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「けものたちは故郷をめざす」を読んで

6月30日

「けものたちは故郷をめざす (安部公房)」を読んだ。安倍公房の作品はかなり若い頃に「砂の女」を読んだことがあるけれど、この作品は以前読んだヤマザキマリのエッセイで知ったので、かなり久々の読書だった。

読む前に軽く作品のあらすじを読んだとき、満州からの引き揚げの物語の漠然とした想像をしていたが、読んでみたらそれを遥か上をいく壮絶な逃避行だった。

ソ連が占領する満州から日本を目指す久木久三が進む先は、ひたすら極寒の荒涼とした大地で、物語の大半をその歩みが占めていた。敢えてなのかもしれないが、そこには小説らしい展開はあまり無く、久木と国籍も分からない男が飢餓と寒さの中、南を目指して歩き続ける描写が続いていて、それがとにかく印象に残った。

普通に考えると、何も変化の無い荒野を歩くという描写はつまらなくなると思うけれど、この作品ではそんなことは無く、むしろ引き込まれて読んでいった。それは安倍公房が書く荒野の描写が、一つとして同じものが無く実に多彩な表現で、ありありとその情景が想像できたからだと思う。

また、日本を目指す道は国共内戦の混乱期にある中国で、誰が敵か味方か分からない、信じてもいつ裏切られるかわからない。そんな中、久木は故郷である日本に帰るという唯一つの希望を支えに進み続けていた。それは、現代の日本人が持ち得ることのないルーツへの渇望だった。それは、シベリア抑留の強制労働という過酷な状況でも、希望を捨てなかった日本人と同じものなのかもしれない。

絶望と閉塞感をまとった結末も相まって、記憶に残る作品になると思う。




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