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映画「ラストマイル」にアンナチュラルのあの人が出る意義(映画感想文)

 あの名作ドラマ「アンナチュラル」と「MIU 404」と世界が繋がっているシェアード・ユニバース・ムービーなる映画が公開されるらしい。
 そんなの絶対行くっきゃねえ!というわけで、月に一度は映画館に行ってnoteに感想を書こう2024、8月はラストマイルです。ギリ8月。


 いつも通りネタバレ全開の感想文ですので、映画を鑑賞済みの方だけお読み下さい。

 野木脚本映画を見るのは「カラオケ行こ!」に続き、今年2回目。

 10月からは新しくドラマも始まるそうなので、野木亜紀子さん働きすぎではと、ちょっと心配になってくる。
 いや公開時期が続いただけで執筆時期はバラバラなのかもしれないのですが……。オタク、すぐ想像で心配する。

 そもそもタイトルのラストマイルってどういう意味?と調べたところ、作中でも言及があったように「顧客に荷物が届く物流の最後の接点」だそうです。
 この作品で言えば「ラストマイル」に該当するのは、主演の満島ひかりさん演じる舟渡エレナさんが勤める大手通販サイトDAILYFASTが有する巨大倉庫……ではなく、運送会社である羊急便、及び委託ドライバーの佐野親子たちのほうです。
 作品のメインとなる場所とはやや異なる用語をどうしてタイトルにしたんだろうと考えつつ映画を観ていたのですが、多分「ラストマイル」にはもう一つ意味があって。
 中村倫也さん演じる山崎佑がレールを止めるため、助走した距離もまた「ラストマイル」という意味だったのだなと、観終わってから思いました。

 ここから先は事件の犯人のことにがっつり触れていきますので、映画まだ観てないよという方は本当に読まないようにお願いします。

 私がこの映画で一番胸に来るものがあったのは、アンナチュラル7話「殺人遊戯」に登場した白井くんが、立派に働いている姿が見れたことでした。
 大切な友だちだった横山くんの自死を止められず、その原因がいじめにあるのだと、世の中に知らしめるため配信を行った当時高校生だった白井くん。
 彼が期待したとおり、ミコトさんは死因を暴いてくれたのですが、彼はその後、自ら命を絶つつもりでした。

白井「横山は死んだ。僕だけが、生きてて、いいのかな」
中堂「死んだやつは答えちゃくれない。この先も。許されるように、生きろ」

アンナチュラル7話「殺人遊戯」

 それを止めたのは、自身も大切な人を喪った経験を持つ中堂さん。
 この二人が交わしたこの言葉がすごく好きだったので、白井くんが生きていること、バイク便として働いていることがすごく嬉しかったんです。

 ですが、アンナチュラルに出て来た登場人物たちの内、「その後」が描けそうな人物は他にもいます。では何故白井くんが登場したのかを考えていたのですが、恐らく今回の犯人である筧まりかさんと白井くんはだいぶ状況が似ているんですよね。
 大切な人を失った過程や、復讐を決意し、最後は自死を選ぶつもりだったことも。

 「ラストマイル」で感じたのは、今作の事件の犯人を美化しないように、慎重に描写しているんだなということでした。
 愛する人の無念を晴らすために大企業と世の中に報復する。それも自らの命を差し出して。こう書くとまるで、美しく尊い行為のようです。
 けれど中堂さんが「見上げた根性だ」と口にした際、ミコトさんが呟いたとおり、「そんなは根性いらない」んですよね、きっと。(※ここのセリフ違ってたらすみません)

 私は塚原監督と野木脚本タッグ作品において好きなのは、誇りを持って働くこと、死を選ばずに生き続けることを、力強く、優しく訴えてくれることです。
 それゆえに白井くんは、生き続けることで自分自身が救われて、またそれが他の誰かを助けることにも繋がるという、お二人の作品の根底にあるものを表現するために登場したのかなと感じました。純粋に白井くんのその後が知れて良かったという安堵もありますが。

 アンナチュラル主演チームとMIU404主演チームの姿がまた見れたのは本当に嬉しかったです。
 ムーミン大好き坂本さんが中堂さんをイジれるくらい活き活きしているのも笑っちゃったし、志摩さんと伊吹さんの息の合った相棒っぷりが見れたのもニヤニヤしてしまった。
 陣馬さんの新しい相棒がMIU3話「分岐点」にて「止めてくれる人に出会えた」側の勝俣くんだったのも良かったです。さらに欲を言えば九重さんが陣馬さんと話している姿も見たかったですが……。

 止まらないレールを止める為、稼働率をゼロにする為に、ラストマイルを走った山崎さん。
 レールの上から降りたエレナさんは気持ち良さそうに爆睡し、佐野親子の親子愛は作中で描かれた通りで、最後にターゲットとなった働く母と娘二人も、多少拗れながらも深い愛情で繋がっている。
 しかしエレナさんの後任となった岡田将生さん演じる梨本孔さん、そしてディーンフジオカさん演じる五十嵐道元さんはレールの上に残り、再び一人で仕事に追われる日々となった。
 誇りを持って働くことは尊いけれど、はたしてそのレールの上で誇りを持ち続けることは出来るのか。
 必死に働く自分のことを評価してくれる人、大切にしてくれる人はいるのか。いつまで自分には異常がないと信じられるのか?
 私自身、やってもやっても終わらない仕事の量に疲弊して、会社のトイレで泣いてしまった経験があるので、あのラストは本当に不穏でした。

 一度便利なシステムが出来てしまえば利用者はそれを手放せず、世の中の欲望にはこれからも歯止めは効きません。
 だからこそシステムを作り管理する側が、状況を見てそれをコントロールしなくてはならない。
 けれど上層部がそれをしないのであれば、その下で働く人たちが疲弊していくだけ。

 羊急便は阿部サダヲさん演じる八木さんを筆頭としたストライキの結果、社長を含む管理職の人たちが現場で働くことにもなった。
 上層部が現場の意見を聞き入れ、寄り添う姿勢を持っている会社なら、きっと他の問題も徐々に解決していける。
 けれど上層部に変わる気配の無いDAILYFASTは……? そして上層部にいる人たちもまた、自分自身のことを正常であると言い切れるのか?

 働く全ての人たち、ちゃんと食べて、休憩を取って、そして睡眠もしっかり取って、それでもこの職場はおかしいと思ったら離れましょう。
 働くことは本当に大切なことだけれど、それによって貴方自身が失われてしまっては、悲しむ人がきっといるのだから。


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