去5年以内の水引ハウツー本にもアクセサリーの作り方が数多く載っています。著者は20〜40代の女性で伝統を受け継ぐ匠のイメージより若い世代の方たちです。

■伝統の水引とは何か?

◎素材の水引

こより状の和紙に色染めや極細の繊維を巻いた素材そのものを「水引 / 生(なま)水引」と呼びます。大量に使われる生水引は、ほぼ機械で製造されていますごく一部に伝統製法を受け継いでいる水引職人さんはいますが、私が知る限り全国で2人!! 後継者情報は不明です(泣;

◎工芸品の水引

生水引に細工をほどこした水引工芸品も「水引」と呼びます。一般の人が目にする形は細工後なので、省略して呼ばれるのも自然ですね。水引工芸品の製造は、全て手作業です。国内で活躍する水引工芸の職人(工芸士)さんや工場作業者、家庭内職者もいますが、大量生産される製品の多くは中国や東南アジアなど海外工場で作られています。少しがっかりする情報ですが、量販店で売られている水引製品の価格を見れば納得せざるを得ません。国内の職人さん…こちらも少数、そして内職さんはご高齢の方が多めです。。

「水引」は伝統的工芸品ですが、昭和から平成にかけて「地場産業」として大きく発展したため、製造現場は機械化や海外進出が進み革新的です。

◎使う水引

それでは、「伝統の水引」のイメージに合う「伝統」とは何でしょうか。数年前、水引が使われたテレビCMでこんなコピーが流れていました。

人生は言葉で伝えない想いの方が、はるかに多い。
JT 日本のひとときシリーズ 水引編

水引を使う場面といえば、冠婚葬祭や季節毎のお祝い。伝統様式の場面に「水引」は昔から在り続けています。

戦前は一般教養として、自分で贈り物を紙で包み水引を結ぶことができた日本の歴史を振り返って見ると、「相手を想って心を込める精神性」に日本の伝統を見ることができて、その精神性が宿っているものが「水引」と考えると「伝統の水引」がしっくりくる気がします。

■水引ブームは水引業界にどんな影響がある?

ハンドメイド作家さんに人気が出ると、素材である生水引の販売数量が伸びることは想像できますが、それ以外に業界に影響はあるのでしょうか。

水引細工で何かしようとする人々のポジションを大雑把な図にしてみます。

◎ビジネスとしての水引

古くから続く地方の水引産業は、複数の民間企業が協同組合を結成して支えています。男性が中心となって時代に合わせて工夫をして、利益を追求しています。小売業者への卸売がメインなので、地域の外にいる一般消費者や異業種からはなかなか存在が見えません。

<特徴>
・目的:お金を得ること(取引先の事業貢献)
・誰のため:一般企業、個人消費者
・活動:製造卸、一部小売 など
・製造者:国内外内職者
・デザイン:古典的、量産しやすいもの
・得意:大量生産

近年は、組合独自の検定やコンテストを開催して、活性化を図っています。

◎アートとしての水引

昭和以降、都心部を中心に発達したアート分野の水引は、技術の巧みな個人(工芸家)のもとに技術を習いたい人が集まり、独自のコミュニティを形成しました。主な参加者は女性で、年齢層は高めです。それぞれのコミュニティで技術を伝承しています。コミュニティ内の交流が中心のため、外部には情報が広まりにくい状況です。

<特徴>
・目的:自己表現、楽しみ
・誰のため:自分、知人
・活動:作品制作、展示開催、講師、一部販売 など
・製造者:自分、または知人と共同
・デザイン:独創的(伝承されるものあり)、時間のかかる複雑なもの
・得意:他の人には真似できない一点ものの大作づくり

コミュニティごとに講習会や認定講師制度、定期展示会が開催されます。

「ビジネス」と「アート」の中間で活躍する人もいますが、目的が違い、男性社会と女性社会でもあって、相互の化学反応は目立っていないようです。

◎個人ビジネスとしての水引

そこに現れたのが、個人ビジネスとして水引細工をする人たちです。水引デザイナー、クリエイター、ハンドメイド作家などは、修行をして高い技術を身につけた人もいれば、見よう見まねで独学の人もいます。趣味の範囲で活動する人もいれば、会社を起こしスタッフを抱える人まで様々です。20〜40代の女性を中心に活躍しています。

<特徴>
・目的:好き+お金=購入相手が喜ぶための表現でお金を手にする
・誰のため:個人消費者、一般企業
・活動:制作販売、講師、展示開催 など
・製造者:自分、スタッフ、外注
・デザイン:簡易〜複雑なものまで、自分の好きなもの、売る相手による
・得意:独自のこだわりを残しながら、相手に合わせた柔軟な制作。

インターネットが普及したことで地域を越えて情報が伝わり、SNSやリアルイベントで、人となりや作風、ユニークな個性が見えてくると、ファンがつきます。開かれた場所で自ら情報発信をしているので、業界の外からも存在がわかりやすいのですそのため、相手が喜ぶ商品や作品を提供できる人は、直接個人や企業から声がかかり大きな仕事を担うことがあります。

個人ビジネスの人たちに向けた業界の声は、ポジティブな意見もあればネガティブな意見もあります。

個人ビジネスの人たちは、和文化や水引の精神性に興味があって始めた人が多く、長く業界にいる人たちのことを尊敬していて、機会があれば知識や技術を教わりたいと思っています。

水引ブームは「水引」の認知度が底上げされることで、これまでに存在しなかった仕事が生まれたり、業界内で刺激しあって切磋琢磨したり、協力して大きなことにチャレンジしたり、業界全体が活性化していくチャンスです。

■他の文化から考える水引の未来

ブームを経て、これからの「水引」はどうなっていくのでしょうか。大ブームが起こり、世界的に広まった他の文化を見てみましょう。(歴史は諸説有)

◎世界のおりがみ

instagram投稿 #origami :約2,876,000件

日本の「おりがみ」の起源は、武家の折紙礼法にあると言われています。和紙で物を包み(時に水引を結び)贈るために用いていた、現代のご祝儀袋や熨斗の原型です。江戸時代初期に和紙が安く大量に作られ庶民に広まって、ごま塩やきなこを包む用途から各家でオリジナルの折り方が考えられ、遊戯用に折るおりがみ遊びが発展、普及したと言われています。

江戸時代中期には、礼法部分(作法、意味、目的)を失って広まることを憂う人が書面を残したり工夫していましたが、やはり混同されがちで、昭和初期にもともとの折紙礼法は「折形(おりがた)」と呼称を変えて明確に分けられました

遊戯おりがみが幼稚園や小学校にも取り入れられたのは、明治時代だそうです。遊戯用として大衆化した折り紙は、世界各地に「origami」として広がり、愛好家団体がいくつもできて、今では日本が誇る文化となっています。

◎世界のマクラメ

instagram投稿 #macrame :約2,372,000件

「マクラメ」とは、アラビア語で縁飾りの房や紐(ひも)のことを指します。中世にイスラム文化圏で発展したマクラメは、当初ラクダの背につける麻袋の房結びとして始まりました。暑い砂漠の旅で虫除けに便利だったそうです。

ヨーロッパ各地に伝わってからは、寺院の装飾品や僧侶の衣服、房飾りとして独自の発展を遂げたとされています。さらに16~17世紀には、女性のファッション装飾として流行し、ヴィクトリア王朝時代には、イギリス宮廷で流行、細い糸を編み「マクラメ装飾を作る、身に付ける」ことが貴婦人たちのたしなみになり、テーブルクロス、カーテンなどのインテリアにも使われました。

大航海時代にはカナダ・アメリカ、南米にも伝わり、現地文化と融合し、やはり独自の発展を遂げました。1970年代には、アメリカの若者の間でガラスビーズや貝殻などと組み合わせたマクラメジュエリーが人気となりました。

その時代や土地柄により独自に発展したものの、「マクラメ」は英語、フランス語、イタリア語、プルトガル語、スペイン語などどの言語でもほぼ共通のスペル「Macrame/macramé」が使われています。国を越え、用途が変わっても初期の名称が総称として残り続けているのです。

■さいごに

おりがみとマクラメの変遷から見える共通点は、大衆の心を掴む流行がそれまでの常識を越えて、未来の前提として文化を育てていくということです。

現代の立体的な水引工芸も、大正時代に石川県で折形を熱心に研究した人が「無茶苦茶流」と称して、初めて考案した立体結びがもとになって、全国的に広まったと言われています。

流行の真っ只中では、模倣品が横行し、権利の所在が不明瞭になることが問題ですが、キャッシュレス化が進んだ未来には、ご祝儀袋はなくなっているかもしれないし、水引が注目されている今「かわいい」をヒントに水引の新たな商品やサービスの開拓が急がれます

もしこのまま「水引」について学びたい人が増えていったら、学校教育に再び一般教養として水引を取り入れる日が来るかもしれません。
突然、奇想天外なアイディア作品が人気を博し、「MIZUHIKI」あるいは別の名前で、日本の水引が世界に広まっていく可能性もあります。未来の水引細工は、指型ロボットが器用に手伝ってくれるのではないでしょうか。

いずれにしろ、今の水引ブームはこれから先の未来の「水引」文化をよりよく発展させる過程だと信じて、ブームとなっていることを喜びながら、様々な可能性に期待して、私自身も水引の仕事に取り組みたいと思います。

最後に、この記事を書こうと思ったきっかけは、「水引」のことが、かわいくてかわいくて毎日夢中になって結び続けている女性たちが今たくさんいる一方で、「水引が『かわいい』なんて考えたこともなかった」と戸惑う水引企業の方がいて、SNSを見ると「水引」に対して大切に思うことがまた違う人たちがいる、そのギャップの理由を探りたいと思ったからでした。

最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。

【この記事に関するお問い合わせ先】
kamihitoe.shop@gmail.com

いいなと思ったら応援しよう!

紙単衣@水引デザイナー
サポートいただいた際には、新たな水引製品を開発するための材料や小道具を充実させたいと思います!オーダーメイドのご依頼もお待ちしています。