サプリから離れられない。
小学校高学年の時、フジテレビの月9ドラマ「サプリ」にハマっていた。
丁度、ドラマの意味が分かるようになり、クラスメイトの間でも、誰がカッコいいとか、どのドラマが面白いとか、そんな事が話題に上がる年頃だ。
テレビ全盛期であった事もあり、少ないお小遣いをテレビ雑誌に回し、1クール毎、どんなドラマが放送されるか調べていた。
私の家は、中々厳しいと言うか、厳しくはないんだけども、母親が「コレ!」と決めたルールは絶対で、「10時に寝なさい」と言うお触れが出されていた私は、必然的に9時から始まるドラマしか見られなかった。
「サプリ」は、漫画が原作。オフィスラブを描いたドラマで、伊東美咲と亀梨和也という、当時全盛期の2人が主演だった。
今思い返しても、お世辞にも、「凄く面白い!」という訳でも、「2人の演技が上手い!」という訳でもなかったのだけれど、この「サプリ」というドラマは何故か、私の琴線に触れると言うか、まぁ、ありきたりに言えば好みの雰囲気だった。
内容は、CMプランナーとしてバリバリ働く伊東美咲と、同じ会社にバイトとしてやってくる、年下の亀梨和也とのオフィスラブ。そこに同僚の営業マン、瑛太が加わったり、別の恋愛模様も動いたり。
仕事一筋、恋愛二の次、小綺麗にはしてるけど料理は苦手。
伊東美咲が演じる主人公が、未来の自分の憧れの姿と重なりワクワクした。
ビルの高層階であろうオフィスの窓から、無意識に映る東京の後ろ姿に、期待を膨らませた。
絢香が歌う主題歌も良かった。
「Real Voice」
各回のラストシーン、1番続きが気になる所でこの曲のイントロが流れ、心は昂ったままドラマは終わり、寝る時間がやって来る。
こういう日は、眠れない事が多い。
リビングから聞こえるニュース番組の音。
夏だから、冷房の風が入るようにと、微かに開けた部屋の扉から漏れる光。
布団の中で、今日のドラマのハイライトを思い描いた。そして、来週以降の展開を、自分の都合の良いように妄想しながら、それでも気持ちが落ち着かず、中々寝つけなかった。
翌日から、段々テンションが落ち着いて来て、やっと1週間経つと、学校から帰って来て新聞のTVページで今夜のあらすじを確認し、その少ない文章をもとに、またある事ない事頭の中で妄想した。
あの頃は、ドラマを見るのが楽しかった。
そういう年頃だったということもあるけれど、
今ほど、動画のコンテンツに溢れていなかったし、簡単にネットであらすじのネタバレを見るほどIT系に興味もなかったので、限られた動画を、少ない情報量から、後は想像力を駆使して楽しんだ。
どんなありきたりなストーリーも、好みにさえ合っていれば、この手法を使って楽しむ事が出来た。
最近、久々に「サプリ」を見返した。
相変わらず、特に面白い訳ではなかった。
だけど、見ていると直ぐに、またドラマの世界に引き込まれる。
放送されたのは、今から15年前。
あの頃の私の、ワクワクした気持ちを満たしてあげられなかった今の自分が、少し情けなく思える。
つまりは、欲しいものなんて大して変わらないのだ。
やっと物事が理解出来るようになった小学生から、26歳までの15年間でさえ、大して変わっていない。
そう、変わらない。
どんなに心の中で無視しても、諦めても。
心の底から欲しい物に対する思いは、一旦蓋をしても消え去る訳ではなく、いつかきっと、昔の生々しい感情を伴ったまま、心の中の空間をふっと、埋め尽くす。サプリを飲んでも誤魔化せない、心の奥深くまで。