戦略性と遊びやすさを両立させるゲームデザイン:エレガントなゲームとは?
※この記事の旧タイトルは研ぎ澄まされたゲーム、「エレガントなゲーム」をデザインするためにはとなっています。
はじめに
はじめまして、もしくは再度いらしてくださりありがとうございます。
カクマルゲームズのカクと申します。
相方のマルと2人でカクマルゲームズというサークルでボードゲームを作っています。
この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2024」の17日目の記事として書かせていただきました。15日には既に相方のマルが「ゲーム終盤をもっと楽しくするゲームデザイン:エッジ効果の原因と解決策」というテーマで記事を書いてます。
今回の記事とも一部関係する場所がございますので、気になる方は是非お読み頂ければ幸いです。(現在お読みの記事は、こちらの記事を読まなくても大丈夫な構成になっていますのでその点はご安心を)
この記事は主にゲームデザイナーの方向けの内容となっていますが、ゲームデザイナーって何を考えてルールを作ってるのかを知りたい方にも楽しめる内容だと思います。
では、前置きはこれくらいにして、長い長い「エレガントなゲームデザイン」の話をはじめるとしましょう。
1.エレガントなゲームデザインって何?
「エレガントなゲームデザイン」という言葉
「エレガントなゲームデザイン」という言葉を聞いたことはありませんか?
ゲーム関連の書籍やニュースサイトのコラムを見てみると、多くのゲームデザイナーが「エレガントなゲームデザイン」という言葉を使っていることがわかります。このことからも、この言葉がゲームデザインを考える上で重要な概念の一つであることが伝わってきます。
「エレガントなゲームデザイン」という言葉からはポジティブな印象を受けますが、彼ら一流のボードゲームデザイナーの言わんとする意味を正しく掴めているかというと、やはり多くの人はなんとなくなのではないでしょうか?(僕もそうでした)
しかし当然ながら「エレガントなゲームデザイン」は、ゲームにポジティブな印象を与えるためだけの飾りの言葉ではありません。
意識することでゲームデザインの質を高めることができる非常に重要な概念であり、これをなんとなくで済ませるのは正直もったいないです!
そこで本記事では、「エレガントなゲームデザイン」がどのような意味で使われ、その概念がゲーム体験にどのような影響を与えるのかを紹介し考察していきたいと思います。
さあ、一緒にエレガントなゲームをデザインしましょう!
そもそもエレガントってどういう意味?
一般的に、エレガントは「美しい」「優雅さ」という意味で使われることが多い言葉です。
しかし「エレガントなゲームデザイン」とは「美しい・優雅なゲームデザイン」です!とするとだいぶ漠然としており、さすがに名だたるゲームデザイナー達があえて自らのこだわりに対して使う言葉とは思えません。
(スゴい!カッコいい!と同じくらいの何にでも使える褒め言葉に感じられます)
とすると考えられるのは、おそらく言葉の意味やニュアンスが「美しい」や「優雅」だけに留まらず、もっと深い意味合いがあるということです。
そこで「エレガントなゲームデザイン」の理解のため、まずはエレガントという言葉の語源を辿ってみるとしましょう!
エレガントという言葉の語源はラテン語のエルグレ(Eligere)から来ています。
この言葉はe(外へ) + legĕre(集める、選ぶ) から成り立ち、原義的には「厳選する・精選する」という「選ぶ」ことを意味の中心としています。
つまり元々は「注意深く選び抜かれたもの」への形容として「美しさ」や「優雅」なものと捉えられる言葉と考えられています。
実際、多くのゲームデザイナーが語る時のエレガンスという言葉は、ゲームデザインをルールやコンポーネントの選択の末に洗練させる行為の象徴として使われていることが見て取れます。
目指すは選び抜き、複雑さを削ぎ落とし、シンプルながらも深みのあるゲーム体験。
デザイナーがプレイヤーにどのような体験をしてほしいのかを徹底的に研ぎ澄ませ、デザインに一貫性と美しさが宿らせること。それがエレガントなゲームデザインという言葉の真の意味なのでしょう。
じゃあ何を注意深く選び抜き、何を目指せば良いのか?
前章にて言葉の意味はわかりました。
しかし、闇雲にルールを最小限にすればいいのか、コンポーネントを少なくすればいいのか?それは「研ぎ澄ませる」というより、完成形が見えないまま、ただゲームを細かく切り刻んでいるだけなのではないでしょうか。
選択するという行為にデザイナーとしての創意を加えるには、明確な目的地を定める必要があります。
そこで、指針となるものとして、ゲームデザイナーのベン・ブロード氏が「MARVEL SNAP」について語った以下の言葉があります。
(記事のタイトルはなんと"[インタビュー]「MARVEL SNAP」を手掛けたカードゲーム界のレジェンド,ベン・ブロード氏が考える“エレガントな”ゲームデザインとは"です。まさに求めているそのものですね!)
ベン・ブロード氏は「シンプルなルールで戦術性を実現し、ストレスなく遊べること」が最善のエレガントなゲームデザインであると語っています。
前章で書いた「注意深く選び抜かれたもの」という意味から見ても、複雑なルールやシステムを詰め込むだけの容易な道は選ばないというデザイナーとしての強いこだわりを感じ、僕個人として、そしてカクマルゲームズとしてこの定義に強い共感があります。
それではここで語られた「戦術性のあるシンプルなルール」と「ストレスなく遊べるルール」とはどのように実現していくべきなのでしょうか?
2.戦術性のあるシンプルなゲームルールは何だ?
シンプルなルールを実現するためにはアクションを選びぬかなければならない
ひとえにゲームのルールといっても、その言葉が示すものは非常に広い範囲であることはゲームデザイナーの皆様ならば重々承知でしょう。
単なる説明書の文字の量だったり、多様な効果のあるカードの数々だったり、盤面の駒の数だったり、デッキ内のカードの枚数だったり……それら全てが絡みあって一つのゲーム全体が駆動するのですから、眼の前の問題の解決にどこから手を付ければいいのかと途方に暮れたことが一度はあるのではないでしょうか?
実はほとんどのゲームでプレイヤーが戦術を巡らせ実現するための共通のタイミングがあります。
それはアクションです。
カードを出す。コマを進める。トークンを配置する。
プレイヤーは必ずと言っていいほどアクションを通じてゲームを体験します。
アクションの選択肢の数、アクションに求められる前提知識、アクションを行うタイミング。
これらが多様化するほど、それに伴う前提知識も増え、プレイヤーは本当にアクションを行ってよいのか迷うようになります。その結果、ルール違反による大きな損失を恐れて疑心暗鬼に陥り、ゲームが台無しになることを避けようと萎縮してしまいます。
プレイヤーがゲームに感じる難解さは、ほとんどの場合アクションの選択肢と結果の分からなさにあります。
「このゲーム難しそうだしちょっと……」デザイナーが恐れるこの言葉に立ち向かうために、アクションを理解しやすく、そして深みのあるものにする考察を進めていきましょう。
アクションを選び抜くための2つの観点
戦術性のあるシンプルなゲームルールを実現するために、僕らが重要だと考えている観点は大きく分けて2つあります。
ゲームが常に進行し、停滞の無いゲーム体験であること
アクションに攻防一体の意味を持たせられること
それでは、それぞれに対して、僕らなりの考察と実践の方法を掘り下げていきます。
ゲームが常に進行すること、停滞の無いゲーム体験であること
ゲームの進行が停滞すると、繰り返しの中でひとつひとつの行動が乱雑になり、体験が単調になり、ゲームの勝利への興味が薄れたり、ゲームに対する思考に価値を見いだせなくなってしまいます。
特にゲーム終盤では、必然的な勝利の道筋や敗北の回避の手順が明確になりやすいため、選択の余地が消えてしまったり、相手に勝つことよりも今まさに負けないための行動(妨害)しかできずに進行が遅れ停滞が発生しやすくなります。
例えば、ゴールに近づけず同じ行動を繰り返す状況や、勝ち目がないと明らかになった場面では、プレイヤーは疎外感を覚えたり、「早くゲームが終わってほしい」と感じてしまいます。このような状況では、みんなで遊んでいるはずのゲームに関与できてないと感じてしまうでしょう。
停滞は選択肢を奪い、戦術を思考する価値を失わせます。
これを防ぐためには、戦略的な選択を促す新たな要素や、ゲームが進行を続けるためのメカニズムを設計に組み込むことが必要です。たとえば、固定化した盤面のリソースを再配置する仕組みや、次の行動を限定しない柔軟なルールを用意することが効果的でしょう。
理想は全てのプレイヤーの行動が新しい展開を生み出し続ける可能性を秘めていること。
マンネリは面白さの敵です。
ゲームの序盤の行動に選択の意味がないのならばもっとゲーム展開を加速するかショートカットするテコ入れがいるかもしれません。
ゲームの終盤が選択の意味のないゲームになっているならば、そのゲームを楽しむために終わるべきタイミングはもっと早いかもしれません。
何にせよ、理想は全ての選択に意味を持たせてあげることです。
といった内容の詳細に関しては、マルが書いたエッジ効果に関しての記事に詳しく書いてありますのでそちらをご覧ください。
1つのアクションに攻防一体の意味を持たせる
プレイヤーにとって重要なのは、選択肢の数ではなく、選択肢に意味があることです。
この一手でゴールに歩みを進める
この一手で相手を妨害する
この一手で、次の自分の行動の幅を広げる
プレイヤーは色々な意味を1つのアクションの中に思考します。
しかし先の章で話したように、最初は幅広くアクションを行えたはずなのに、ゲーム展開の進行は勝利や敗北へ向けてその選択肢を狭めていきます。
これはゲームルールとして、いくら行えるアクションの種類を増やした所で避けられない、勝敗を決するゲームというものの必然です。
100種類のアクションがあっても、勝つ/負けない為にはたった1種類のアクションを行うしかない、この時ゲームは選択の意味を失います。
特に攻撃と防御にアクションが分断されているとき、この問題は非常に大きくなります。
極端な例として以下のような2人対戦ゲームの展開をシミュレーションしてみましょう。
2人対戦ゲームで、プレイヤーBが優勢な状況。プレイヤーAはBの大攻勢に対して「攻撃」か「防御」を選ばなければならない。
この状況に対しAが防御を選ぶと、Bはそれを見て再び攻撃を仕掛ける。
Aはまた防御を選択。Bはそれを見て攻撃を……以下エンドレス。
もしかすると、皆さんもゲーム中にこのような場面に遭遇したことがあるかもしれません。
これは一例ですが、ゲーム内における攻撃と防御のアクションの分断が行き着く先は、先に述べた選択の意味の消失とわかると思います。
ゲームの展開上、選択肢がどうしても狭まってしまう場合、ゲームデザイナーはどのように対処すればよいのでしょうか?
答えはシンプルです。1つのアクションに複数の意味を込められるようにしましょう。
これは先に述べたゲームが常に進行すること、停滞の無いゲーム体験であることの鉄則です。
全てのアクションに対して、何かしらプレイヤーが勝利に向かって進行する要素を含んでいる、もしくは含ませる選択肢を加える事で、ゲーム進行の停滞を阻止するようにルールをデザインしましょう。
1つのアクションで攻撃と防御が同時に行えるようにすることで、プレイヤーの行動に多面的な意味を持たせ、選択肢に意味を持たせましょう。
戦術性のあるシンプルなゲームルールの実現には、無数のアクションのアイデアを凝縮し、たった1つのアクションでその意図・意味を実現可能なようにまとめることが重要だと僕らは考えてます。
そうすることで、プレイヤーは単一の行動から多様な戦略を考慮し実現することができるようになり、ゲーム展開を起伏の富んだ思考する価値のあるものにできるはずです。
3.ストレスなく遊べるルールとは?
「ストレスなく遊べること」=ルールの認知が軽い事
あなたが初めて遊ぶゲームでストレスを感じるのはどういう状況でしょうか?
その状況を考えるために、まず初めてのゲームで遊ぶ光景をシミュレーションをしてみましょう。
あなたがゲームを遊ぶならば、少なくとも勝つ戦術を考えるはずです。それが初めてのゲームならば、考えた戦術がルール的に実現可能なのか検証する必要があります。
ゲームの勝利条件
自分の手番にできるアクション
自分が利用できるリソース量
補充される予定のリソース量
アクションで扱うコマやカードの効果
他のプレイヤーの人数や手番
他のプレイヤーが行うであろう行動の予測
ゲームが終了するまでの時間
まず検証するとしたなら、こんなところでしょうか。加えてその実現しようとしている戦術が、本当に他の戦術に比べて強いのかどうかも検討する必要があるでしょう。
前提となる戦術とルールとの整合性の確認、そして実現性の確認の思考は、これらの項目の全てが相互に影響し合うことを考えれば非常に複雑な作業だということがわかります。
それに加え、覚えきれていないルール(初めてのゲームならばとても多いはずです)がある場合、都度ルールブックを読み既存の知識との兼ね合いを検討する必要があります。
できるかも分からない戦術の実現性を検証し、さらにそれらの戦術の強さを比較する作業は、前述した複雑な作業が無駄な思考に終わるかもしれない、ましてやプレイしながらそれを考える状況は、プレイヤーにとって大きなストレスとなるのは間違いありません。
そうして考えた戦術を実践し、上手く行けば楽しい、他のプレイヤーと競り合えばもう一回やりたい、まったく上手くいかなければ……よく分からなかったとなるのが正直な所ではないでしょうか?
果たしてデザイナーはこのストレスや分からなさをどうやってゲームから取り除けばいいのでしょうか?
まず考えられるストレスを生み出す要因は思考のマルチタスクです。
前の章で述べたように、プレイヤーの望みは意味のある選択肢から自分で価値があると思った道を選び取ることです。
つまるところ、プレイヤーは勝つために選択肢を思考することは望むところなのですから、ストレスの原因はその選択の邪魔になる思考となります。
そういった視点で、先程の初めてのゲームプレイのシミュレーションを振り返ってみると、一貫してゲームの戦術とは離れた思考が存在します。
それは、プレイヤーがルールに対する検証と確認をしている部分です。
プレイヤーがゲームのルールを理解し、確認する必要もない程度に操作できていれば、あいまいなルール確認の思考の往復や、ひらめいた戦術への不安をぐっと減らすことができます。
まるで自分の手足のようにプレイ中のアクションを実行できることは、ストレスフリーなゲーム体験を実現するための重要な要素です。
もちろん、何度もゲームをプレイしたり上手な他人のプレイを見て、ルールやゲーム展開の機微を覚えることができればいずれこの問題は解決します。
しかしデザイナーとしては、ルールを素早く理解できるように工夫し、操作を直感的にすることで、プレイヤーをいち早く(可能ならば最初のゲームプレイの早い段階で!)このような上手いプレイヤーと同等の状態に近づけるようにしたいものです。
そのためには、ゲームの操作やルールが日常の経験に基づいて直感的であることが必要です。
例えば「リバーシー」では、自分の色のチップで相手の色のチップを挟むことで相手のチップをひっくり返すという一連の流れがルールとして明確で、ボード上での色の割合が現在のどちらが有利かという情報を直感的にプレイヤーに与えてくれます。
またテーマ・世界観・ナラティブ(当事者目線からの物語性)も直感的にゲームの流れを理解するために重要です。
「カタンの開拓者たち」では、プレイヤーに「開拓者」という役割を与えることで、資源カードを集めて交換し、道や街を建設するというルールが、ゲーム上与えられる「役割」に直感的に繋がっており理解しやすいルールになっています。
経験的にも物語的にも直感的に正しい行動をゲームのルールにすることで、プレイヤーは迷いなく行動を選択でき、没入感を一層高めていることがわかると思います。
理解しやすいルールの仕組みを考えることは、熱中できるボードゲームを作りたいゲームデザイナーにとって考える価値のある事柄であることは間違いありません。
ルールを理解する時に頭の中で起きてること
では、どのようにルールの認知負担を軽くすれば良いのでしょうか?
そのためには、まず「ルールを理解する時に頭の中で起きてること」を把握する必要があります。
そして、その理解を深めるために、心理学用語である「メンタルモデル」という概念を知ることが重要です。
メンタルモデルについて書籍「使える脳の鍛え方_成功する学習の科学」では以下のように紹介されています。
具体例も踏まえて簡単にメンタルモデルを説明すると、それは「ある仕組みやシステムがどのように動くかを頭の中でイメージする枠組み」のことです。例えば、ライトのスイッチを押すと光が点くという直感的な理解もメンタルモデルの一例です。
何をすれば何が起こるかを理解していることがメンタルモデルを構築するということ。
言葉にすれば当たり前ですが、「当たり前だよね」と思える構造を意識し、破綻のないゲームルールを作るのは意外と難しいものです。
メンタルモデルが容易だと何が嬉しいのか?
メンタルモデルが構築しやすい場合、以下のメリットがあります:
ルールを覚える速度が向上する
推論の構築が簡単になり、ゲームプレイの戦略性が増す
例えば、ゲームの世界観やルールが現実の経験と一致している場合、プレイヤーは現実の経験をもとに行動の結果を予測しやすくなります。
そのため、ルールを覚える際もスムーズに受け入れることができます。
プレイヤーがルールをスムーズに理解し、特別な注意を払わずに扱えるようになると、ゲーム内での選択や戦略をよりスムーズに構築できるようになります。
その結果、ルールに気を取られることなく、戦略や戦術を考える時間が増え、ゲームに没頭できるようになります。
それでは、このメンタルモデルをどのようにして容易に構築できるようにするのか、その具体的な方法を考察していきましょう。
4.メンタルモデルを容易に構築できるようにするにはどうすれば良いのだろうか?
世界観に対しルールが整合性を持ち、期待される動作と一致すること
世界観に対しルールが整合性を持っていると、プレイヤーは直感的に行動を起こすことができ、自然にゲーム内での操作やそれが起こす結果を学習することができます。
例えば、車の窓の開閉スイッチを下に押すと窓が下にスライドし開く、上に引くと窓が上にスライドし閉じていくような設計。これはスイッチの上下と窓のスライドの上下の一致という整合性で使用者のメンタルモデル構築を助ける好例です。
広い会議室の電灯の複数のスイッチは、下側が部屋の手前側の電灯、上側が部屋の奥側の電灯に紐づいていることが多くなっています。これは部屋の構造とスイッチの配置を対応させ、使用者にスイッチと電灯の紐づけを意識させるメンタルモデルを用いています。
こういった現実世界での経験に基づくデザインは、意識してみると日常的の中にいくつも存在しています。意識しなくても使えているものがあればメンタルモデルが構築しやすい良いデザインだ!と認識して覚えてみると意外と色々なことに使えます。
逆に使いにくいなぁと思ったものに対して、自分はどうなると思ってそれを使用するつもりだったかを意識し、メンタルモデルを構築しやすいより良いデザインを考えるのも面白いです。
またゲーム中の現実ではない世界観でも、自分から見たその世界の常識がゲームのメンタルモデルの構築を助けてくれます。
例えば、先の章で紹介した、「カタンの開拓者たち」では、開拓地という世界観と「開拓者」の役割で、最初は何もない「開拓地」をより充実した場所にするのが自分たち「開拓者」の目的だと自然に伝わります。
他には手前味噌で恐縮ですが、僕らの作ったゲームでは「フリッカーレールズ」というゲームでは、「リバーシー」という広く知られたゲームルール(つまり多くの方にルールのメンタルモデルが構築されているゲーム)をアクションのメンタルモデル構築の助けとし、チップのデザインに線路を使用することで、線路は長く繋げるものという世界観とゲームルール上の目的が自然に受け入れられるようにデザインしています。(信号チップや環状線ルールなども同様です)
他にも、「ハックガード」はハッカー同士のハッキングバトルなので、相手のサーバーに侵入することが勝利条件となっています。また、防御の為にバッチチップというセキュリティを用いることと、前のターン以前に設置された古いセキュリティは攻撃の際に逆に利用できるセキュリティホールになるなど利益になることも不利益になることも、世界観に対応した納得感を感じられる事を意識してデザインしています。
僕らのゲームをどう感じるかはプレイヤーの皆さんの感想をお待ちするとして、遊びやすい!と感じるゲームはどれもこういった、世界観や現実に対応した一貫性のある納得感を与えるデザインを取り込んでいるのは間違いないでしょう。
ひとつひとつのルールを、当たり前と感じられるように細かい納得感を積み重ねることは、地道で大変ですし、作ってるゲームのことを考えすぎていつの間にか自分の中にできた当たり前を疑う作業なので、たまに作った全てを台無しにしたくなるほど苦しいのですが、ゲームの理解を直感的にするには欠かせない作業です。
まして、こうしたメンタルモデルの構築を容易にするための仕組みが、ゲームプレイの余計な思考を排除し、多くの戦略へ思考を生み出すことに繋がり、プレイヤーをより深く没入させる助けとなると考えると、作ったゲームをより楽しんで欲しいゲームデザイナーの皆様としては考える価値を感じていただけるのではないでしょうか。
なんにしても、プレイヤーが期待する動作とゲーム内の挙動が一致していることで、ゲーム体験はよりシームレスになります。
プレイヤーに何を期待させ、プレイヤーが何どう動かそうと思うのか、それを論理的に考えてゲームをデザインしたいものです。
5.でもエレガントなこと自体が大切なんじゃないんだ
最後になりますが、ここまで読んでいただいた方に少しだけ、僕らカクマルゲームズのゲーム開発スローガンのようなものをご紹介させて頂ければと思います。
それは「そのゲームを遊ぶ人にどんな体験をさせたいの?」です。
「エレガントなゲームデザイン」は僕らカクマルゲームズのゲーム開発中の基本理念みたいなものなのですが、あくまでこれは、ゲームの核となるプレイヤーに僕らが感じて欲しいゲーム体験をよりダイレクトに感じてもらうためにルールを研ぎ澄ます指針です。
できるからと言って、ルールとしてスマートでスムーズだからと言って、研ぎ澄ませては行けない部分もあります。
例えば、TRPG(テーブルトークRPG)では、ロールプレイングが醍醐味です。目的地のゴブリンの洞窟は拠点となる酒場から馬車で3日、野営のためのテントや保存食買って夜の見張りの順番を決めて……あーこれどうやるんだっけ(数百ページのルールブックをめくりGMに聞く)これを数時間。無駄な時間じゃないですか!?依頼受けたら目的地まで自動で移動しましょうよ!と言ったら、まあ興ざめです。
やれることを探求すること、目的に対してあーだこーだ話し合うこと、そういう時間というふんわりしたロールプレイ体験がしたいのにそれを削ったら体験が消滅します。
これは極端過ぎる例ではありますが、デザイナーが考えていたものが手順が複雑であることを楽しむというゲーム体験だった場合、手順を省略しては元も子もありません。
そう、何よりも優先すべきはどんな体験をさせたいかです。
プレイヤーは考えることは嫌いではありません、むしろ大好きです。
大好きだから考えごたえのある、やりがいのあると思ったゲームを買って遊んでくれるのです。
デザイナーとしてプレイヤーに体験して欲しいものを納得できる形で体験してもらうために、困難や挑戦をデザインに組み込み、その体験の価値を下げることがないように、ゲーム体験の核を維持しながら極限まで「シンプルなルールで戦術性を実現し、ストレスなく遊べること」を目指す。
それが研ぎ澄まされた「エレガントなゲームデザイン」の核心と言えるではないでしょうか。
さいごに
ここまで「エレガントなゲームデザイン」に関する、長い長い記事をお読みいただきありがとうございました。
読みにくい部分、疑問点もあるでしょうが、ご感想と一緒に指摘や質問を頂ければ幸いです。
この記事が読んでくださった方の一助になってくださることを切に願います。
また新しいゲームによる素晴らしいゲーム体験の一雫にでもなれば望外の喜びです。
ゲーム作りましょう!!!!楽しいですよ!!!!!
#アドベントカレンダー
#BGDAC
#ボードゲームデザイン
#アブストラクトゲーム
#カクマルゲームズ
#KakumaruGames