水上勉『土を喰う日々 わが精進料理十二カ月』レビュー
映画レビューを書くにあたり未読だった水上勉の原作エッセイ『土を喰う日々 わが精進十二カ月』新編水上勉全集所収版を急ぎ図書館で借り出し読了。ここのところ若い書き手の作品世界と格闘する感じで読んでいたせいなのか、滋味深く達意の文章に、興味を掻き立てられ、また心癒されながら一気に通読して、なにやらホームグラウンドに帰った心地よさを体感し、久しぶりの「水上勉」を堪能した。これを映画化した中江裕司監督は、実に深い読みで、上手に脚本に仕立てなと感心させられた。ゴマの皮剥きや祖母の山椒の実独占のエピソードが、物語のアクセントになるよう色付けされている。若い頃、成城の書店で何度かお見かけした人気作家が、あの頃すでに軽井沢の山荘でかかる暮らしぶりを実践されていたのかと、読みながらゆっくり時空を漂い遡るような思いが湧き出てくるようで、深いところで何かが疼くようだった。本書にこの歳まで無縁でいたことを悔やむ気持ちと、映画をきっかけにして、今このタイミングで出逢えたことの喜びとが綯交ぜとなり、速読ながら思いがけない感動があった。新たな表現は、次世代に任せて、自分自身はコンサバでいいのかな、とも思ったことだった。映画でもやっていたが、今度機会があったら拙宅の猫の額ほどの庭の片隅に芽を出すたらの芽をぬれ紙で包んで焼いて食べてみようと思う。精進料理、の原義も奥深いことを、しっかり理解できた。敬愛する寄居鷹の巣に暮らす先輩ご夫婦の日々は、水上勉の山荘生活に通ずるものがあるなとも思い至り、次回お伺いする際は、是非本書で盛り上がりたいと思ったことだった。