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狩り

『FlyFisher』2012年9月号掲載

先日、映画『ディア・ハンター』を鑑賞していて驚くべき事実を知ってしまった。ディア・ハンターとは「Deer Hunter」つまり「鹿狩り」のことだったのだ。
子どものころに観てからずっと「dear hunter」だと思っていた。
「親愛なるハンター」
当然映画には親愛なるハンターさんは出てこない。ピッツバーグに住む若者たちがヴェトナム戦争に出征し、帰還してもなお過酷な運命を辿る問題作だ。
この『ディア・ハンター』は父から教えてもらった。
小学生だった僕は、お年玉で44マグナムのエアガンを買って悦に入っていた。買ったエアガンを父に見せると、父はおもむろに手の平で銃をクルクルとまわし始めた。西部劇でのガンプレイを得意げに見せ始めたのだ。
僕には父がとても格好良く見えた。
「弾は出るのか?」と聞いてきたので僕は弾を差し出すと父は一発だけ手に持ち、手慣れた手つきで銃のシリンダーを開けて言った
「タケシ、ロシアンルーレットって知ってるか?」
僕は何のことかわからず父を見ていると父がシリンダーに一発だけ弾を装填し、掌でシリンダーを勢いよく回して手首のスナップで銃に収めた。あまりにもスムーズな動作を羨望の眼差しでみていると、父は銃口を僕のこめかみに向けた。
「ディア・ハンターって凄い映画があって、このロシアンルーレットが凄いんだ」
と言って引き金を引くと僕のこめかみは激痛に襲われた。映画ならそこで終わりである。
そんな親愛なる父に一言伝えたい。
「映画では人に向けるのではなく、自分に向けるんだよお父さん」

「狩り」と云えば、服部文祥氏の『狩猟サバイバル』という本がある。服部氏の前作『サバイバル登山家』では「自然にフェアでありたい」としてテントや食料、燃料を持たず、身一つで登山や縦走を行う服部氏に度肝を抜かれた。
以来、このネジが数本抜けた人物に惹かれた。そして『狩猟サバイバル』ではやはりというか、食料調達の究極としての「狩り」の世界に踏み込んでいた。帯文のコピーは「狩猟登山はじめました」。まるで定食屋の冷やし中華のごとく軽々とチャレンジする服部氏に畏敬の念を抱かずにいられない。本書で服部氏は「撃った獲物を回収して、解体して、食べ尽して漁師になる。それは獲物を殺す者の責任でもある。生きることの実感を求めてサバイバル登山を始めた。(中略)自分の食べる肉は自分で殺したケモノであるべきだと思ったからだ」と語る。
しかし、服部氏は「そんな自分に酔っていた」と反省するように、狩猟の世界の厳しさが服部氏を待っていたのである。『サバイバル登山家』と合わせてお読みいただきたい本である。

「狩猟本能」とは釣りの面白さを表現するときによく使われる。しかし、狩猟とは生きるためにする「狩り」であり、釣りはどちらかというと「ハンティング」ではないだろうか。
子どものころ、夏休みになるとカブトムシやクワガタを取りに出かけた。それは子どもにとっての「ハンティング」であった。誰にも秘密の採集場所があって、取った昆虫の数や大きさが子どもたちにとっての勲章だった。
そこにはお金で手に入れた昆虫は認められない。そんな行為は恥ずべきことだった。
 夏休みに母の実家である北海道にある叔母の家に数日滞在することになった。そこは子どもにとって楽園であった。ミヤマクワガタが捕れたのである。ミヤマクワガタは地元では採れないので確実にヒーローなれるのである。僕は興奮した。「早く地元に帰って友達に自慢したい」

待望の滞在最終日、叔母との別れの挨拶でかなりの額のおこずかいをもらった。
そして叔母はこう付け加えた。
「タケシが採った虫は全部売れたよ。よく頑張ったなぁ」


『ディア・ハンター』
1978年 アメリカ映画
監督:マイケル・チミノ 
出演:ロバート・デニーロ、クリストファー・ウォーケン

『狩猟サバイバル』
服部文祥/〔著〕
みすず書房 2,592円 ISBN:978-4-622-07500-4

『サバイバル登山家』
服部文祥/〔著〕
みすず書房 2,592円 ISBN:978-4-622-07220-1


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すずきたけし
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