オーガニック、サスティナブル、トレーサビリティ
草木の生命
『草木は人間と同じく自然より創り出された生物である。染料となる草木は自分の命を人間のために捧げ、色彩となって、人間を悪霊より守ってくれるのであるから愛(なさけを)持って取り扱い、感謝と木霊への祈りをもって染めの業に専心すること』(岡田雨城著『日本古代の色彩と染』)
古代の人々は強い木霊の宿る草木を訳そうとして用い、その薬草で染めた衣服をまとって、悪霊から身を守った。先ず火に精を尽くし、よい土、よい金気、素直な水をもって、命ある美しい色を染めた。すなわち、よい染色は、木、火、土、金、水の五行のうちにあり、いずれも天地の根源より色の命を頂いたというわけである。
筑摩書房 / 志村 ふくみ 著 『色を奏でる』 より抜粋
もう随分前に友人がプレゼントしてくれた本の、この件りがとても好きで過去のFacebookに投稿したものが出てきました。
この本を初めて読んだ時には想像もしていなかったのですが、染色とは違いますがいつの間にか私もこの本に沿ったやり方で植物から精油を取り出し、人の生活に役立てる仕事をする身となっていたのです。
先ず火に精を尽くす
楠山蒸留所では材料を収穫するための森において、道の上にかかりやがて道を壊す恐れのある倒れかかった木や、将来収穫するために育てている木に支障をきたす支障木と呼ばれる木材を薪にして熱源としています。
これは森の手入れをするときに出た木材で、ときには林内に光を当てるために伐るいわゆる間伐材も含めたものも含みます。
更にこの精油を作るときに出た木灰は更に有機無農薬栽培の畑に撒かれたりそのまま森の土に還します。
よい土
この話しは、去年の9月に『ふるさと精油の会』さんに呼ばれて登壇したときにもお話しさせていただきましたが、私の会社で蒸留所を設立するにあたり『よい土』というイメージは正直もっていませんでした。重視したのはよい土ではなく、木の活力を大切にした森づくりをしていることをたよりに探した森でした。
しかしながら、現在の日本でそんな森づくりをメインでしている林業事業体はほぼ見つけられず森探しはとても難しいものでした。(日本にはこんなにも森があるというのに。。。!)
そうしてやっとのことで宮崎県北諸郡三股町というところにあるとある企業の社友林を見つけたのです。ここは宮崎県内だけでも約2,000ヘクタール強の広大な森を管理しながら木材生産を営む林業事業体です。(日本全国の社有林を合わせるとこの4倍の規模の森を有しています。)そして、この森は現代の日本では珍しい近自然森づくりにて施行を行っている珍しい非皆伐(山を丸刈りにすることを主とな施業としない)の森です。
この森では樹木の一本一本に注目し、森を生き物として捉えた林業が営まれています。ここの管理責任者のS氏は森づくりの師匠に『よい材を育てたいならよい土をつくりなさい』と言われたそうです。
蒸留所開設前、そんな森づくりをしているこの森に12ヶ月毎月一週間づつ通って森の中を歩きながら四季を見せていただき13ヶ月目に会社ごと神奈川から移住しました。
そして、一度の蒸留で幾つのことが出来るのかの挑戦をし始めました。
(その挑戦のお話はまたいつか)
よい金気
現代、国産精油の多くがステンレス窯及びIHの熱源で蒸留されています。
でもなぜか私は頑なにこの純銅製のポットスチルを使って蒸留をすることに拘りたかったのです。しかもその当時はコロナ禍ど真ん中でポルトガルからの輸送船が日本に到着するのはいつになるか判らないと輸入業者さんの方から言われましたが、それでも、どうしてもと、この蒸留機を買い求めました。
理由は様々あるけれど一番大きな割合を占めるのは銅の力を信じていたからなのかもしれません。
昔から金銀銅は水や食べ物の毒消しに使われてきました。しかし、金銀はあまりにも単価が高すぎるのと柔らかすぎて道具としては使い物になりません。その点、銅は適度な強度と細工のしやすさがあるため昔からポットスチルに長年使われてきました。それに、私がインドはヒマラヤに住んでいたときにはやはり銅製の水瓶を使って飲み水の保存をしていたのでその溜め水の変化をよく知っていたのもあります。小さい頃から金気臭いものが嫌いなこともあり非常に金気には煩い人になっていたのです。
そして銅製のポットスチルを使い始めて二年ほどしたある日のこと。
日本一水を大切にしている酒造メーカーのウィスキー蒸留技師に出会いそのときに何故ウィスキーを製造するときに銅を使うのか話してもらったことがありました。
それを聞き、自分でも検証してみたくなって使いたくないステンレスIHの蒸留機を20万円も出して購入し、同じ仕様で蒸留機が違うと成果物がどう変わってくるのかを検証してみることにしました。
すると蒸留水の出来が格段に違うことがわかりったのです。
そこでやっと自分の選択は間違いじゃなかったと確信し、とうとう2年8ヶ月をかけて初の楠山蒸留所の製品をリリースすることにしました。
素直な水
蒸留をするにあたり蒸留原料は植物だけと勘違いしている人は少なくない。
でも私はそれは大間違いだと断言します。
水蒸気蒸留法と言いつつも何故水に拘らず、カルキの入った水道水で蒸留するのか私には理解ができないのです。
楠山蒸留所では蒸留をするときには大抵はその植物が育つ環境で一番近しいところの同じ山系からの水を使って蒸留することにしています。
但し、柑橘の場合のみできるだけクセの無いさらさらと素直な甘い水を百キロも離れた場所から汲み運び蒸留。
質の良い天然水がそこかしこから湧き出ている日本に住む日本人として、そして、豊かな森と山からの恵みの水に感謝を捧げる者としてこの大切さを伝えるためにも断固として楠山蒸留所では天然水に拘り蒸留をするのです。
トレーサビリティの意味
オーガニック
サスティナブル
トレーサビリティ。。。
耳あたりの良いこれらの言葉。
トレーサビリティって誰が作ってるのかばかり今は気にするけど本来の意味はなんなんのだろうと生産者になった今、改めて考えてみるとつらつらと綴ったこんなことなのでは無いかと思うのです。
オーガニックと有機無農薬は似て非なるもの。本来オーガニックとは地球全体、もしくは宇宙の営みを一つと捉えているものであり、そのために有機無農薬栽培を用いている。これは目的と手段を取り違えている代表的な間違いの一つ。
森から自然に生えている植物をその成長速度を追い越す勢いで乱獲し、サスティナブルを謳う精油業者は数知れず。
『ナチュラルな天然素材の優しいもの』を生産するために自然破壊をしていませんか?それを確かめる方法は簡単。年々収穫するのが大変になってきたと感じている業者は乱獲及び自然破壊を疑った方がいい。
人間の経済のためだけに色々なことを言い連ね植物を命なきもののように採取するのは本当にやめてほしい。彼らだって必死に生きているのですから。
トレースするのであればもう少し頂いているその命のことにも心を伸ばして触れていたいといつも思うのです。