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上質な佳品『せかいのおきく』レビュー(更新)

 ヨコハマ映画祭に寄せて。
 岸井ゆきのとともに黒木華が主演女優賞の栄誉を得た阪本順治監督の意欲作『せかいのおきく』について一言。個人的には作品賞となった『ケイコ目を澄ませて』よりも本作を上位に位置付けたい。
 江戸から明治への移行期。西洋文明が一挙に押し寄せてきた時代設定の中、新たな日本語となった「せかい」を見事にキーワードとした脚本が素晴らしい。市井の人々にも新文明が伝播し、色恋の観念そのものを塗り替える。その市井の最下層の若者(寛一郎)とそれまで最上位にあった武家(佐藤浩市好演)の零落したありようの中で父の厄難に巻き込まれ声を喪った娘(黒木華さん主演女優賞おめでとうございます)との、直近まであり得なかった心のあやとり。章立てで小さなエピソードを積み重ねながら、基本をモノクロ画面で描き、語り終わりのみカラーで色付ける。時代相をそのまま対比反映させて、なるほどと観る者を惹きつける。上質な佳品である。

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