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『オードリー・ヘプバーン』レビュー

素晴らしいドキュメンタリー。特別これと言った新味があるわけではない。いつか、どこかで観たはずのオードリー・ヘプバーン映像や写真が、三世代のバレリーナをイメージとしてはさみこみながら、次々ならぶだけなのに、どうしてこうも愛おしく、陶然とさせられるのか。これすなわち永遠のアイドル、真の映画スターという存在性なのだろう。いつまでも、ずっと観続けたい時間の総体だった。
結婚生活の破綻と、ひたすらのわが子への愛。それゆえに拡がったと位置付けられたユニセフ親善大使としての実践実績となった世界中の子供たちへの親愛。その晩年の活動を語った様々な場面を凝視しながら、若かりし頃『戦争と平和』のナターシャを演じきったヘプバーンがいま存命だったら、プーチンの振る舞いによる現況を、どれほど嘆き、非難したことだろう、うっとりしつつも、そんな思いに自ら襟を正す屹立感も有したことだった。エンディングロールの「ムーン・リバー」が切なくも心地よく、観終わってもすぐには席を立てない余情豊かな佳品である。

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