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物語巧者の鮮やかな手際:一穂ミチ『ツミデミック』レビュー

 第171回直木賞受賞の一穂ミチ『ツミデミック』を実読書とAudibleでの聞き流しとで読了。パンデミック、感染症の世界的な流行を共通の基盤とした6つのドラマが、いずれも鮮やかな手際で描かれ、一作読み終え、聴きおわるごとに、その仕上がりに感心させられるばかりだった。帯には「犯罪小説」と銘打たれているが、遠い昔、向田邦子の『思い出トランプ』を読み、各所でハッとさせられた気分に似た、人間ドラマとしての印象が濃かった。Audibleでの読み手、馬場蘭子の多彩に場面場面を読み分け引き込む上質な朗読には内実とあわせて何度も陶然とした。
 同書の6つの物語は、超えてしまった者と踏みとどまった者との対比が鮮明で、読むことの楽しみを堪能できた。同好の知人によれば直木賞の本作より、候補にとどまった『光のとこにいてね』を読むべし、とのこと。あらためて作家世界を眺めてみると、BL小説家としてのキャリアも長く、同作をもって物語巧者たることを称揚するなど、愛読者諸氏からすれば今更観あって笑止千万であるだろう。不明を恥じるばかり。個人的には岸田奈美『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』の文庫本解説で作家名に出会い、この人今回の直木賞だったな、というのが本書通読、聴取のキッカケだった。折をみて別の作品を手にしてみよう。

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