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マグマの一部は海水!?日本火山学会が教える1000℃のマグマができる仕組み

有珠山という、数十年に1度のペースで噴火する活火山の近くに住んでいる私は、とても心配性なので、噴火に関わる細かい仕組みまで理解しないと安心できません💦
それならそんなところに住まなければ良いのでは❓という意見もあるかと思いますが、変え難い魅力があるのです🫢
(➡️詳しくは、前回の記事で)

そんな心配性な私が気になったことは、「そもそもマグマってどうやってできるの❓」ということです🌋
だって雨が降らなければ川が枯れるように、マグマが生成されなければ噴火もしないはずですよね‼️
ということで、マグマができる仕組みを調べるにあたり、どこから手をつけらた良いか考えていたのですが、そういえば、どんな分野にも、研究者が集まって調査研究する「学会」なるものがあったなと思い、調べてみたらありました「特定非営利活動法人日本火山学会」✨
この学会、火山に関する学会としては世界で初めて1932年に設立されており、現在1000名を超える会員がいるそうです👏
今回は当該学会の情報を軸に、「海洋プレート沈み込みによるマグマ形成の仕組み」について整理していきます☺️

❶マグマとは

地下深くの高温高圧の状態で、岩石成分などが溶けた液体状態のものです。
ドロドロに溶けている岩石の素で、温度は800度〜1200度程度。
マグマが地上に出て冷えると岩石になり、これを火山岩と言います。
玄武岩、安山岩、流紋岩などの火山岩の名称は良く耳にしたことがあると思います。
一般的に、シリカに富む流紋岩質のマグマは粘性が高く、シリカの少ない玄武岩質のマグマは粘性が低いそうです。

有珠山は、約2万年前、粘性が低いマグマによる溶岩の流出を主体とした活動により成層火山として成長しました。約7000〜8000年前に山体崩壊を起こし活動を休止した後、1663年に活動を再開してからは、粘性が高いマグマによる溶岩ドームの生成や火砕流などが主な火山活動となりました。

日本列島の火山では有珠山のように、最初は粘性が低い玄武岩質マグマの活動があって、火山体の大部分を形成する時期は安山岩質マグマが主体となり、最後に粘性が高い流紋岩質マグマが活動する例が多いそうです。
マグマの性質が変化する理由は❹で詳しくご説明しますのでお楽しみに☺️

火山岩と火山の種類(火山の種類は気象庁HPを基に作成)

❷マグマと黒曜石

流紋岩質マグマが急冷されると、黒曜石というガラスの一種ができます。
流紋岩に多く含まれる石英と化学的にはほぼ同じ成分ですが、ガラス成分だけが集まって結晶を作らずに固結すると黒曜石ができるそうです。
黒色のものが代表的ですが、含まれる不純物によって赤や透明などさまざまな色の黒曜石が存在します。

天然のガラスであるため割れやすく、割るだけで鋭い刃物になるという特徴があるため、石器として利用することができ、かつて洞爺湖町で暮らした縄文人も生活の道具として活用していたと考えられています。
北海道では、遠軽町の白滝や赤井川で黒曜石が採れ、洞爺湖町にある縄文時代の遺跡「入江・高砂貝塚」からも出土しています。

黒曜石から作られた石器

❸マントルが溶けてマグマになる仕組み

地球は、地表面から大陸の場合は約40km、海洋の場合は約7kmの厚みの「地殻」、地殻の下約2900kmの厚みの「マントル」、中心部の「核」で構成されています。

地表から約100kmの厚みの地殻とマントルの最上部の部分は「プレート」と呼ばれる硬い板状のもので、地球の表面は十数枚のプレートで覆われています。プレートが沈み込む部分が「海溝」、プレートが両側に引っ張られてできる裂け目から新しいプレートが生成される部分が「海嶺」と呼ばれています。

日本列島は、海洋プレートが大陸プレートに沈み込む、プレートの境界部に位置しています。
このようなプレートの沈み込み帯で見られる火山活動は、沈み込むプレートの上部にあるマントルの一部が溶けて発生するマグマによるものと考えられています。

岩石であるマントルは通常は固体で溶けませんが、水などの成分がマントルに付け加わることによって起こる融点降下によってマグマが発生すると考えられています。

海洋プレートがマントル内に沈み込む際、プレートに含まれる水や含水鉱物などの堆積物がプレートと共にマントル内に運び込まれていきます。沈み込むにつれて圧力が増加します。

物質は置かれた条件下で一番安定な状態をとろうとします。高い圧力がかかる地下深部の場合、エネルギー的安定に最も寄与するのは体積が縮小することです。

含水鉱物はその組成、種類によって固有の様々な温度圧力条件下で一番安定な状態に変化し、高温高圧の地下深部では体積を縮小するために分解して水を放出します。放出された水分子が、マントルの分子間に進入し固体結晶内の格子力を弱めるため、マントルが液体化し溶け出しマグマが生成されます。これが融点降下です。
つまり、プレートの沈み込み帯のマグマは海水によって生成されている、という訳ですね!!

マントルが溶けてマグマができる仕組み

❹マグマはなぜ上昇するの?

④−1マグマが上昇する仕組み

液体であるマグマは、固体であるマントルより比重が軽く密度が小さいため、マントルとの密度差により浮力が生じマントル分子の隙間を通って上昇します。上昇とともに圧力が下がるため、マグマの体積が膨張し比重が更に軽くなり、マグマは上昇を続けます。

マントルや下部地殻を上昇したマグマは、下部地殻と上部地殻の境界付近に溜まりを作り、一時的に蓄えられます。「マグマ溜まり」と呼ばれ、深くなるほど大きい密度を持つ地殻物質中をマグマが上昇し、マグマの密度と周囲の密度が釣り合った場所でマグマが一旦停止するためと考えられています。

マグマ溜まりの中の高温のマグマは、周囲の岩石によって徐々に冷やされ結晶化を始めます。
結晶の中には、水や二酸化炭素を主とする揮発性成分がほとんど入らないため、マグマの結晶化が進行するほど液体のマグマ中に揮発性成分が濃集します。

揮発性成分の溶解度は圧力が高いほど大きく、ある深さでマグマ中の揮発性成分の量がその溶解度を上回って過飽和状態になった時、揮発性成分はマグマから分離し始め、沸騰したように発泡し始めます。揮発性成分がマグマから分離して気体や単体の流体になると体積が増加し、マグマ溜まり内の圧力が高まります。溜まりを取り囲む岩石を破壊できるまでに圧力が高まると、マグマは溜まりの天井を突き破り上昇し始めます。
この他、マグマ溜まり内部の圧力は、下部から別のマグマが注入することによっても増加すると考えられます。

マグマ溜まりから火口をつなぐ部分を火道と呼びます。マグマが火道を上昇し始めると減圧によって火山ガスや水蒸気を噴出し発泡し続けます。これによってマグマの密度が小さくなり更に上昇を続け、火口まで達して噴火します。

マグマが上昇する仕組み

④−2マグマの性質

ガラスの主成分であるシリカが少なく高温の玄武岩質マグマは一般に気泡が容易に成長しやすく、シリカに富む流紋岩質マグマは高い粘性のため気泡の成長が遅く、マグマが地上に出てから急激に気泡の成長が起こる場合があり、この場合噴火は爆発的になります。流紋岩質マグマによる噴火が玄武岩質マグマによる噴火に比べて爆発的になることが多いのはこのためです。

日本列島で見られる火山では、その一生を通じて同じ種類のマグマだけを噴出し続けることは多く無く、有珠山も粘性が低いマグマから、粘性が高いマグマへ性質が変化しました。

地殻を構成する岩石とマントルを構成する岩石の化学組成は全く異なり、密度も異なります。マグマと周囲の岩石との密度差はマントル内でかなり大きいのに対し、下部地殻ではその差は小さくなります。マントル内で生成された高温の玄武岩質マグマは地表に向かって移動する時、地殻とマントルの境界付近に停滞してしまいます。

停滞が始まった初期には玄武岩質マグマの一部は地表まで到達して玄武岩質の山体を形成しますが、停滞した玄武岩質マグマの熱は下部地殻物質の溶解に使用され、地殻とマントルの境界付近に停滞した玄武岩質マグマの上には下部地殻物質の部分溶解によってできた流紋岩質マグマの層が出来上がります。流紋岩質マグマの密度は玄武岩質マグマの密度より小さいため、玄武岩質マグマはもはやこの流紋岩質マグマの層を突き抜けて地殻浅部まで上昇することはできません。流紋岩質マグマと玄武岩質マグマが混合して安山岩質マグマが生成され、このマグマが地表まで達して安山岩質の山体を形成します。

マントルからの玄武岩質マグマの供給が絶たれると、地殻とマントルの境界付近に停滞した玄武岩質マグマは冷却、固化してしまい、流紋岩質マグマとの混合も起きなくなります。こうして、残った流紋岩質マグマが地表に到達して火山体としての最終段階の火山活動を引き起こします。

マグマの性質(「火山とマグマ」東京大学出版会を基に作成)

❺マグマは生成され続ける

一回の噴火でマグマ溜まり内のマグマを使い切るという考え方と、10分の1程度しか使わないという考え方があり、明確にはわかっていません。

島弧火山で極めて稀に起こる非常に大きい規模の噴火で放出されたマグマの量は数百k㎥と言われています。仮にこの噴火でマグマ溜まりの10分の1のマグマを噴出したとするとマグマ溜まりの体積は数千k㎥あることになり、これは直径10km強の球の体積に相当します。

直径10kmの球形をしたマグマ溜まりが、結晶作用と対流を起こしながら地下で冷却される場合、この溜まりが噴出能力を持つ期間は数万年から数十万年であると計算され、数十万年と言われている火山の年齢と一致するそうです。

現実的には、地下深部からマグマ溜まりへのマグマの供給が続くなど、火山の一生にわたって一つのマグマ溜まりが同じ条件で存在し続けるとは考えにくく、上記のような単純なモデルでは無いようです。

一度マグマ溜まりが形成されると、噴火後に火山活動が落ち着いたとしても、再び噴火の条件がそろえば火山活動は再開されます。近年では、噴火はランダムに起こっているのではなく、一定のサイクルや規則性があり、ある程度予測できることがわかってきているそうです。

❻有珠山は教えてくれる

マグマ溜まりへのマグマの蓄積が進行したり、マグマが溜まりから上昇を開始すると、マグマや火山ガスの圧力によって、マグマ溜まりや火道の周辺で地震が起こることがあります。プレート運動に起因する地震と区別して、火山性地震と呼ばれています。

有珠山のマグマは粘り気が強いため地震や地殻変動が現れやすい特徴があります。
1663年の噴火以降、9回の噴火のうち7回は噴火前の火山性地震が記録されており、噴火前に半年から32時間の火山性地震の継続期間がありました。前回の2000年噴火の際は、火山性地震の観測による事前避難によって死傷者がありませんでした。

このように、有珠山は噴火を事前に教えてくれることから「優しい火山」とも呼ばれています。

有珠山の噴火

❼未知のものへの正しい理解で「不安」は「安心」に変えられる

地球上のどこであっても自然災害が起こる可能性があり、絶対に「安全」とは言えません。
今いる場所の土地の歴史や自然に目を向け、正しく理解することで「安心」を得ることができます。
自然災害は予測することが難しいですが、洞爺湖町で発生する恐れのある自然災害のうち有珠山の火山活動についてはある程度予測することができ、いつ、何が起きるかわからない不確定要素の一つが明確になっている分、「安心」と捉えることもできますね☺️


📕参考文献
有珠山火山防災マップ
洞爺湖有珠山ジオパークガイドシリーズ
洞爺湖有珠山ジオパークマスタープラン 2019 ー 2028
火山とマグマ 東京大学出版会 兼岡一郎・井田喜明(編)
特定非営利活動法人日本火山学会HP

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