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過ぎ去りし香港への挽歌:映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』

 昨秋の第37回東京国際映画祭ガラ・セレクション上映された『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が1月17日、全国公開となった。
 映画の舞台は1987年の香港、九龍城砦。1994年に完全解体され、現在は公園となっている九龍城砦は、当時統治していたイギリスも香港政府も手を出せなかった無法地帯で、資料によるとサッカーコート四面ほどの面積(0.026k㎡)に15階建ての個室が密集し、約5万人が暮らしていたらしい(同作パンフレット)。所謂「黒社会」の巣窟ながら、独自のコミュニティを形成し、診療所も多く存在して近代医学と東洋医学とが混在したユニークな医療環境が確立していたとのこと。刷新改変著しい香港にあって古き時代を象徴する場所であったと言っていい。その場所で解体前にして繰り広げられる勢力争い。激烈で、ある意味漫画的な(原作は漫画とのこと)抗争が終始、息もつけないスピード感を持って展開する。それらひとつひとつの描出シーンからして、ジャッキー・チェン全盛期の勢いある香港映画を彷彿とさせるテイストで、主題とも相俟って懐かしさに溢れている。荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」や吉川晃司の「モニカ」が劇中広東語で流れるのも懐旧感をいや増しにするし、エンドタイトルにアクション監督として谷垣健治、音楽として川井憲次の名が並び、日本人スタッフの参画が嬉しい。
 主人公が仲間と協働して難敵に闘い挑み決着するストーリーは、あまりに予定調和がすぎる感、否めないが、ラストシーンに漂う雰囲気に、今は失われた往年の香港への挽歌たる手触り濃厚で、その温かさが作品に抒情をもたらしている。観る側は主人公たちに重ねて変わりゆく香港を慨歎する。約5.000万香港ドル(日本円で約10億円)を投じて作成された圧巻の九龍城砦のセットを目の当たりにするだけでも一見の価値あり。昨年のカンヌでの評判、納得である。

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