受賞作にガッカリ!:万城目学『八月の御所グラウンド』レビュー
苦節15年、第二作目の『鹿男あをによし』で初めて候補になってから6度目で愛読者( ! )待望の直木賞受賞となった万城目学の『八月の御所グラウンド』を、まことにガッカリした思いで読み終えた。所収作品は、女子駅伝と草野球とが主題の所謂「万城目ワールド」たるファンタジー2本である。受賞そのことについては素直に慶賀と祝すことやぶさかではないが、『鴨川ホルモー』で颯爽と、いや大爆笑熱烈大歓迎で(かな?)文壇にデビューして以来、新作上梓のたびに楽しく追いかけ続けてきた読者のひとりとしては、この先本作を直木賞受賞作として万城目学の代表作とすることにはもろ手を挙げて賛同はできない。
2作品とも、京都らしい「万城目ワールド」ではある。しかし、新選組の存在に押されるようにして好成績を叩き出した全国高校駅伝一年生女子にも、先輩に請われていかにも京都あるあるの草野球大会に参加した大学生にも、深いところでの共振はなかった。大事なレース前にお土産ごときで奔走するなど駅伝選手としてはあり得ない。新選組の伴走は、その唐突さはいつものこととしても、その存在にどう牽引、もしくはどう追い立てられての好成績なのか、リアルとファンタジーとの連関理由がよく分からない。表題作に至っては、映画『フィールド・オブ・ドリームス』の原作となったウイリアム・パトリック・キンセラの佳品『シューレス・ジョー』(1982年文藝春秋永井淳訳)の焼き直し。しかも『シューレス・ジョー』に横溢する野球そのものへの懐かしく、温かに沸騰する情緒まるでなく、なんだまんまじゃない、しかもとっても足りないとの読後感が残念でしかない。
『八月の御所グラウンド』は最終の勝敗の決着まで語らず、それを余韻として佳作とする評が散見されるが、ファンタジーパートを担う人物たち行く末と、リアルの者たちとの結節点が不明のまま放置され、それを余剰として素直に受け止めることなど、到底できない。すぐさま続編と位置付けられる『六月のぶりぶりぎっちょう』が書店に並んだので、それを読めば回収されるのかも知れないが、今の時点では未読、かつこのたびは直木賞受賞作に関してのレビュー故、言及しない、というか言及できない。終盤、鮮烈な存在として描かれる中国からの留学生シャオさんが、『鴨川ホルモー』ですっかりお馴染みの三条木屋町の「べろべろばー」でアルバイトしていて、全国高校駅伝のロゴ入りキャップを被るくだりがあったり、地勢話題として新選組に触れる箇所もあって、本作が「万城目ワールド」の物語世界の一端であることが示されてはいる。個人的には、作家の読者サービスと受け取るが、物語世界を俯瞰的に眺め、本作それだけに難癖をつけるのは自重すべきかともやや躊躇われるが、ガッカリ感は確かだし、キンセラの佳品依存風はどうしても納得できないので、かかるレビューをアップする。