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【読書感想】『木挽町のあだ討ち』(著・永井紗耶子)

時は江戸時代、木挽町にある芝居小屋の裏手で事件が起きる。
若き侍が父の仇を斬り、見事に仇討ちを成し遂げたのだ。
その瞬間は多くの人に目撃され、「木挽町の仇討」として語り継がれていった。
それから数年後、一人の侍が木挽町の芝居小屋を訪れる。
その侍は目撃者達に仇討ちの詳細を聞いて回っていた。
やがてそこから「木挽町の仇討」に隠されていた、とある真実が浮かび上がってくるのだった。

ということで直木賞も受賞した「仇討ち」を主軸にした時代小説である。
闇の中で自らの”道”を見出して強かに生きていこうとする人々を描いた、とても心地の良い小説だった。

当時の芝居小屋は所謂「悪所」とされていた。
そこを居場所とする人達は、社会の理不尽や歪みに押し流され、深い闇を抱えている。
しかし、不条理に翻弄され、苦悩し、喪失を経験しながらも、己の闇と向き合って生きる”道”を見出してきた人達なのだ。

武士という世界も、同じように道理が歪んでいる。
その歪みは時代小説や映画の題材になり、多くの物語となった。
私が好きな池波正太郎先生の作品でも、武士の「仇討ち」が生み出す理不尽を描いた物語は多い。
最近で観た作品であれば、映画『碁盤切り』で武士の道理の歪みを狂気的に描いていたのが印象に残っている。

本作で仇討ちを成し遂げた若き侍も、武士の世界にある不条理に翻弄されて、とある苦悩と重荷を抱えていた。
彼の心にある闇が芝居小屋で生きる人達の人生と交わり、多くの人を巻き込みながら大いなる結末に収束していく様が、とても清々しく素晴らしかった。
本当に見事な、あだ討ちである。


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