観るべきは河合優美のみ:映画『あんのこと』レビュー
「かぞかぞ」や「不適切」での河合優美推しとしては、公開前情報を見聞した時点でパス決定の一本だったが、amazon primeでの配信が開始されたので鑑賞。
河合優美の演技力の確かさは、もはや周知の一般常識(!)。キネマ旬報9月号の特集「河合優実の時代はもう、はじまっていたんだ。」さえ遅いくらい。申し分のない本作の人物造形力に付言不要。本年度各映画賞で候補、受賞は確実だろう。しかし、である。
冒頭、事実に基づく物語である、とエキュスキューズされるが、監督・脚本の入江悠は何を目指したのか。現況の救いのなさを描き出し、だからどうしよう、としているのか。官憲、マスコミ、周辺の人間たちの理不尽さ、そんなことは今更あらためて声高に主張するまでもないことだ。それをどう超えるか、それをこそ提示すべきである。木下グループ、という大資本を得て、いくらでもやりようがあったのではないか。少なくとも、雑誌記者に扮した稲垣吾郎の後悔、涙には説得力なし。河井青葉演じる母親が、シェルターをどう発見したのか、早見あかりの身勝手母が児相からどうわが子をとりかえしたのかも説明してくれなければ納得できない。佐藤二郎刑事のラストの絶叫の繰り返し不要。そんなこたぁ分からん、でとどめてキャラクターデザインを整えておいて欲しかった。
河合優美という貴重な存在を、映画人たちはどうか大切にしてほしい。切にそう願うばかり。後味悪い一本である。